危機的、災厄的な状況下の幕末。現代からタイムスリップした医師、南方仁の生き方は、不安が充満する今を生きる我々に大いなる勇気と希望をくれる!

2009年10月期、2011年4月期に放送された日曜劇場『JIN -仁-』(TBS系)。脳外科医の南方仁(大沢たかお)が幕末の江戸時代にタイムスリップするところから始まるこの物語は、2009年と2011年、2クールを通して全22話が放送され、2011年の最終回まで高視聴率をマークしたまま幕を閉じた大人気作。ファンタジー要素がありながら、南方仁の、医師としての大義・・・それを全うすることによる歴史を変えてしまう畏れととまどい、時を超えて生まれる絆と愛に翻弄される姿は多くの人の心を動かし、人の本質を深く描いたヒューマンドラマとなった。

大沢たかお、中谷美紀、綾瀬はるか、小出恵介、桐谷健太、田口浩正、戸田菜穂、武田鉄矢、中村敦夫、高岡早紀、六平直政、麻生祐未、小日向文世、内野聖陽ほか、華も実力も携えた豪華すぎるキャストが集結した話題作が、現在動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中。さらに、4月18日(土)より、3週連続で特別編『JIN -仁- レジェンド』が放送される。

成し遂げる男の美しいまなざし

"神は乗り越えられる試練しか与えない"という信念を胸に、幕末を生き抜いていく仁。得体のしれない彼を受け入れてくれたのは、武士・橘恭太郎(小出)一家。記憶を失った謎の男として存在することになった仁だが、江戸時代にはない医療技術で人々の命を救い、緒方洪庵(武田)ら西洋医学所の面々を驚かせ、認めさせる。伝染病が流行り、治療に精を出す仁は、自らも感染しながらも収束へと大活躍。医師としての数々のシーンは、医療ドラマとして見応えアリ。しかし、仁最大の武器は医療技術にあらず。"真っ直ぐな汚れなき心"というものはいつの時代も最強で、謎の男、仁が江戸の人々と心通わせていったのは、技術を超えた人徳だ。"この人を信じてみたい"と思わせる"成し遂げる男のまなざし"・・・淀みない大沢たかおの瞳の美しさから、仁の志、作品のメッセージを受け取ってほしい。

物語のキーパーソンはヒロインの"咲"

仁の人柄と志をいち早く感じ取り、尊敬から恋心へと心が動いていくのは咲(綾瀬)。咲は本作のラブコメと成長物語の要素を請け負うチャーミングなキャラクターだ。そして咲は、仁の人生に最後まで影響を与え続けるキーパーソンと呼べる。まだ女性が社会で活躍できない時代に咲は、仁の世話をするうちに自我が芽生え、仁が江戸時代で医療を行うにあたって、欠かせない一番弟子となる。その凛とした立ち振る舞いと女性としての愛らしさは、綾瀬はるかの十八番。女性視聴者の多くは咲に共感しながら、ドラマに惹きこまれていくだろう。女とて、強い意志と信じられる上司がいてくれたら・・・そして信愛の情が心にあればできぬことなどないのだ。強く生き抜いていけるのだ。

ついマネしたくなる麗しき"ありんす"

もうひとり、仁の人生に欠かせないのが花魁、野風(中谷)。咲の存在と対比するように、"たまらない大人の女の魅力"を存分に醸し出すのが彼女だ。中谷美紀は、現代では南方仁が救えなかった恋人・未来も演じ、2つの時代を通して仁を激しく動かし、そしてその儚さを見事に表現している。この粋な配役は、野風と仁には幾世にも渡る運命の絆があると想像させ、咲と仁が"ラブコメ"ならば、野風と仁は完全なる恋愛ドラマの見応えを感じさせてくれる。野風は、江戸時代には施しようもない病に侵され、仁が治療を試みなければそう長く持たずに間違いなく死ぬ運命。歴史を変えるか否か? 愛する人を救う選択をするか!? 打ちひしがれる仁の苦悩も見どころとなっていく。余談だが、放送当時、野風が使う花魁ことばの"ありんす"はちょっとした流行語にもなったのは、言い回しの色気の賜物だ。

寺田屋事件へと向かうスリル

仁の倫理観を揺さぶったのは野風だけではない。寺田屋で斬殺されることが歴史として残る坂本龍馬(内野聖陽)もその一人。仁が龍馬に、死の史実を事前に伝えるかどうか・・・仁は龍馬を救うのか!? 物語の中での大きな山場のひとつだ。江戸時代の人にとって、ちんぷんかんぷんなことを多々発言する仁を面白がっても決して否定することない龍馬は、まさに"新しい時代の幕開けの立役者"の素養。内野聖陽が作り上げた龍馬は、"龍馬ってこんな人だったらいいな"という、龍馬ファンの期待を裏切らないどころか、想像の上を行く豪快さと懐の広さを伺わせて、ドラマ『JIN -仁-』のキャラクターとしても大人気を得た。仁の能力、人間力に惚れ、男同士の絆を深めていく龍馬。そんな仁と龍馬には、バディ物のドラマの醍醐味があり、寺田屋事件へ向けて時が流れるほどに、"寺田屋、できるだけ先に延ばして"という"時代劇あるある"も発生した。

医療従事者のプロ意識と命懸けの使命感に感動し、感謝してもし足りないと想う今。伝染病が蔓延る江戸で命を懸けた仁の姿が浮かんでくる。エンターテインメント作品としても多くの感情を呼び覚ます名作であり、日本の医療の歴史の学びにもなる『JIN -仁-』。何も考えず、ただ夢中になって視聴しても、必ずあなたの中に何かを残す作品であることをお約束する。

(文・堀江純子/いらすと・まつもとりえこ)