膨大な作品量があれば見る作品には困りませんが、どこから手を付けて良いのか分からなくなることがしばしば・・・。また、映画には当たり外れが付き物なので、できることなら貴重な2時間を無駄にはしたくないと思うのが当たり前。

今回は動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中の映画の中から、私、映画アドバイザーのミヤザキタケルが、見る映画に困ったあなたのためにオススメの作品をご紹介。それぞれにタイプの異なる5作品ですが、ハズレなしの面白い作品であることだけは保証します!

◆『世界から猫が消えたなら』(2016年)

20200814_eiga_02.jpg

大切な人や物の存在を強く自覚させてくれる魔法の時間

もしもあなたが明日死んでしまうとして、大切なものを一つ消すことと引き換えに一日だけ生き長らえることができるとしたら、一体何を消しますか?

この不思議なタイトルから物語の方向性を読み取ることは至難の業だと思いますが、描かれていくのは、一握りのファンタジーが伴う珠玉の人間ドラマ。余命宣告を受けたごく普通の30歳の男性が、突然現れた自分と瓜二つの悪魔の提案を飲み、一日の命を得るために大切なものを失っていく。非現実的にも思えるその様は、"終わり"を意識することで初めて捉えられる日常の価値をあなたの心に示してくれることだろう。

原作は、『モテキ』(2011年)、『バクマン。』(2015年)、『何者』(2016年)、『君の名は。』(2016年)、『天気の子』(2019年)など、数々の話題作をプロデュースするヒットメーカー・川村元気の処女小説にしてベストセラー作品。監督を務めるのは『帝一の國』(2017年)、『恋は雨上がりのように』(2018年)の永井聡。脚本を務めるのは、90年代の名作ドラマをはじめ、『いま、会いにゆきます』(2004年)、『雪の華』(2019年)などの映画作品も手掛ける岡田惠和。

一人二役を演じる佐藤健、南米の世界遺産「イグアスの滝」の前で泣き叫ぶ宮﨑あおい、映画好きであればある程に楽しめる随所に盛り込まれた映画ネタなど、見どころとなるべき要素を挙げればキリがない本作ですが、何よりも注目すべきは、先述した通りの日常の価値を垣間見られる瞬間であったり、今ある自分がどのように形成されてきたのか、どういった積み重ねの上に生かされているのか、そういったことに思考を巡らせられる機会を得られるところにあると思う。

僕たちはいつだって、失ってからでないと、手遅れになってからでないと、ある程度の痛みが伴わないと、大事なことには気が付けない。傷付いて、後悔して、絶望して、どうにかこうにか這い上がって、そこで初めて何かしらの教訓や戒めを得ることが可能になる。それこそが成長であり、人間の営みと呼ぶべきものであると思うのだが、できることなら、何も失うことなく大事なことに気が付きたい。そんなことは不可能であると分かっていながらも、大切なものを失った経験がある者ならば、そう願わずにはいられない。

ただ、そういったことが起こり得るのだという"覚悟"を事前に抱くことだけなら可能なのかもしれない。その覚悟を胸に宿しているのか否かで、耐え難い現実に直面した際の受け止め方だって変わってくる。大切なものと引き換えに生き長らえ、覆すことのできない「死」という現実を前に、自らが生きてきた人生を振り返り、何が本当に大切なことなのかを見極めていく男の姿が、そう信じさせてくれる。たとえ実感は伴わずとも、理屈や道理を把握することで、想像力で多くを補うことで、これから先の人生で起こり得る出来事に対して覚悟を抱ける。そのための手助けを、想像力の肥やしとなるものを、この作品が与えてくれる。

あらゆる「もしも」を描きながらも、誰もがやがては直面するであろうことをベースに描かれていく物語は、ファンタジー要素を孕んではいるとはいえ、非常に普遍的且つ現実的。主要人物が名前で呼ばれることがないのも、見る者の心を登場人物たちの心に投影・同調させやすくするためのもの。気付けば、自分事に置き換えながら男の人生を辿り、両親のことを、友人のことを、自分自身のことを、かつての日々のことを考えながら見入ってしまう。

どう足掻いたところで、人生には避けられないこともある。けれど、無数の出逢いと別れ、偶然と必然が織り成す今この瞬間には、たくさんの可能性が詰まっている。その理を十分に心得ていたのなら、道は決して一つじゃない。失われたと嘆く時間も不可避で必要なものだが、失われたものを想うあたたかい時間を生み出していくことだって僕たちにはできるはず。

大切な人たちへの感謝、これまでの日々への感謝、これからも続いていく日々への感謝、ありあらゆる感謝を抱かせてくれるこの作品は、今ある日常の価値を見つめ直す機会を、自らを取り巻く環境を少しばかり豊かにしていくためのキッカケを与えてくれると思います。見るべき作品に困った際は、是非本作をご覧ください。

【その他のおすすめ作品!】

◆『blank13』 失踪した父の死が結ぶ、切っても切れない家族の繋がり

20200814_eiga_03.jpg

◆『凶悪』 目を背けたくなる程までの狂気にまみれた驚愕の実話

20200814_eiga_04.jpg

◆『何者』 就活を通して露わになる人間の本質、逃れられない現実

20200814_eiga_05.jpg

◆『さよなら渓谷』 消せない過去を背負い続ける夫婦の贖罪と微かな希望

20200814_eiga_06.jpg

【Paravi映画祭り 特集ページ】https://www.paravi.jp/static/cp/eiga/

(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会
(C)2017「blank13」製作委員会
(C)2013「凶悪」製作委員会
(C)2016映画「何者」製作委員会
(C)2013「さよなら渓谷」製作委員会

(文:映画アドバイザー・ミヤザキ タケル)