「お母さん」ってなんだろう? メイ(多部未華子)がナギサさん(大森南朋)に求めているものはなんなのだろうか。

急転直下のプロポーズで終了した第8話。そのラストを見て、人と人が共に生きていくうえで必要なものは何かを思わず考えてしまった。

メイにとって手放してはいけない人は、ナギサさんだった

突然浮上したナギサさんの本社異動の人事。「私がここに来られるのは今日で最後です」。そう聞かされたメイは動揺のあまり、ナギサさんにプロポーズをする。

「ナギサさんがいなくなったら、この部屋はどうなるんですか。私、絶対また秒で荒らしますよ。ご飯だってレトルトとかコンビニ弁当ばっかりに戻っちゃうし、イヤリングなんてきっと永遠に行方不明です」

不意を突かれてメイから出てきた言葉は、「生活」に関することばかりだった。

この8話を通して、メイは選択を突きつけられてきた。ナギサさんから「メイさんの気持ちを整理整頓することは、メイさんにしかできないことです」と言われ、若い頃はひとりで肩肘張っていたが夫と出会ったことで笑顔になれたという古藤(富田靖子)からは「そういう人は絶対に手放しちゃダメよ」とアドバイスされる。

そして、いつもの時間に帰ってきてもナギサさんのいない部屋を見て、メイは知る、自分の生活にどれだけナギサさんが必要だったのかを。手放してはいけない人と言われて真っ先に浮かんだのは、ナギサさんだった。

ナギサさんは「イマジナリーお母さん」のままで本当にいいのか

その一方で、メイがナギサさんを恋愛対象として意識している様子はやはりないようだった。メイにとっては、ナギサさんは依然として「お母さん」。それも、小言を言わず、不要なお説教や干渉はせず、相談には乗ってくれて、自分の生活をサポートしてくれる、都合のいい「お母さん」だ。

実在の「お母さん」は、こんなにいいものじゃない。部屋が荒れてたら文句も言うし、娘が心配だからあれこれ口も出すし、喧嘩にもなる。そういう厄介さを全部取り除いた、ある意味「イマジナリーお母さん」としてナギサさんのことを見ているように感じる。でもそれを理想とされたら、本当のお母さんはたまったものじゃないだろう。いいお母さんとは、決して便利屋じゃない。

説明会に必要なタブレットを持ってきてもらったり、田所さん(瀬戸康史)の部屋の掃除をお願いしたり。メイはナギサさんをもはや家政夫さんというより便利屋さんとして見ている気がするのだけど、本当にこういう状態で結婚なんて決めていいのだろうか。これが男女が逆なら、妻を家政婦としか見ていない前時代的な夫像と変わらない。

もちろん結婚関係に恋愛感情はマストではないと思う。いろんな夫婦のかたちがあっていい。ときめきじゃなく安らぎを配偶者に求めるのも、尊重されるべき選択のひとつだ。

そのことを前提とした上で、今の依存的な関係ではなく、自立したメイが生活の共同パートナーとしてナギサさんを選択できればいいのだけど、さあどうなるか。次回はついに最終回だ。予告では4日間のトライアル結婚生活をスタートさせたメイとナギサさんの様子が描かれていた。ベランダから手を振ったり、頭ポンポンされたり、いわゆる甘〜〜い新婚生活が盛り込まれていたが、この4日間のトライアル結婚生活を経て、メイが何に気づくかが最終回の焦点だ。

薫(高橋メアリージュン)との会話でも明かされていたが、メイはずっと男性を競争相手としか見ておらず、人を好きになる気持ちがよくわかっていなかった。メイにとって、ナギサさんは初めての競争相手ではない男性だったのだろう。そう思えることが、メイにとっての「好き」なのか。あるいは、もっと別の「好き」がメイの中にもあるのか。それが見える最終回であればいいな、と今から楽しみにしている。

最終回でメイは誰を選ぶのか? それとも誰も選ばないのか?

一方、田所さんは残念ながら当て馬コースで終了の様子。唯(趣里)の娘をふたりで一緒にお迎えに行く光景はとても微笑ましかったし、散らかった部屋をメイに見られて、「幻滅、しましたよね」としょんぼりするところなんて、第1話でバッテリーが上がったメイの車を颯爽と直したパーフェクトな田所さんとは別人で、いいギャップがあったのだけど、メイの恋心には刺さらなかった模様。メイにとって、田所さんはいいライバルなんだろう。

最終回で大逆転の可能性があることもゼロではないけれど、ふたりは似た者同士。それぐらいの関係の方がいいのかもしれない。

そして、メイには、ナギサさんでも田所さんでもなく、誰も選ばないという選択肢も当然あっていいはず。まだ人を好きになることがよくわからないメイが、ナギサさんに生活をサポートしてもらいながら、ちょっとずつ前に進んでいく。30歳までに結婚しなきゃいけないとか、そんな世間の呪いは気にせず。そんなラストも大アリだ。そう考えると、やはりこのままナギサさんコースでフィニッシュとも考えにくい。最終回でもうひと波乱くらいありそうだ。

いずれにせよギスギスすることの多い毎日の中で、重い荷物を置いて、おいしいスープに体も心も温かくなるような癒しの時間をくれたこのドラマも次回でフィナーレ。別れの気配を惜しみつつ、最後までほのぼのとした気持ちでこの優しい世界に浸りたい。

追伸、田所さんの部屋を開けたとき、やたらアヒルのオモチャが流れてきたけど、田所さんはなんでそんなの持ってるの? え? まさかお風呂に浮かべてるんですか? じゃあ、今まで何かと不遇だった田所さんのためにも、湯船にアヒルをぷかぷか浮かべてる田所さんの入浴シーンを最終回にお願いします!

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【最終回(9月1日[火]放送)あらすじ】
ナギサさん(大森南朋)の家政夫としての契約が終了すると知ったメイ(多部未華子)は激しく動揺。「トライアルで私と結婚生活を送りませんか?」とナギサさんに突然のプロポーズ! 困惑しながらもその提案を受け入れたナギサさんとの4日間のトライアル結婚生活がスタートする。そしてメイは、田所(瀬戸康史)ときちんと向き合うため、正直に自分の気持ちを打ち明けることに・・・。
一方その頃、天保山製薬では新病院設立に向けて、他社との情報戦が佳境を迎えていた。
駒木坂(飯尾和樹)から、新病院の薬剤部長についての情報を掴んだメイたちは、早速接触を試みようとするも、その手前で大きくつまずく。新病院の最重要人物、ジャギこと阪本先生(高木渉)を瀬川(眞栄田郷敦)の一言で怒らせてしまったのだ・・・。解決すべく奔走するメイだったが、トライアル結婚生活でも大問題が発生!メイの前から突然、ナギサさんが姿を消してしまい・・・。
とっ散らかったメイの心と、ナギサさんとの関係は、果たしてどんな結末を迎えるのか!?

◆番組情報
『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜22:00からTBS系で放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信。
またParaviオリジナルストーリー『私の部下のハルトくん』も独占配信中だ。