イケメン俳優がカッコいいのなんて当たり前。むしろテレビドラマやテレビCMでは観られないヤバい佇まいや振り切れた表情を観られることが、映画の醍醐味の一つだと思うのです。そこで、今回、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信されている作品の中から、魅力あふれるクズ、狂気、おバカなどの怪演ぶりが堪能できる5作をセレクト。その中でも多様な怪演を一度に楽しめる贅沢な一作をご紹介します。
◆『散歩する侵略者』(2017年)
宇宙人の松田龍平・高杉真宙にハセヒロ大混乱!
映画『舟を編む』(2013年)やドラマ『カルテット』(2017年、TBS)などの松田龍平、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』主演中の長谷川博己、『仮面ライダー鎧武/ガイム』(2013年~2014年、テレビ朝日)『サギデカ』(2019年)などの高杉真宙と、その演技派ばかりの人選だけでもセンスを感じるのに、彼らが演じるのは「地球を侵略しに来た宇宙人」と「巻き込まれて宇宙人と行動を共にするジャーナリスト」。なんだかおもしろそうな気配が漂います。
とはいえ、宇宙人による地球侵略ということで、壮大なSFスペクタクルを期待すると、拍子抜けするかもしれません。なぜなら、これは会話中心に進み、一貫してゆるりとしたユーモアと底知れぬ不気味さ・不穏さ・恐怖に包まれた物語だから。そのキモはなんといっても、日常的な「散歩」と非日常の「侵略者」というイメージのあべこべ感でしょう。
ある日、数日間行方不明になっていた夫・真治(松田)が、別人のようになって妻・鳴海(長澤まさみ)のもとへ帰ってきます。しかし、雑誌も逆さまに持ち、歩くこともままならず、会社を辞めて毎日散歩に出ては、草むらに倒れていたり、犬に話しかけてボロボロになっていたりする真治に、鳴海は戸惑うことに。
時を同じくして、町では一家惨殺事件が起きており、ジャーナリストの桜井(長谷川)はひょんなことから天野(高杉)という謎の青年と共に、その事件のカギを握る少女あきら(恒松祐里)の行方を追うことになります。そして、街には様々な奇妙な現象が起こり、不穏な空気が漂う中、ある日、鳴海は真治から突然「地球を侵略しに来た」という告白を受けることに。
序盤では、夫の不倫を知り、腹を立てていた鳴海は、何もできなくなってしまった夫に「ガイド」を頼まれ、「いやんなっちゃうなぁ!」と怒りつつ、行動を共にします。しかし、宇宙人にのっとられた真治は、まるで幼い子のように鳴海の言うことを聞き、かつては嫌いで一切に口にしなかった料理も「美味しい」と言って食べるなどの変化を見せ始めます。立ち姿も歩き方も、所作の一つ一つが、どこか奇妙で人間ではない何かに見える真治ですが、無表情な中に少しずつ優しさ・穏やかさ・人間味を獲得していく可愛さときたら。むしろ鳴海にとっては、人間の真治の上位互換のようです。そんな変化に対応し、鳴海も次第に「侵略」という非日常に巻き込まれながら安堵の表情を見せるようになります。
一方、天野の「ガイド」を務めることになった桜井は、残虐な宇宙人にドン引きしたり、自分を利用しようとする政府に怒りを覚えたりしつつ、自ら進んで「侵略」という非日常の中に没入していきます。可憐な少女のような雰囲気ながら、人間の業を冷静に客観的に見て、興味津々に楽しんでしまう天野の無邪気な怖さは、高杉真宙の真骨頂。
そして、人間側との板挟みになりつつ、宇宙人たちとの間で奇妙な絆を育み、「侵略」に手を貸す桜井。人間側からの爆撃を受けつつ、笑顔で駆け抜け、人体と思えない角度に足が曲がった状態で歩くとき、ハセヒロの魅力が最大限に引き出されていました。NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018年~2019年)で見せたマッドサイエンティストぶりや、『劇場版MOZU』の「チャオ!」を思い出させる狂人ぶりです。
ところで、真治も天野もあきらも皆、地球を侵略にした「宇宙人」で、彼らは人間たちから次々にあるモノを奪います。それは命ではなく、「家族」「自分」「仕事」といった「概念」でした。
面白いのは、「概念」を奪われた人達が皆、その瞬間に無意識に喪失の涙をこぼすものの、何かから解放されたかのように呆けた笑みを浮かべたり、幸せそうな表情を見せたりすること。特に、引きこもりだった男性(満島真之介)などは、「所有の『の』」の概念を奪われたことから、「自分の権利を主張し合うことが戦争の原因になる」と「反戦」を街頭で主張し始めます。満島真之介の生気溢れるイキイキした目は、まるで偶然映り込んでしまった"ヤバい人"のようです。
ちなみに、これは前川知大率いる劇団イキウメの同名名作演劇を、黒沢清監督が映画化した作品。侵略者が「未知のウイルス」と説明され、それにより世界が大混乱へ向かうなか、世界が崩壊する危機寸前で「人類がもう一度、考え直すきっかけになった」という結びは、今観ると改めて現実世界とのリンクに、ゾッとさせられるかもしれません。
【その他のおすすめ作品!】
◆『娼年』
松坂桃李の迷いや虚無感、心の闇に漂うエロス
◆『アフロ田中』
松田翔太の愛すべきおバカ妄想力に癒される
◆『劇場版 MOZU』
血まみれの西島秀俊、狂気の桃李・ハセヒロは眼福
◆『ピース オブ ケイク』
だらしなくてクズで可愛い綾野剛を何度も味わいたい
【Paravi映画祭り 特集ページ】https://www.paravi.jp/static/cp/eiga/
(C)2017「散歩する侵略者」製作委員会
(C) 石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
(C)2012 のりつけ雅春・小学館 / 「アフロ田中」製作委員会
(C)2015劇場版「MOZU」製作委員会 (C)逢坂剛/集英社
(C)2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会
(文:田幸和歌子)
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