夢の引き金は、ドラマのクランクアップ記念でもらったモコモコパジャマ。そこから、マネージャーの西村くんと「本当はクタクタのパジャマが良い」「ゴムのびてるようなの」と「パジャマあるある」談義をしていた後に、夢の中で夫から突然、LINEでこう告げられる。
「片桐はいりさんの旅行記、最高のものになりそう」「彼女のこと、好きになってしまったみたい」「別れてください」
仕事で長く家を留守にしている夫への寂しさが、こんな奇妙な夢を見せたのだろう。しかし、その寂しさという「本音」「現実」と、第4話で登場した「光代おばちゃんの姿をした、手作りの時計」、さらに演じていた「片桐はいり」とが、グチャグチャの謎のつながり方をするカオス具合は、夢ならではだ。
わけが分からず、夢の中で慌てて夫に電話するが、着信拒否され、「捨てないで~~~」と叫んだ安達さん。それから二度寝した安達さんの夢に召喚された「捨てられないモノ」は、パジャマ(YOU)だった。
パジャマなのに、サングラス+ヒール+革ジャンと、なぜかリラックス感からほど遠い。"安達さんが15年以上愛用しているスウェット"であるパジャマに「捨ててくださいよ~」と懇願されても、キッパリ拒否する。「ボロボロで、お腹のゴムとかビローンってなっちゃって、引きずって歩いて」いても、それが一番心地良いというのは、共感する人も多いだろう。
そんなスウェットは「若さ全開で押してくる」新参者のモコモコパジャマに脅威を感じつつ、「外に出たい。お出かけしたい。汗をかくっていう道もある」と自身の本来の用途を主張する。
それにしても、15年モノというのは凄まじいが、そこまで安達さんが執着する理由は、実は「クタクタの心地よさ」ではなかった。
娘を生んだときも、息子を生んだときも、着ていたというスウェット。大きくなってゴムが伸びてしまっても、それを着ると「満たされるの、あのときみたいに、あのときのまんま」というのだ。
思い出に浸り、ほほえみを浮かべていた安達さんの顔が、みるみる真顔になり、逃げ場なく追い詰めるように言う。
「あの子たちとつながってた証拠」「あなたを着てると、家族手に入れたんだなあって思えるの。あなたのおかげですっごく安心するの。それのどこが怖いの?」「あなたは一生私の味方でしょ?」
ノスタルジーからホラーへ、一瞬で別人の顔を見せるのは、すごいよ、安達さん。
それにしても、一番幸せな時間を共に過ごし、ユルユルしたリラックスを与えていたはずのパジャマが、絶対に手放してはいけない「家族の幸せ」の象徴として、強く縛り付けてくる執着心になるとは。
「安達さん、子どもは母親のものなの?」と夢の少女に聞かれ、「そうだよ、当たり前じゃん」と答える安達さんの脳内には、第10話のウサギの着ぐるみおじさんの言葉が響く。
「あんた、目が死んでんだよ、そんなんじゃ仕事くるはずないよ」
しかし、その言葉を言ったのは、本当はお母さん・・・? そして「あなたは誰のもの?」という問いが何度も繰り返されていく。
安達さんの「捨てられないモノ」=自分自身との対峙も、残り1話。最後に対峙しなければいけないのは、間違いなくアノ人だ。
(文・田幸和歌子/イラスト・月野くみ)
【7月3日(金)放送 最終回あらすじ】
女性向けのライフスタイル雑誌の編集者から"毎号私物を一つ整理してほしい"という企画の依頼を受けた安達さん(安達祐実)。
自身についてのインタビューから始まる最終回。
娘、夫、母親、自分。それぞれに思いを巡らす中、ある日の母親との電話を思い出す。そして、ずっと捨てられないでいるゴミ箱の中身と向き合うことにする。安達さんが捨てられないモノとは...そして夢に度々現れた謎の少女(川上凛子)の正体とは・・・?
◆番組情報
『捨ててよ、安達さん。』
毎週金曜深夜0時52分からテレビ東京で放送中。
動画配信サービス「Paravi(パラビ)」では、放送1週間前から先行配信中。
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