「STAY HOME」の日々が続く中、おうち時間をどうやって過ごそうかあれこれ考えている人も多いはず。時間がたっぷりある今こそ、大好きな俳優の作品を網羅するのもひとつの手。特にブレイク前の過去作品は気になりつつも、なかなか手を伸ばすタイミングがなかったという人も多いのでは。

そこで、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で観られるあの人気俳優の過去作品を一挙紹介。現在のブレイクをうかがわせる才能の片鱗を深掘りする。

その第1弾は、俳優・北村匠海。子役から長いキャリアを誇り、DISH//のフロントマンとして音楽活動も活発な北村匠海だが、彼の名を世に広く知らしめた作品と言えば、やはり2017年に公開された映画『君の膵臓をたべたい』が頭に浮かぶ。ここでは、『キミスイ』以前の北村匠海を発掘。まだ少年のあどけなさが残るあの作品から、人気俳優総出演のあの青春ドラマまで、いろんな北村匠海をお楽しみあれ!

『鈴木先生』(2011年/テレビ東京系)

学園ドラマと言えば、古今東西、名作の宝庫。しかし、そのどれとも似ていない、唯一無二にして、最高に突き抜けたチャレンジングな作品がこの『鈴木先生』だ。

原作は、2007年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した武富健治の同名コミック。このハイレベルな原作を、『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』の古沢良太がメインライターを務め、観ているだけで細胞が震えるようなアドレナリン全開の傑作ドラマへと昇華。視聴率こそ伸び悩んだものの、その完成度に高い評価が集まり、平成23年日本民間放送連盟賞 テレビドラマ番組部門 最優秀賞、第38回放送文化基金賞 テレビドラマ番組賞など数々の賞を受賞。2013年には映画化も果たした、知る人ぞ知るモンスタードラマだ。

その面白さを語るとすれば、タブー知らずの鋭い描写。主に題材に挙がるのは、中学生のセックス、男性教師のセクシャルハラスメントなど、第二次性徴期には避けて通れない「性」に関する問題。それを、ありきたりの一般論で終わらせず、鈴木先生(長谷川博己)と2-Aの生徒たちが「中学生がセックスをすることは本当によくないことなのか」「できちゃった結婚は悪なのか」と徹底的に考え、悩み、それぞれのオリジナルの答えへと辿り着くまでを、エンターテインメント性たっぷりに描き、既存の価値観や固定観念を激しく揺さぶりかける。

本作で北村匠海が演じたのは、2-Aの生徒のひとりである出水正。真面目な優等生という役柄だが、この頃から北村匠海の持ち味はすでに大きく発揮されている。そのひとつが、目の力。一言で「目力」と言っても、その印象は十人十色。他を圧するような眼光の鋭さを「目力」と呼ぶ人もいるが、北村匠海の「目力」はそれとは大きく異なる。

むしろ彼自身の目は決して何も語らない。その黒い瞳は深い湖のようにただ静かに凪いでいるだけ。でも、彼の目が何も語らなければ語らないほど、瞳に映された者は、まるで自分のことを試されているようで、その奥に何があるかのかを知りたくて、思わず彼の湖の中に飛び込んでしまう。北村匠海の瞳には、そんな"魔性"の力が秘められている。

北村匠海の"魔性"の「目力」を堪能できるのが、第2話だ。本来は品行方正なはずの出水が、給食の途中にカレーをぐちゃぐちゃにかき混ぜ、「げりみそ」とうれしそうにつぶやく。さらに、その下品な行動の真意を問う鈴木先生に言い捨てた「本当はわかっているくせに」という意味深な言葉。そのときの北村の目には、理知的な鈴木先生が思わずたじろぐのもうなずける、人の心をかき乱す"魔性"がある。

放送当時はまだ13歳。顔立ちも今よりずっと幼く、制服姿はどこにでもいる中学生そのもの。だけど、彼がタダモノではないことは、この短いシーンだけで一目瞭然。のちのブレイクも納得の佇まいを見せている。

ちなみに、なぜ彼がそんな不可解な行動をとったのか。その理由が明らかになったとき、きっと平静ではいられなくなる人も多いはず。この回に限らず、全10話、まったく"捨て回"のない正真正銘の名作なので、未見の方はぜひこの機会にチェックしてください。

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『天使のナイフ』(2015年・WOWOW)

北村匠海を多くの監督やプロデューサーが指名したくなる理由。それは、彼だけが持つ独特の陰影に魅入られてしまうからだと僕は思う。ただそこにいるだけで、物語を感じさせる力。何か運命を背負いこませたくなる力。技術や努力だけでは身につけられないものを、北村匠海は持っている。

『天使のナイフ』は、3人の13歳の少年たちによって愛する妻を殺害された男の物語。北村匠海は犯人のひとりである沢村和也という少年を演じている。妻の死から4年、決して癒えることのない傷を抱えながら、それでも愛娘との生活を守るため、粛々と毎日を送っていた主人公・桧山貴志(小出恵介)。彼のもとにある衝撃的なニュースが届く。

それが、北村演じる沢村和也が殺されたというニュースだ。妻を殺した少年たちに復讐するために、桧山が犯行に及んだのではないか。降り注ぐ嫌疑の目。そして、沢村の生前の足跡を辿っていく中で浮かんでくる新たな真実。『天使のナイフ』は少年法の矛盾と被害者家族の悲しみを軸に、本当の贖罪とは何かを描いた社会派サスペンスだ。

少年たちによる衝動的な犯行と思われた事件が、隠されていたいくつもの秘密が明らかになることで、様相が一変。少年犯罪の根深き問題を社会へと突きつける一大事件へと発展していく。原作は、2005年に第51回江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳の同名小説。以降も、『友罪』『Aではない君と』など少年犯罪を題材とした作品を発表し続ける薬丸岳の原点とも言うべき作品だ。

犯人である13歳の少年を演じたのは、村上虹郎、北村匠海、清水尋也の3人。3人のその後の活躍を考えると、まさに慧眼と拍手を送りたくなるキャスティングだが、この3人の中で最も自分の犯した罪に苦しみ、更生に向けて歩んでいたのが北村演じる沢村和也だった。

児童自立支援施設での更生生活を経て、下町のネジ工場で働く和也。短いシーンだが、そこでちゃんと和也の勤勉さと、他の人には言えない事情を抱えていることが伝わってくるからこそ、なぜ彼が更生の道半ばで不幸な死を遂げなければならなかったのか、ミステリーの面白さと、和也の悲劇性が引き立ってくる。

こうした内に何かを秘めた演技は、その後の北村匠海のレパートリーの中でも多く見られるが、その初期を彩る演技のひとつとして、ぜひこの『天使のナイフ』の沢村和也も挙げておきたい。

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『仰げば尊し』(2016年/TBS系)

まるで篝火の消えた洞穴のような闇を体現できる一方で、闇が濃くなれば濃くなるほど光の眩しさが鮮烈になるように、真逆の無邪気さ、純粋さも表現できるのが、北村匠海の俳優としてのすごみ。彼のピュアな少年性を思い切り楽しめるのが、この『仰げば尊し』だ。

本作は、問題児だらけの不良校に赴任することとなった初老の非常勤教師・樋熊迎一(寺尾聰)が、その人を信じ抜く心と音楽の力で荒廃した校内に革命を起こしていく学園ドラマ。北村匠海は、青島裕人(村上虹郎)率いる不良グループのひとりである安保圭太を演じている。

不良なのにピュアというところが、この安保圭太というキャラクターの魅力。ある事件が原因で音楽から離れ、しきりに吹奏楽部に勧誘してくる樋熊に猛反発する裕人たち。その中で最初に心の扉を開けたのが、圭太だった。

大人への反抗心と行き場のない怠惰と暴力に塗り込められた毎日に疑問を感じる圭太。本当は昔のようにみんなで一緒に楽しく音楽がしたい。そんな圭太の葛藤が描かれたのが、"第2音"だ。喫煙しているところを警察に見られ逃走する圭太たち。その様子を見つけた樋熊は、咄嗟に圭太を自分の息子だと嘘をついて庇う。しかも、圭太を不良扱いされた樋熊は怒って警官の胸ぐらを掴む。それを慌てて止める圭太の様子が、なんだか立場が逆転していて、とてもユーモラス。

確かに非行少年ではあるのだけど、憎めなくて、どこかチャーミングでコミカルなのが圭太のいいところ。そう感じさせるのは、北村匠海の声の良さによるところも大きいと思う。北村匠海の声は同年代の男性に比べても少し高め。それでいてクリアで抜け感がよく濁りっ気がない。だからすっと耳に入るし、心に沁みこむ。この不純物のない声の良さが、正直者で仲間想いという圭太のキャラクターに説得力を持たせていた。

見せ場は、第2音のクライマックス。屋上で裕人に「みんなで吹奏楽やってみないか」と持ちかけるシーン。胸にこみ上げてくる仲間への想いが、普段より少し揺れとブレスを含んだ声に込められている。髙杢金也(太賀※現在、仲野太賀)、桑田勇治(佐野岳)と共に3バカトリオでありながら、他の2人より少し繊細という圭太のキャラクターの違いを、北村匠海がしっかりと体現していた。

本作には新田真剣佑、仲野太賀、伊藤健太郎など、今や同世代を代表する人気俳優が総結集しているのも、うれしいポイント(まだみんな当時は名字がない!)。ドラマ自体も、脚本・いずみ吉紘、監督・平川雄一朗という『ROOKIES』(TBS系)コンビが、不良少年たちが輝きを取り戻すまでに必要なポイントをしっかりと抑えてくれているので、その内容は安心品質。特に、最終話となる"第8音"は随所に号泣シーンが用意されているので、心の洗濯にももってこいの1本だ。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)