間もなく始まる新ドラマ『MIU404(読み:ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系)に向けて、脚本・野木亜紀子の過去作品をフィーチャー。特集第2弾は、2016年4月期に放送された『重版出来!』(TBS系)だ。

第4回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」作品賞に輝いた隠れた名作。その魅力をこの機会にぜひ知ってほしい。

理想か、現実か。漫画を愛する編集者たちの信念に胸が熱くなる

大人になると「夢」という言葉を口にするのは、なんだかとっても面映ゆい。仕事に夢を重ねるなんて青臭すぎて、今の時代では鼻白む人の方が多いかもしれない。でももし仕事を夢と呼べたら、きっと人生はもっと楽しくなる。『重版出来!』は、仕事という名の夢に燃える人々の背中を通じて、「何のために働くのか」を視聴者に問う、ポップで前向きなお仕事ドラマだ。

主人公は、元柔道日本代表候補の黒沢心(黒木華)。怪我で五輪の夢を絶たれた心が新たな夢の場所として選んだのが、週刊コミック誌「バイブス」編集部だった。柔道で鍛えためげない精神を武器に編集者の道を切り開く心と、彼女を取り囲む編集者や営業部員、漫画家などさまざまなキャラクターが「いい漫画をつくる」という夢に向かって突き進む姿が、観る人の胸に一陣の風を巻き起こす。

中でも、この『重版出来!』を名作と呼びたい理由は、夢を追うきらめきと厳しさの両面に光を当てながら、立場も信念も異なる各キャラクターの価値観を決して否定せず、バランス良く成立させているところ。その持ち味が炸裂しているのが、第6話だ。

漫画家の気持ちに寄り添い、伴走者としてエールを送り続ける心と、漫画は商品であり、数字こそが正義だと考える先輩編集者の安井昇(安田顕)。心が発掘した新人漫画家・東江絹(高月彩良)の画力に目をつけた安井は、東江にデビューの話を持ちかけ、心から担当を横取りする。

しかし、売上至上主義の安井の無茶な要求に振り回され、東江は身も心もボロボロに。東江とまともにコミュニケーションをとろうともしない安井のやり方に心は反発するが、水と油のふたりの主張は平行線を辿るばかり。

だが、実は安井はかつては心そっくりの熱血編集者だったという。それがなぜ新人ツブシと悪名高い冷血編集者になってしまったのか。そこには、かつて売上不振により担当していたコミック誌が廃刊の憂き目にあったというシビアな過去が秘められていた。

雑誌を守るために、たとえ憎まれ役になってでも売上をあげる安井。誰よりも漫画家の才能を信じ、全力でサポートをする心。同じ編集者ながら、ふたりのポリシーは正反対。最終的に、東江は「大好きな漫画で道具にされたくないんです」と安井のもとを離れる。だけど、決して心が正しくて、安井が間違っているわけではない。そう強く印象づけてくれたのが、ラストで編集長の和田靖樹(松重豊)が安井に向かって言ったこの台詞だ。

「お前が確実に稼いでくれるおかげで、他の作品で冒険できる。勝負するところで勝負できている」

理想だけではメシは食えない。誰もやりたがらないことをやってくれる人がいるから、仕事はまわっている。誰かを悪者にするのは簡単だけど、きっとその人にはその人の正義があって、一人ひとり考えが違うからこそ、それぞれの個性や役割を活かせるのが、協働の面白さ。安井が安易に心に感化されることなく、最後までビジネスライクに徹したところに、この作品の信念が凝縮されていて、より深い感動を味わえた。

一度、職場を見渡してみてほしい。嫌いな上司や苦手な先輩、話の合わない同僚に腹の立つ後輩。たぶん、いっぱいいると思う。あの人には何を言っても伝わらない。いったい何を考えているのかわからない。そう思わず舌打ちをしてしまう瞬間は、きっと一度や二度じゃないはずだ。

でも、自分には見えないところで、きっとこの人も戦っているんだ。大切なものを守るために、自分の誇りのために、時には歯を食いしばり、時にはトイレの個室で泣いている。そう想像してみたら、わからず屋にしか思えない職場のあの人のことも、もう少し理解してみたい、一緒に何かをしてみたい、そんな気持ちが湧いてくる。あくまで舞台は出版業界だけど、これは働くすべての人のためのドラマなのだ。

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愛すべきキャラクターたちが、ドラマをさらに面白くする

原作は、松田奈緒子の同名コミック。基本的には原作に忠実に沿いながら、それでいてまだ未完の作品をしっかり1クールのドラマとして着地させた野木亜紀子の手腕は見事の一言。

ここで紹介した第6話だけでなく、営業職にやりがいを見出せなかった小泉純(坂口健太郎)が仕事への情熱に目覚める第2話や、万年アシスタントの沼田渡(ムロツヨシ)が自らの夢に決着をつける第7話など、思い出すだけで胸が熱くなるエピソードが満載。各話のナレーションを、登場人物が1話ごとに交替しながら担当していたのも、仕事とは全員が主人公であるというこのドラマらしさが光るナイスアイデアだった。

原作はドラマ終了後も続いているだけに、続編をやれる下地は整っている。ひそかにシーズン2を期待してやまない、2010年代を代表するお仕事ドラマの金字塔だ。

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第3弾は、野木亜紀子の評価を決定づけたあの傑作ドラマを紹介。その魅力を"解剖"する。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)