大人が落ち込む理由って、突きつめて言えば6割ぐらいは「淋しさ」なんじゃないかと思う。自分のことを必要としてくれる人がいない。認めてくれる人がいない。今この瞬間誰かにそばにいてほしいのに、そばにいてくれる人が誰もいない。そういう「淋しさ」を抱えながら、大人たちはやりきれないいくつもの夜をやり過ごしている。
現在、毎週水曜深夜1:35からテレビ東京ほかで放送中、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信中のドラマパラビ『来世ではちゃんとします』。主人公の桃江(内田理央)には5人もセフレがいて、毎晩取っ替え引っ替えセフレの誰かとベッドを共にしている。貞操観念はユルユル。おいそれと共感できるとは公言しにくいキャラクターだ。
でもきっと、観れば誰も桃江を嫌いになんてなれない。むしろちょっとその気持ちわかるって飲みにでも誘いたくなる。それは、桃江が大人なら誰しもが持っている普遍的な「淋しさ」に惑いながら、自分なりに生きている等身大の女の子だからだ。
保留ボタンでもいい。嫌なことを忘れさせてくれるから、桃江はセックスをする
桃江のセフレは5人。SM好きのハイスペックイケメンサラリーマン・Aくん(塩野瑛久)。優しくてモテるが、性格はやや屈折している広告代理店勤務のBくん(平田雄也)。メーカー勤務で体力と性欲の強いCくん(野村尚平)。陽キャな元ヤンのフリーター・Dくん(富田健太郎)。投資家のお金持ちでハイスペ美女に固執するEくん(おばたのお兄さん)。
それぞれタイプの違うセフレとのセックスを謳歌しているが、心の中ではAくんに対して特別な想いを寄せている。「彼女できたから」と言われても離れられなかったり、「あなたが選んでくれたら他は綺麗に切れるのに」と心の中で呟いたり。その切ない気持ちは、恋と呼んでいいものだろう。
だけど、Aくんは自分を性欲解消の道具としか見ていない。行為が終わったあと、寝るときにいつもAくんは背中を向ける。いつか自分の体が衰えたら、きっとこの人は自分のことを抱いてくれなくなる。パッと見は楽天的で快楽主義のように見えるけど、本当はアラサーならではの人生の不安にさらされていて、その切実さがリアルだから、いつの間にか桃江が自分の映し鏡のように見えてくるのだ。
特にグッと来たのは、第5話。Aくんは彼女に送るつもりだったLINEを誤爆してくるし、グループLINEでは高校の同級生が出産やら妊娠やら幸せアピールの大合戦。どうにもやりきれなくなった桃江は、自分以上に何も考えていなくておバカなDくんを呼び出す。
中身のない話で笑ったり、気持ちいいだけのセックスをしたり。それは何にも解決にはならなくて、ただ保留ボタンを押しているだけに過ぎない。だけど、その時間が自分を救ってくれる。将来とか、成長とか、そういう前のめりなワードから自分を引き離してくれる。全然生産的じゃない、何にもない自分を許してくれる。その刹那的な感じが突き刺さりすぎて、痛いぐらい胸を締めつけられた。
『来世ではちゃんとします』は、「セフレ」という単語で敬遠している人がいたらもったいないぐらい、ごく普通の女の子のどこにでもある悩みを、時にポップに、時にセンチメンタルに描いた、今を生きる私たちのためのドラマなのだ。
誰も否定しない。それでいいじゃん。だからこのドラマは心地いい
そんな本作には、桃江以外にも、ちょっといろいろこじらせた登場人物がたくさん登場する。彼氏いない歴=年齢の隠れ処女の高杉梅(太田莉菜)に、付き合った女をことごとくメンヘラ化させていく魔性のタラシ・松田健(小関裕太)。処女しか好きになれないセカンド童貞・林勝(後藤剛範)、風俗嬢にガチ恋している檜山トヲル(飛永翼)など、桃江が働くCG制作会社「スタジオデルタ」は、ひと癖もふた癖もある人たちばかり。
梅は3次元には目もくれず、2次元のキャラクターにばかり熱をあげているし、松田はAくんに負けず劣らずのヤリチン。林は元カノのSNSを覗き見しては悲観に暮れ、ついにはマッチングアプリで知り合った女装男子の栗山凪(ゆうたろう)にいいように弄ばれてしまう。さらに檜山に至っては風俗嬢の心ちゃん(中川知香)にブランド品を次々と貢ぐ始末。
はっきり言って、世の中の常識から見るとかなりイタイ。だけど、この世界では彼ら彼女らを真っ向から否定する人はいない。そもそも桃江の「セックスが趣味」というキャラクターも特に拒否感なく受け入れられているし、林が女装男子にハマったり、檜山が陰で心ちゃんにバカにされているのも、コミカルには描いているけれど、彼らを冷笑の対象にしようという悪意は感じられない。
むしろ人生は七転八倒で、全然大人になれないけど、そんなイケていない自分も含めて今が幸せならそれでいいじゃんというお気楽さがトーンとして保たれている。だから、観ている人も心地いいのだ。
だいたい性癖なんてものは蓋を開けてみればみんな何かしら特殊なところがあったり屈折させていたりするもの。どんなにオシャレに装って、カッコよくキメても、全部脱いで丸裸になれば人間なんてみんな滑稽だ。マウントをとったり、コンプレックスに感じたりするものじゃない。
タイトル通り「来世ではちゃんとします」とあらゆる問題を生まれ変わった自分にムチャぶりして、自分は自分のままで生きていく。そんな大らかさが、正しさばかりを強要し、自分たちで自分たちを生きにくくさせている今の社会に効いているから、このドラマを観ているとなんだか元気が出るのだ。
各話3本という構成はさらっと観るのにちょうどよく、痛々しい問題もそこまで深刻にさせすぎない効果がある。『サザエさん』とはまったくかけ離れた世界観だけど、ある意味『サザエさん』を観るぐらいのカジュアルさがこのドラマにはフィットしているかもしれない。
自分ってダメだなあ。自分には何もないなあ。と、落ち込んだ夜に。
抱きしめてくれる人も、気軽にLINEできる人も見つからない夜に。
『来世ではちゃんとします』は、「ま、それはそれということで」とあっけらかんと肩を叩いてくれる。
(文・横川良明)
◆番組情報
『来世ではちゃんとします』
毎週水曜深夜1:35からテレビ東京ほかにて放送
また、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で毎話独占先行配信中
(C)『来世ではちゃんとします』製作委員会
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