動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で観られる"最強年下男子"特集。第2弾は、『中学聖日記』(TBS系)の黒岩晶(岡田健史)だ。平成最後に現れた新星の歴史に残る初演技。その輝きをたっぷりと語りたい。

岡田健史の黒岩くんは、誰もが経験した初恋の最大公約数

『中学聖日記』は、俳優・岡田健史のデビュー作。顔も、名前も、誰も知らない。そんな中、突然液晶画面の向こう側に現れた彼に、多くの人が心をさらわれてしまった。

身長180 cm。野球で鍛えたガッシリとした肩と広い背中。その大きな体とアンバランスな15歳という年齢設定は、まさに"大型犬"系年下男子だ。

黒岩くんのビジュアル面での魅力は、その"古風さ"。男らしさを強調する凛々しい眉に、しっかりとした骨格は、イケメンというよりもハンサムという単語の方がしっくり来る正統派の二枚目。そこに、ぷるんとした唇と、母性本能を掻き立てる黒目がちの瞳が加わることで、なんとも言えないあどけなさが。

同世代の中でも大柄なタイプの岡田健史が、実年齢より年下の中学3年生を演じるのは、ビジュルアル的にはアンマッチなはずなのに、なぜかその違和感が、体の成長に心が追いつかない黒岩くんの不安定さを際立てていて、見ているだけでつい心がざわめいてしまう。

さらに中3感を出すために、私服はいかにもイトーヨーカドーの2階で売ってそうなダルダルのTシャツにハーフパンツがメイン。その垢抜けなさに、まだオシャレに興味がない黒岩くんらしさが出ていて、胸をかきむしられるような気持ちになる。Tシャツ×ハーフパンツで夜の堤防であぐらをかく姿は、まさに大きい子どもそのもの。

もちろん制服姿も甘酸っぱさでいっぱいだ。特に、黒岩くんの"大型犬"っぽさを印象づけているのが、夏服の袖から伸びる長い腕。あの長い腕を枕にして机に突っ伏したり、強引に末永聖(有村架純)の腕を引き寄せたり。そのときに浮き出る血管の太さが、少年の中に眠る男の部分を感じさせて、鼓動が早鐘のように打ちはじめる。

また、黒岩くんのビジュアルの良さを演出していたのが、あの緑豊かな田園風景。少年×田園の美しさは、もはや新・日本三景。一面に広がる青草の中を佇む黒岩くんに、なつかしくて、せつなくて、戻りたくてももう戻れない過ぎし日がフラッシュバックする。

黒岩くんの"古風さ"は、言い換えるなら、誰もが経験した初恋の最大公約数のようなもの。それぞれの青春のアルバムを開けば溢れてくる、昔、好きだったあの人の面影を、どことなく持ち合わせているから、黒岩くんを見ると、居ても立ってもいられなくなるのだ。

黒岩くんの"危うさ"が観る者の心まで危うくさせる

キャラクター面での魅力も底なしだ。私たちが黒岩くんから目が離せなくなるのは、彼の持つ"危うさ"のせい。

黒岩くんは、とてもいびつだ。自分ではコントロールできない苛立ちがいつも内側には渦巻いていて。ふとした瞬間にそれが弾けて、外側へ溢れ出す。好きという気持ちにリードをつけて飼い慣らす気なんてさらさらない。第2話で強引に聖を体育倉庫に連れ込んで「子ども扱いしないでください」と迫ったかと思えば、第3話では「足はもう平気?」と声をかけた聖に対し、そっけなく目でうなずいて立ち去るだけ。

15歳の心は、いつだって不安定だ。自分も確かに経験したはずなのに、その時期を過ぎてしまえば当時何を考えていたか正確になぞることなんて不可能で、まるで心が読めないから、余計にわけがわからなくて、つい気になってしまう。それを計算ではなく天然でやってくるので、黒岩くんは年上女子にとってある意味で"魔性の男"だ。

そのくせ好きな人に対しては、いつだってストレート。「今のまんまの聖ちゃんがいい」とダメな自分を全力肯定してくれる。いくら大人だと世間に言われてもまだ大人になりきれていなくて、自分ひとりの足で立つのは心許ない20代半ばの女性の弱さに、黒岩くんの全力肯定は劇薬だ。効き目が強すぎて、どんなに心の紐を固く締めつけても、ほどけてしまう。黒岩くんの"危うさ"にふれていると、自分の心まで危うくなってしまうから手に負えないのだ。

演じる岡田健史の声は、少しウェットだ。その湿り気が、黒岩晶というキャラクターに憂いを添えている。ただ聖のことが好きなだけなのにうまくいかないもどかしさ。やろうとしていることと、実際にやってしまうことがバラバラで、自分でも説明がつかないじれったさ。言語化しづらい思春期の"危うさ"にリアリティが生まれたのは、岡田健史の持つ湿度の高い声によるところも大きいだろう。

20200420_toshishita_02.jpg

年下男子の魅力が全開!黒岩くん名場面3選

そんな黒岩くんの個人的な名場面を3つ挙げると、まず1つは第3話。母親(夏川結衣)が倒れたと知らせを受けた黒岩くんは、勉強合宿を途中で切り上げ、帰路に着く。駅まで同行する予定だった聖は、発車間際に黒岩くんに腕を引っ張られ、車内に。結局、終点まで付き添うことになる。

シートに並ぶふたり。ふれそうでふれないお互いの手。聖の手を握りたくて、でも勇気がわかなくて、チラチラと目を泳がせ、タイミングをうかがう黒岩くんの表情はまさに中3男子。年下男子の初々しさ全開で、見ているこちらの頬が熱くなる。岡田健史の目線の動きや唇をかすかに動かす仕草もリアルで、つくりこみすぎない彼の持ち味がここで本領発揮されていた。

2つめが第5話のクライマックス。婚約者・川合勝太郎(町田啓太)の車に乗り町を去る聖を黒岩くんが追いかける、前半の山場となるシーンだ。ちょっと大きめのロングTシャツを風ではためかせながら、がむしゃらにペダルを漕ぐ黒岩くん。蝉の声。夏草の匂い。覆いかぶさるUruの主題歌「プロローグ」。

泣きそうな声で「先生」と呼び続ける声が、「聖ちゃん」に変わる。自転車が倒れても、頬を擦りむいても、黒岩くんは追い続ける。相手は車だ。どんなに全力で走っても追いつけるはずがない。それは、聖と黒岩くんの関係そのもので、どんなに一生懸命黒岩くんが大人になろうとしても、黒岩くんは15歳で、聖との差を埋めることなんてできない。そんな運命を示唆した演出と、眉を八の字にしながら必死で「大人になるから。だから行かないで。待って」と叫ぶ黒岩くんに、身がちぎれそうになる。多くの人の涙を誘った、年下男子の健気さが伝わる名場面だ。

3つめは第9話。3年の時が過ぎ、18歳となった黒岩くんは、音信不通だった父親(岸谷五朗)に会うため、山江島へ。そこで聖と黒岩くんは、豪雨に見舞われ、山小屋でふたりきりの夜を過ごす。雨に濡れた黒岩くんにはもう中3の頃の野暮ったさはなく、「俺だって男ですよ」と聖に視線を送る表情は、男の色気と苦悩がムンムン。

そして、ふたりは止まっていた時計の針を動かすように唇を重ねる。このときのかすかに入った眉間の皺。なめらかな鼻梁。聖の口元を撫でるように添う指の美しさ。そのすべてが完璧で、まさに年下男子が男になった決定的瞬間。映画のようなキスシーンに、まるで自分まで黒岩くんに抱きすくめられたような気持ちになる。

これだけの大役を、演技経験ゼロの新人に任せた制作陣の心意気にも拍手だが、何よりやはりやり遂げた岡田健史の爆発力は、きっと今後も語り継がれていくはず。パラビでは、未公開シーンを含むディレクターズカット版を配信しているので、ぜひチェックしてほしい。

本作以降、岡田健史は地上波の連ドラへのレギュラー出演がなく、多くのファンから登板を期待されていたが、春からの新ドラマ『MIU404(読み:ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系)で待ちに待ったカムバックを果たす。もう黒岩くんが見られないのは残念だが、常にアップデートしていく岡田健史の最新地点を追うことは、きっと無上の楽しみとなるはずだ。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)