日曜劇場『テセウスの船』(TBS系)に出演中の安藤政信。短い出番でも視聴者の心をかき立てる存在感は、20代の頃、数々の映画で見せたそれと何も変わらない。

キャリア初期から映画を主戦場とし、テレビドラマの出演は限られていたが、近年は『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- 3rd season』(フジテレビ系)、『恋のツキ』(テレビ東京系)、『あなたの番です』(日本テレビ系)など連ドラでも強い印象を残している。

44歳になった安藤政信は、どんなことを考えながら俳優業に取り組んでいるのだろうか。

【インタビュー前編】あふれる竹内涼真への友情。安藤政信が『テセウスの船』に懸けた想い

やっとテレビドラマって面白いんだと思えるようになった

――前編からお話を聞いていると主演の竹内涼真さんに対する安藤さんの格別の想いを感じます。一生懸命な竹内さんを見ていたら、20代の自分を思い出したりするんじゃないですか?

俺が20代のときは1ヶ月仕事したら、あと残りの1年はずっと京都で遊んでいたり、3年間まったく仕事しなかったり・・・そういう人間だったから、涼真とはまったく別人です(笑)。

本当にすごい人だと思う、涼真は。というか、俺の周りにいろんな役者がいるけど、すごい人だらけ。

――とはいえ、安藤さんの20代といえば、映画俳優として唯一無二の存在感を放っていて、今もたくさんの人が安藤さんに憧れを抱いていると思います。

そんなことないですよ。この歳になると、ゴールデンのドラマの主演を張ることとか、そもそもドラマに出ること自体すごいと思うけど、23〜5歳の頃はドラマに対して悪い印象しかなくて、TBSのプロデューサーさんにも「やりたくないです」って言ってましたからね(笑)。

本当バカだなって思います。なんなら俺が過去を書き換えたい。心さんみたいにタイムスリップして、お世話になった関係者のみなさんに謝り倒したい(笑)。

――タイムスリップをしてやることが謝罪ですか(笑)。

俺、『テセウスの船』は毎回リアルタイムで観ているんですけど、面白いなって思いますもん。ちゃんと観てみると、ドラマも面白いんだなって。だからね、「考え直しました!」って謝りに行きたい。それぐらいすごいことをやっていると思いますよ、テレビドラマって。

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20代の頃は、ずっと自分ひとりの世界にいた

――特にここ数年は連続ドラマにもよく出演されるようになりました。安藤さんというと、役に没入して演じる俳優さんという印象が強いのですが、こうやって連ドラの現場に戻ってきたことで、役へのアプローチ法とか演技スタイルで変わった点はありますか?

演技のスタイルは変わっていないですね。ただ、許容範囲というか、器は絶対広がったと思います。20代の頃は、それが自分が触れたことのあるものでもないものでも、とにかく勝手なイメージだけで「これはだっせえ」とか決めつけていて。「尖っていた」というのはとてもいい言葉だと思うんだけど、まさに尖っていましたね。だからこそ尖ったものができたとも言えるし。

でも今はそうじゃなくて。今までなら許せなかった部分を許していけるようになった。きっと20代の頃は、そうやっていろんなものを許した先に自分の人生が広がっていくこともあるんだということを想像できないから、ああいうふうに尖っていくわけじゃない?

自分の許容範囲を広げたときに、どれだけ人生が広がるか。その意識を持てたことで、自分自身の器が広がったというか、人間形成ができた面はあるかなと思います。

――許せるようになった理由は何がありましたか?

若い頃の俺はとにかくひとりが好きだったから。人と集まるのとか喋るのとか全然してなくて、誘われても全然行かなかった。ずっと自分ひとりの世界にいて、誰のことも認めたくないし、俺は俺でいいからっていうスタンスでやっていたんですよ。

その結果、何が起きたかというと、何も動かないんです。要は、何かをやりたい、何かを動かしたい、何かを計画したいと思ったら、まずは誰か理解者が必要。どれだけ革命的なことを考えていたとしても、ひとりじゃ何も動かない。そのことにも気づかず、ずっとひとりで考えていたんですよ、20代の俺は。

今もね、根っこの考え方は20代の頃と同じなんですけど、ちゃんと人とやろうと思えるようになった。そうすると、許せなかったことも許せるようになったし、人生も動き出したのかなと。

――じゃあ、今でこそ竹内さんのような後輩のことを可愛がっていらっしゃいますが、当時は?

後輩とか全然。人のことは・・・クソだなと(笑)。

――一拍置いて言葉を選んでくるのかと思いきや、全然言葉を選ばなくて笑ってしまいました(笑)。

本当、人のことをクソだと思っていたんですよ(笑)。年上も年下もタメもみんな。全然人と付き合っていなかったですね。

――今は人と付き合うのは楽しいですか?

楽しいというよりは、やっていることは、ひとりでいたときと同じようなことなんですよ。

鏡の前に立ったら、その鏡の中には、鏡の前に立っている自分がいるわけじゃないですか。そのとき人間って鏡の中に映る自分を大切に見るはず。それと同じぐらい他人のことを大切に見ているだけというか。そうすると、相手も自分のことを大切に見てくれる。

要は、反射ですよね。自分のしたことが自分にバウンスしてくる、それだけのこと。すごくシンプルなことで、それだけで人生って変わるんだよなってことがわかるようになったというか。

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後悔や無念が、未来になる

――そんな安藤さんに聞きます。昔は1年に1本、作品に出たらあとはお休みというような生活をされていたとおっしゃっていました。今、安藤さんにとって仕事ってどんなものですか?

要は食うためのものなんだけど。でもそれで終わりじゃなくて、自分がやりたいこととか、頭の中で想像しているクリエイティブなことだって、ちゃんとやればそこにプラスしていけるんだって、ようやく思えるようになりました。

――昔は、そう思えなかった?

そりゃそうだよね、ずっとひとりだったから。あれがやりたいこれがやりたいと思っても、なんで動かないんだってことばっかりで。今から考えてみれば、いやそれはお前のやり方が悪いよって言えるけど、当時はわからないし。そういう失敗があったからこそ気づけることもあったし。

――ちょっと聞いてみたいんですけど、心のようにタイムスリップできたら、過去にお世話になった人に謝りに行きたいっておっしゃっていましたけど、真面目な話、タイムスリップできるとしたらどうしたいですか?

なんだろう・・・。人生1回で、もしそのタイムスリップでるのも1回きりだったら、逆に失敗しちゃってもいいなって。タイムスリップしたと思ったら2分前に戻っていたとかバカみたいで面白いじゃないですか。「なんで? なんで2分前に戻ったの? なんてバカなことをしているの?」って自分の嫁に言われたら爆笑だなって(笑)。

その程度でいいんじゃないですかね。子どもの頃に戻って人生をやり直したいとか、そういう考えはないですね。

――安藤さんは後悔自体しないタイプですか?

全然しますよ、そりゃ後悔はしますけど。要は、後悔とか無念とか、そういうことが未来になるわけじゃないですか。過去の失敗とか、そういうのも今と向き合うためのものだから。

若い頃の話にしたって、20代のときは10年間ぐらい、たとえば1本仕事して、映画1本分のギャラが入ったら、それを自分ひとりの旅行のためだけに使って、ずっと枯山水見たり美術見たり、そういう生活をしていましたけど。

俺、別にいい車乗っていいカッコしてどうのこうのでお金を使ってたわけじゃなくて。ずっと旅して、自然だったり庭だったり美術だったり写真だったり、そっちにお金を使っていたんですね。で、今となってみれば意外とそれが全部実になっているんです。

そのときは何も思っていなくても、たとえば浮世絵だと、伊藤若冲とか曾我蕭白が好きなんですけど、その人たちの作品を見て感じたことをファッションに持っていったり、ライティングとか絵のヒントになっている。生きていると、そう感じることばっかりだから。だから、やり直したいことなんて何もない。過去に戻りたいと思うことは本当にないんです。

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(取材・文:横川良明)

【衣装】
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シューズ/ ASICS Walking
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(スタイリスト:川谷太一/ヘアメイク:桑本勝彦)

◆番組情報
日曜劇場『テセウスの船』
毎週日曜夜9:00からTBSで放送中
動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも放送終了後に配信。