多田かおるの少女漫画を原作とした映画版は、『Part1 ハイスクール編』『Part2 キャンパス編』『Part3 プロポーズ編』がある。タイトルからしていまどきの"壁ドン""頭ポンポン"などキュンキュンシーンてんこ盛りの映画かと思いきや、実際に観ると、これが大違い。
主人公・琴子(美沙)は、ドジで単純でおバカで不器用で、明るく前向きな女の子という、少女漫画の王道ヒロイン。また、琴子が思いを寄せる入江直樹(佐藤)は眉目秀麗、頭脳明晰、スポーツ万能でクールなドS系というのも、やはり王道パターンだ。
しかし、『ハイスクール編』はいきなり異色の展開を見せる。
冒頭でヒロインがいきなり告白するために手渡そうとした「Letter」の綴りが間違っていたために「頭の悪い女は嫌いなんだ」と言われ、受け取ってもらえないという場面から、二人の交流はスタート。そんな二人がひょんなことから同居することになるが、そのきっかけは、琴子の引っ越し先の家の柱がシロアリに食われて全壊→ニュースに出た琴子の父(陣内孝則)を見て、かつての親友である直樹の父(石塚英彦)が連絡をしてきた・・・という、「シロアリが結ぶ」縁なのだ。
その中でも琴子を全面的に気に入り、二人をくっつけようとし続ける直樹のキャピキャピお嬢様っぽい母(1では石田ひかり、2~3では鈴木杏樹)。の異色っぷりが際立っている。一緒に暮らすようになってからも、直樹の「塩対応」は変わらない。そんな直樹と琴子が急接近するきっかけもまた、斬新だ。なにしろ、娘が欲しかった母親に女装させられていた幼少時の写真をネタに、琴子に脅され、勉強を教えるハメになったのだから。
ちゃっかりヒロインは無事成績アップし、内部進学も決定。しかし、学年トップだった直樹は、センター試験、さらに国立大二次試験(東大受験)と立て続けに、琴子のせいで不運に見舞われる。
ちなみに、ハイスクール編で直樹が笑顔を見せたのは2シーンのみ。二人の間に割って入るライバルキャラも障害もほぼ皆無で、『イタズラなKiss』が登場するのはラスト5分くらいである。所かまわず壁ドンしたりバックハグしたり、イチャついたりするキュンキュン映画もたくさんあるというのに、ずいぶんもったいつけるじゃないか・・・。清々しいほどの「笑顔&ラブラブ出し惜しみ」ぶりだけに、わずかな瞬間のありがたみが増すというものだ。
そして、『キャンパス編』でも、やはり直樹の琴子への塩対応は続く。ようやくライバルキャラらしき女性・松本さん(文音)は登場する(1でもチラリと出ていた)ものの、意地悪でも卑怯でもないし、ちょっとマダム感ある面白強気系キャラなだけに、三角関係のモヤモヤやイライラのストレスはない。
合宿や、思いがけないデート→ボートから転落、二人きりで過ごす吹雪の夜の添い寝、2家族合同旅行など、「青春」イベントはたくさんあるのに、相変わらず笑顔も甘い言葉も抱擁もない。ラストでようやくキスシーンがあったかと思えば、まさかの琴子の夢オチだ(※実はこれがPart3終盤に続く壮大な伏線なのだが)。
Part2まで観ると、琴子が本当に一途で、ポジティブで、良い子で、可愛く思えてくる。
何故なら、めったにエサをくれない直樹に対し、干からびることなく、いつでも笑顔で、いつでも新鮮な感動を味わいつつ「入江くぅ~ん! カッコいい~~!」と恋心を燃やし続けられるのだから。とことん燃費が良いのだ。
合宿の炊事を一人でやらされるハメになっても、「入江く~~~ん、助けて~~」でちゃっかり美味しい料理を作ってもらってしまうし、二人きりの夜に添い寝しても「もったいなくて眠れないわ」と言った直後に酷い寝相で大暴れするし・・・。どこまでいっても悲壮感なく、笑って見られるのは、琴子という恋愛低燃費キャラの魅力だろう。
そして、ようやくラブコメとしてのハラハラ展開に突入するのは、『プロポーズ編』。
冒頭で琴子は他学部の男子(朝ドラ俳優で"仮面ライダービルド"の犬飼貴丈。豪華!)に突然、告白され、初めてのちゃんとしたデートを経験。直樹に焼きもちを焼かせようとしたり、かと思えば、直樹の父の急病と会社の経営不振により、直樹が休学して会社を手伝うことになったり、そんな直樹に「政略結婚」の話が持ち上がったり・・・。
物語は大きく動くが、琴子と直樹の仲は進展していないし、琴子も相変わらず明るく元気だ。そんな中、時間の経過によって明らかに変化したのは、直樹である。
Part1では2シーンしか笑顔を見せなかった直樹が、アニメ部(天津向や栗原類)が制作した、琴子がイメージキャラの映像作品「コトリン」をわざわざ観に来て、手をたたいて笑っている姿などは、なんだか無邪気で可愛く見えた。
さらに、直樹の父の会社にアルバイトで入った琴子の様子を心配そうに見守ったり、自分の将来を勝手に決めようとする父母への反抗心を見せたりと、人間らしさや成長が随所に感じられる。
どんなに塩対応をされてもめげず、諦めず、ポジティブに直樹に愛を送り続けてきた琴子。Part1から延々と打ち込んでも、なかなか効いていないように見えたジャブが、Part3に来て一気に相手を崩壊させるほどのパワーを見せる。そして、怒涛のラスト15分。
琴子の愛でついにクールな表情が崩壊した入江直樹は、まるで別人のように甘い。この変化をしっかり味わうためには、ぜひ1~3まで観て欲しいと思う。
ちなみに、このシリーズでは、イライラする要素や、悪人が全然登場しない。そこもまた、今のような不安な時代にふさわしい作品かもしれない。
(文・田幸和歌子)
◆配信情報
『イタズラなKiss THE MOVIE~ハイスクール編~』
『イタズラなKiss THE MOVIE2~キャンパス編~』
『イタズラなKiss THE MOVIE3~プロポーズ編~』
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(C)「イタズラなKiss THE MOVIE」製作委員会 (C)多田かおる/ミナトプロ・エムズ
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