今回のゲストは、早織。第5話・第7話で登場した梶原ひかりと同じく、その名前だけではピンと来ない人も多いかもしれない。
NHK連続テレビ小説『スカーレット』終盤で、ヒロイン・喜美子と同じく白血病の息子を支える母を演じていた人。そして、『時効警察』(テレビ朝日)第2シリーズの真面目で純粋で不思議系の人気キャラ「真加出くん」でもある。
いずれも同一人物には到底見えない。先述の梶原ひかりといい、徳永えりといい、松本まりかといい、渡辺大知といい、いつもながら絶妙なポイントを突いてくる人選だ。
映画&ドラマ好きの人たちのための役者セレクトショップのようでもある。
さて、そんな早織が演じたのは、10年以上箱にしまわれたままの「思い出の靴」。暗い場所に座り込んでいる彼女は、俯いて、震え声で、「私のこと、覚えてるか自信ないんですけど」から始まり、「顔も見たくないと思うんですけど」「私なんかが・・・無駄に場所とるだけで、安達さんの役に立てていないので! いまさら売ったってたいした額になりませんし、むしろ管理コストばかりかけて・・・」などと卑屈な言葉を並べる。
さぞ悪い思い出なのかと思えば、「昔は明るい性格だったんですが、箱の中にばかりいて」そうなったらしい。それは、「かつて交際していた男性に釣り合うように、無理に背伸びして買った、価格もヒールも高い、すごく良い靴」だった。
「本当にオシャレな人は靴に気を遣う」とはよく言うが、逆に自分をよく見せようと背伸びするときに、頑張ってしまうのも、女性の場合は靴かもしれない。大人っぽく見せよう、スタイルよく見せようと、無理やり高いヒールの靴を履いてみる。しかも、大事な用事の時に限って見栄をはるから、せっかく楽しいはずの時間が文字通りいろんな意味で「痛い」思い出になってしまう。
大人になると、履きなれた靴、自分の足に合う靴が一番だとわかるが、若いうちはそうもいかず、無理して、しんどい思いをして、ふとそんな自分が嫌になったりバカバカしく思えたり。
そんな甘酸っぱくも、痛い思い出が詰まった靴を捨てることを決めた安達さんの「別れの儀式」が、素敵だった。今もやっぱりかかとがパカパカして、倒れそうだったけど。
ちなみに、安達祐実は、足のサイズが21.5cmであること、ロケ現場に「ご自由にお持ちください」と置いてあった中敷きをもらってきたことなどを、自身のブログで語っていたことがある。そんなエピソードや「背低いのとか、子どもっぽいのとかも、嫌になっちゃって」といったセリフが現実とリンクし、つい「大好きすぎて背伸びしてしまった相手」が気になってしまうのも、このドラマならではの楽しみだ。
(文・田幸和歌子/イラスト・月野くみ)
【6月12日(金)放送 第9話あらすじ】
女性向けのライフスタイル雑誌の編集者から"毎号私物を一つ整理してほしい"という企画の依頼を受けた安達さん(安達祐実)。安達さんは朝から家事分担ができない夫とのやり取りでイライラしていた。そんな中、失恋をきっかけに金髪になった西村マネージャー(西村晋弥)からドラマのために前髪を5㎜切ってくれと言われる。夢の中でも荒れる安達さんの前に現れたのは娘の姿をした少女(新井美羽)と北村匠海の姿をした・・・。
◆番組情報 『捨ててよ、安達さん。』
毎週金曜深夜0時52分からテレビ東京で放送中。
動画配信サービス「Paravi(パラビ)」では、放送1週間前から先行配信中。
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