いまだコロナ禍の波は収まらず、日本中が"Stay Home"を余儀なくされている今、ドラマファンの心強い味方となってくれるのが、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で視聴できる過去の名作たち。今回は、昨年夏のヒット作『ノーサイド・ゲーム』を紹介しよう。

2019年7月期にTBS系「日曜劇場」枠で放送された『ノーサイド・ゲーム』は、現在パラビにて、本編全10話とディレクターズカット版全10話が配信中。さらに地上波では、4月26日(日)に『ノーサイド・ゲーム特別編』(TBS系)が放送される。再編集を施し、新たに主演・大泉洋のナレーションを加えた『特別編』も、入門作品としておすすめだ。

原作は、新シリーズが今春スタート予定の『半沢直樹』(TBS系)でもおなじみの人気作家・池井戸潤の同名小説。大手自動車メーカー「トキワ自動車」に勤める君嶋(大泉洋)は、出世レースの先頭に立ち幹部候補とまで言われていたが、上司の滝川(上川隆也)が推し進める企業買収に異を唱えた結果、府中工場の総務部長という役職に左遷となる。君嶋がやるせない思いを抱えながら赴任先の工場に赴くと、トキワ自動車ラグビーチーム「アストロズ」のゼネラルマネージャーを兼務することに。かつては強豪チームだったアストロズだが、今は成績不振にあえいでいた。かくして君嶋は、チームの再建と自らの再起を懸けて立ち上がる――。

とにかく、泣けるドラマである。正直に告白すると、筆者は1話につき3回は泣いた。では、なぜこんなに泣けるのか。その秘密は、このドラマの「リアルとファンタジーのバランス」にあるのではないか。相反する二つの要素の絶妙な配分が、われわれの涙腺を刺激するのだ。

弱小ラグビーチームのアストロズは、さまざまな困難を乗り越えながら、プラチナリーグ優勝へと突き進んでいく。ややもすると、体のいい夢物語と受け取られかねない展開だが、GMの君嶋をはじめ、監督や部員たちそれぞれのキャラクターや背景がていねいに描かれているため、アストロズの成長の過程にもリアリティが感じられる(そして最後は泣いてしまう)。

さらに特筆すべきは、ラグビーの試合のシーンだ。アストロズの部員を演じる俳優は、ほぼ全員がラグビー経験者というだけあって、すさまじい臨場感。ドラマ史上でも類を見ないほどのレベルだろう。さらに、スロー撮影を多用した演出で、筆者のようなラグビーの門外漢が見てもゲームの戦況が一目で理解でき、夢中で見入ってしまう(そして最後は泣いてしまう)。このような、実践性とエンターテインメント性とを兼ね備えた、壮大な試合のシーンこそが、本作の最大の見どころといえるだろう。

加えて、本作のもうひとつの軸として語られる、出世争いや企業買収をめぐるサラリーマンたちの闘争劇。ここでは、男たちの闘いを分かりやすいほどケレン味たっぷりに描きながら、いわゆる悪人でさえも、その裏にある事情や心の葛藤にスポットが当てられる。それによってわれわれ視聴者は、ファンタジックな勧善懲悪のドラマと、リアルな社会派ドラマの両方の面白さを味わうことができる(そして最後は泣いてしまう)のだ。

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また、もちろん俳優陣のアンサンブルも見応え十分。今作でTBS連続ドラマ初主演を果たした大泉洋が、普段は冷静沈着ながら人情家の一面も持つ主人公・君嶋を好演しているほか、そんな君嶋を明るく見守る妻・真希に扮する松たか子、君嶋とともにチーム再建に人生を懸けるアストロズ監督の柴門を演じる大谷亮平、そして、君嶋の天敵であり理解者でもあるキーパーソン・滝川を演じる上川隆也ら、実力派たちが熱い演技合戦を繰り広げている。

また、それに輪をかけて、やけどするほどに熱い芝居を見せているのが、高橋光臣、眞栄田郷敦といった、アストロズの部員役の面々。中でも、天野義久、齊藤祐也ら、実際のラグビー元日本代表選手たちが味わいのある演技を見せており、とりわけ、エース・浜畑を演じる元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗は、本職の俳優も顔負けの存在感を放ち、感涙必至の名場面の数々を生み出している。

他にも、君嶋が信頼を置く上司・脇坂役の石川禅の意外な"ラスボス"ぶりや、君嶋の息子・博人を演じた子役・市川右近のけなげでかわいらしい表情など、注目の名演が次々に登場するので見逃せない。

なお、『ノーサイド・ゲーム』の最終回が放送されたのは、2019年9月15日。その5日後の9月20日から、ラグビーワールドカップ2019日本大会が開幕し、日本に空前のラグビーブームが巻き起こった。感動とともにラグビーの魅力を多くの人々に知らしめた本作は、いわばブームの火付け役となったわけだ。

だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、東京オリンピックの延期も決まり、誰もが漠然とした不安と恐怖を感じている今、改めて見直してみると、このドラマがわれわれに訴えかけるメッセージは、より重たく切実だ。

たとえば、プラチナリーグの決勝戦、アストロズが強豪チームのサイクロンズと一進一退の攻防を繰り広げるシーン。観客席から試合を見守っていたトキワ自動車の社長・島本(西郷輝彦)は、こんな言葉をつぶやく。

「不思議だ。応援しているのはわれわれなのに、まるで彼らに応援されているようだ。『負けるな! 負けるな!』・・・そう聞こえる。(中略)『きっと会社も、この国も、この先も、たくさんの困難が待ち受けている。だけど、決してあきらめるな。仲間とともに乗り越えよ』・・・そう背中を押してくれているようだ」

ウイルスという目に見えない脅威に対して、ふさぎ込んだり、投げやりになってしまいそうになることもあるけれど、そんなときは、アストロズの"決してあきらめない心"や"仲間を思う気持ち"を思い出して、この状況を乗り越えていこう・・・筆者には、そう聞こえた。

(文・花房ハジメ/イラスト・月野くみ)