前半5作は同じ物語を異なるキャスト、異なる演出で上演し、それぞれの彩りで楽しませてくれた。そして最後の6作目のみ、タイトルに"修羅天魔"を冠し、主人公も登場人物も変え、新たな『髑髏城の七人』を描いている。
『髑髏城の七人』からうまれた完全新作
『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』は、謎の渡り遊女・極楽太夫(天海祐希)と、天下統一を目論む天魔王(古田新太)との愛憎を軸に、関東荒野で生きる人々が描かれる。それまでの『髑髏城の七人』をどれか一作でも見ていると、その同じ設定や同じ台詞、また違う設定や展開が折り重なり、新たな世界観を味わえるのがなにより楽しい。
たとえば、他の5バージョンでは「極楽太夫」とは色街・無界の里(むかいのさと)の花形太夫で、主人公であり全国を渡り歩く浪人の捨之介(すてのすけ)が偶然出会う"仲間のひとり"という設定だ。ちなみにそれぞれ、りょう、松雪泰子、田中麗奈、高田聖子、羽野晶紀が演じている。しかし『修羅天魔』では、極楽太夫の設定は捨之介のように捨てられない過去を背負い、津々浦々を流れ歩き、ついには天魔王との戦いに身を投じていく。
捨之介はこれまでの5バージョンで小栗旬、阿部サダヲ、松山ケンイチ、福士蒼汰、宮野真守が演じている。彼らと同じ設定のもと、まったく違う天魔王との対立を見せた。その台詞のいくつかは、過去5バージョンでの捨之介の台詞であり、極楽太夫の台詞でもある。聞いていると「ああ、この台詞はあの時の!! また違う意味に聞こえる!」というのも本作の興奮どころだ。
3人の青年の因縁から、女と男の生き様をめぐる愛憎劇へ
『髑髏城の七人』は、作品ごとに演出や設定の違いはあれど、物語の中心になるのは3人の青年だった。捨之介と、天魔王と、色街・無界の里の主である蘭兵衛(らんべえ)。この3人の過去の縁(えにし)が絡まり合い、どうしようもない悲劇へと導かれていく。
だが『修羅天魔』では、蘭兵衛は登場せず、捨之介と設定を同じくする極楽太夫と、天魔王の2人の過去が暴かれていく。愛憎劇ではあるが、しかしラブストーリーにはならないのがこの作品の魅力だ。極楽太夫はあくまで、己の信念を持ち、義に生きる。一人の人間として、仕事をまっとうしようとし、人間関係や誇りを前に迷うのだ。
これまでの上演では少年漫画のような汗まみれの仲間・青春・過去を描いていたが、その印象は崩さない。しかも凛とした天海祐希が、柔らかくも毅然とした主人公を演じることで、そのヒーロー像はよりまっすぐ、深い。メロドラマにならず、あくまでも『髑髏城の七人』の魅力を発揮している。
他にも福士誠治など実力派のキャストも出演しており、その化学反応も見どころ。ちなみに、登場しない蘭兵衛にあたる存在・夢三郎を演じるのが、竜星涼。『髑髏城の七人』では悲しき運命を背負っているが、この『修羅天魔』でもまた違った形の哀れな悲しみを抱えた役だ。そのキャラクター設定もまた、両作を比べて観ると胸が締め付けられる。
過去5作の集大成となる演出
『修羅天魔』はぜひ、『髑髏城の七人』のいずれかを観てから挑んでほしい作品だ。(もちろん観ていなくても楽しめるが、面白さの種類と幅がまったく違うだろう)。
ただし、『修羅天魔』と『髑髏城の七人』で物語のベースが異なることで、クライマックスの設定や決め台詞も違う。これは『髑髏城の七人』ファンにとっては少し心配点かもしれない。
なぜなら『髑髏城の七人』は、お決まりの決め台詞や決めシーンが見どころのひとつでもある。歌舞伎のように、カカンッ!という音とともに照明が当たり舞台中央で役者が大見得をきったり、待ってましたと言わんばかりに決め台詞が放たれる。その心地よさが、何作も再演されるたびにカタルシスになっていく。それが『修羅天魔』では、似た設定なのに、その来るべき台詞が来るべき時に来ないことがあるのだ。
しかし残念がることはない。「まさか! ここで! そのシーンが来るのか!」という新鮮な驚きと、それによって予想もしていなかったカタルシスが楽しめるからだ。そして『修羅天魔』を観たあとで『髑髏城の七人』を思い出せば、また新たな視点で『髑髏城の七人』をも楽しめる。
もし、体力と気力と情熱が許すなら、全6バージョンの鑑賞に挑戦してみてほしい。過去5作を経てレベルアップした360°の客席回転を活かした演出が、『修羅天魔』が本劇場における6バージョンの集大成であることを感じさせる。最後の演出などはまさに圧巻だ。きっと劇場へ行きたくなるだろう。
(文・河野桃子)
◆配信情報
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