部屋の散らかり具合は、その人の精神状態を如実に表していると思う。

ちなみにこの原稿を書いている時点で、僕の周りには昨日飲んだチューハイの空き缶が6本転がっているし、ちょっと汁の残ったカップラーメンもそのまま放置されている。

仕事用のデスクは資料の山でノートパソコンを置くスペースもなく、座椅子にミニテーブルを乗せて、カタカタとキーボードを叩いている。

だらしない。つくづくだらしない、と自分でもわかっている。でも、とてもじゃないけど、こんな忙しい毎日の中で家のことまでやってなんかいられない。雑誌でよく特集されている「ていねいな暮らし」というやつは、都市伝説なんじゃなかろうか。

そんな僕は、『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/毎週火曜22:00〜)を観て思うのだ。「え、ナギサさんみたいな家政夫ほしいんですけど!」と。

男の子なんかに負けないで。キャリアウーマン・メイを縛る母親の呪い

『私の家政夫ナギサさん』は、28歳になったばかりのバリキャリウーマン・相原メイ(多部未華子)が主人公。製薬会社のMRとして働き、優秀社員賞に選ばれるなど、成績も好調。就任したばかりの支店長・古藤(富田靖子)からチームリーダーに任命され、着々と出世の階段をのぼっている。

会社ではしっかり者のメイだけど、実は家事能力はゼロ。部屋は足の踏み場もないほどに散らかっていて、テレビのリモコンをなくしては新しいものを買い直し、結局同じリモコンが5つも家にある始末。

そんな姉の惨状を見かねた妹の福田唯(趣里)が送り込んできたのが、スーパー家政夫の鴫野ナギサ(大森南朋)。『私の家政夫ナギサさん』は、仕事一筋だったメイがナギサさんとの出会いを通して、自分の人生をもう一度見つめ直していくハートフルストーリーだ。

仕事は優秀だけど、決して完璧人間ではないメイ。その親しみやすいキャラクターももちろん素敵だけど、何より共感したのは、メイが仕事に打ち込む理由。本当はメイは「お母さん」になることが将来の夢だった。けれど、母の美登里(草刈民代)に「そんな夢やめなさい」と即座に否定され、「もっと上を目指しなさい。男の子なんかには負けない、仕事ができる女性になるの」と諭される。

その言葉が、抜けない楔となった。以来、「お母さんみたいになってほしくないの」と言う母親の叶えられなかった夢を代わりに叶えるように、メイは仕事に情熱を注いできた。けれど、ライバル会社の有能なMR・田所優太(瀬戸康史)に敗れ、マークしていたクリニックの契約をとられてしまう。「男の子なんかには負けない」という母の期待に、メイは応えることができなかった。そんな自分に失望し、メイは「仕事ができない私なんて需要ありません」と涙する。この一言が、第1話のハイライトだ。

心がどうしようもなくなったとき、清潔なベッドでぐっすり眠ろう

いつからだろう。自分の価値を、他人に置くようになってしまったのは。みんな他者がつくった採点表にしがみつき、点数を稼ぐのに必死だ。より多くの、あるいはよりステータスの高い異性から愛されたら5点。それが望めない人は、たとえばより名の通った大学に行けば5点。よりスケールの大きな企業に入れれば5点。そんなふうにしてポイントを積み上げていく。

そして勝手に思い込んでしまう。恋愛もできない、仕事もできない自分に需要なんてないのだと。他者から望まれること、認められることだけが価値なんだという偏った考えに支配されて、ちゃんと自分で自分のことを褒めてあげられない。大切にしてあげられない。そんな生きづらさを抱えた人は、たぶん世の中にいっぱいいると思う。

SOSをあげるほどピンチじゃない。だけど、実はそこそこ瀬戸際。他人から見たら何にも問題なさそうに見えるけど、心はいつだって破裂寸前。そんな崖の上の頑張り屋たちが、この労働社会を支えている。だからこそ、メイを見ていると、何だか他人事に思えなくて、ついつい肩入れしてしまうのだ。

メイに代表される真面目で損をしがちな現代人に、第1話でナギサさんが提示した処方箋は、ちゃんと手入れが行き届いた清潔なベッドでよく眠ること。そして、ほんの少しでいい、人のぬくもりに身を預けてみることだった。

もう何年もおんぶなんてされたことないし、誰かの手を握って眠った記憶なんて、母親に看病された幼稚園時代まで遡らないと、まるで思い出せない僕だけど、そんな僕だからこそ、夢の中で「行かないで」と母親の手を求めたメイの気持ちがよくわかったし、ドギマギしながらメイの手を握り続けたナギサさんの姿に癒された。

ナギサさんとの日常を通して、メイがいかに母親の呪いから解き放たれ、自分らしく生きていけるか。歴代の火曜10時枠らしく、働く人たちのビタミン剤となるドラマになりそうだ。

多部未華子の鈴の音のような声はいつ聞いても耳心地がよくて、ともすると角張りそうなメイのキャラクターに愛らしい丸みを帯びさせている。そして、大森南朋の持つ柔和な雰囲気が穏やかで気の優しいナギサさんにぴったり。エプロン姿ももちろんだけど、たまにかけるメガネ姿に愛され中年感が出ていて、おじさん好きにはたまらない配役だ。

多部未華子、趣里、草刈民代というなんとも納得感のある母娘キャスティングや、ちょっと注意されただけで「俺、この仕事向いてないのかなって」としょぼくれる新入社員・瀬川遙人(眞栄田郷敦)の面倒くさい愛らしさなど、気になるところは他にもいろいろあるけれど、最後はこの叫びをもって締めくくりたい。

ある日、突然瀬戸康史が隣に引っ越してくるマンション、どこですかー????(大声)

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第2話(7月14日[火]放送)あらすじ】

家政夫のナギサ(大森南朋)さんと手を繋いだまま眠ってしまったメイ(多部未華子)は、衝撃の事実にパニック状態に陥る。
さらに天敵の田所(瀬戸康史)が隣人であることが判明!ライバル会社のMRが隣の部屋に住んでいたとは・・・。動揺が収まらない中、今度はメイの母・美登里(草刈民代)が家にやって来た。
家政夫の存在を母に知られたくないメイは、ナギサさんを隠すのに奮闘。必死にごまかそうとする。
そんな中、メイは同僚の陶山薫(高橋メアリージュン)の計画で、田所と合コンすることに。渋々参加するメイだったが、田所が急接近してきて・・・!?

◆番組情報
『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜22:00からTBS系で放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信。
また、パラビオリジナルストーリー『私の部下のハルトくん』も独占配信中だ。