「現代版 肝っ玉母さんのような作品を撮りたい」

――このドラマを企画したのは、どのような経緯ですか?

TBSは1983年からドラマに新しい人材を登用する、新鋭ドラマ企画を行ってきました。ADの中からディレクターとしてデビューするという「新鋭ディレクターシリーズ」やドラマを書いたことのない脚本家のデビュー作として制作する「新進脚本家シリーズ」など。久しくその企画は途絶えていましたが、2006年に復活した際に実現したのが、岡江さん主演の『パンチライン』でした。

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撮影中、岡江さんと打ち合わせをする内田氏

"今までドラマを制作したことはないが、ドラマをやりたい"と日々思っている社員から企画を募集するというので、制作会社スタッフと放送作家と飲んでいる時、僕が「岡江さんで、昔の京塚まさこさんみたいなイメージで、現代版肝っ玉母さんのような作品撮りたいな~」と言ったのをきっかけに、当時『笑っていいとも』などバラエティや情報番組で売れていた放送作家の水野宗徳さんが書いてくださったんです。

ちなみに水野さんは映画やドラマの処女作が『パンチライン』で、2作目はなんと綾瀬はるかさん主演の映画『おっぱいバレー』。その後も映画・ドラマの原作・脚本の世界にも進出されています。水野さんは、ブレイクする前のトム・ハンクスが主演した『パンチライン』をヒントに、「これの日本版のようなオリジナル作品作っていく」と仰ってました。それも専業主婦が舞台に立つことを夢見る作品ということで、主人公が息子のために漫才に奮闘する姿を描いた本作品になりました。ちなみに"パンチライン"とはお笑いのオチという意味があります。

――岡江久美子さんにドラマ出演をオファーした時の反応は?

まず台本を読んで「うっちーこれ面白いよ!」と言って快く引き受けてくださいました。その上、エンディングで漫才の舞台に立つシーンの衣装は「自分で買ってくる!」と仰って、渋谷に行ってすごいかわいい衣装を選んできました。すごくノリノリでやってくださったので、その衣装を着たシーンはぜひ見てほしいですね。

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自ら選んだ衣装を着る岡江さん(右は夫役の大杉漣さん)

――実際に岡江さんに演じて頂いていかがでしたか?

夫や息子の陰に隠れて生きていた控えめな主婦が、売れない漫才師ステップ町田(天野ひろゆき)に「輝いてないやつに、何を言われたって人は聞く耳もたないぜ」と言われて、最後には観客を前に漫才の舞台に上がるまでの変化を遂げる・・・この役には岡江さんがぴったりだと思っていました。黙っていたら美人だけど、漫才をするときは明るくはっちゃけていてかわいらしい、というのを見事に表現してくださって本当に役どころにハマったなと思いました。

「監督が泣いてたらいい作品撮れないよ」

――演出されて感じられた、女優 岡江久美子さんのエピソードはありますか?

ドライ、カメリハとリハーサルを重ねていくうちに、『はなまる』MCの時の岡江さんのイメージから少しずつ離れていって、本番の時には完全に女優 岡江久美子に変わるのを感じました。『はなまる』での自然体の主婦である岡江さんと、主婦を演じるときの女優・岡江久美子さんとのギャップに本当に驚かされました。

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ドラマ撮影中で忘れられないのが、岡江さんが引きこもりの息子に気持ちを訴えるために階段を昇っていくシーン。岡江さんの迫真の演技でスタジオが一瞬静まり返るほどでした。思わず感動で涙が堪えられず・・・「ハイカット!」と涙声で声をかけたら、スタジオからの送り返しで「うっちー、監督が泣いてたらいい作品撮れないよ!!」と言われ、どっと笑いが起きたのを覚えています。ぜひその迫力を皆さんにも感じてほしいです。

――岡江さんとドラマを一緒に作ったことを振り返って心に特に残っていることはなんでしょうか?

ドラマの最後の収録が終わった後の岡江さんとの会話が忘れられません。「人生で初めてドラマを撮って、大変でしたけど最高に楽しかったです。ありがとうございました」と伝えたら、「私も女優人生長いけど、この作品は私の女優人生の中でも3本の指に入る作品よ。楽しかったわ!」と仰ってくれました。

自分はそこで、感極まって涙がボロボロ。そしたら岡江さんがすかさず「うっちーが泣いちゃったから、やっぱ5本の指かな、5本の指にしとくよ!」と仰って(笑)。その時に「またドラマ撮ろうね!」と話していたんですが・・・。今度こそ3本の指に入るドラマを撮りたかったです。

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共演の水野真紀さんと打ち合わせ

◆配信情報『パンチライン』動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて配信中(C)TBS