サムエル・ウルマンは言った。「青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方をいう」と。「青春とは臆病さを退ける勇気、安きにつく気持を振り捨てる冒険心を意味する。ときには、二十歳の青年よりも六十歳の人に青春がある」のだと。

ドラマ『グランメゾン東京』を観て、こんなにもワクワクするのは、そこに青春があるから。主人公の尾花夏樹(木村拓哉)も、ヒロインの早見倫子(鈴木京香)も、お互いに「おじさん」「おばさん」と憎まれ口を叩き合う仲。人生の春はもうとうに過ぎているのかもしれない。だけど、ふたりの心には勇気がみなぎっている。安易な道に逃げ込まず、困難をも楽しむ冒険心に満ちあふれている。これは間違いなく、挫折を知る大人たちのための青春グラフティだ。

夢を失ったふたりが出会って、もう一度夢を見た

本場・パリで日本人初の三つ星を狙える逸材として期待された天才シェフ・尾花夏樹。3年前、尾花がオーナーシェフを務めるフランス料理店「エスコフィユ」で日仏首脳会談の昼食会が行われた。しかし、その料理の中にナッツが入っていたことから、アレルギーを持つ首脳陣のひとりがアナフィラキシーショックを起こしてしまう。たったひと皿により地位も名誉も失った尾花。フランス料理界から追放された尾花の三つ星の夢は無残に潰えた。

一方、もうひとり星を夢見る者がいた。それが、早見倫子だ。星を獲りたい一心で料理の道をひた走ってきたが、才能が届かず店をたたむことに。最後のチャンスに賭け、パリの料理店の門を叩くも不採用。倫子は自分の才能のなさを思い知る。そんな夢破れたふたりが出会い、また夢を見た。自分たちの力で、三つ星レストランをつくる。夢の舞台は、東京。レストランの名は、「グランメゾン東京」。何もかも失った「おじさん」と「おばさん」による再起と挑戦のドラマの幕開けだ。

『グランメゾン東京』は、観る人の心に火をつける。それは、尾花と倫子がどんなときもあきらめないからだ。「グランメゾン東京」オープンに向け、降りかかる数々のピンチ。仲間を募るも、「ナッツ混入事件」によって悪名が広まり、性格に難のある尾花に力を貸してくれる者は誰もいない。パリ時代の同僚である、優秀なギャルソンの京野陸太郎(沢村一樹)も、料理研究家として人気を誇る相沢瓶人(及川光博)も、尾花の顔を見るだけで眉をしかめる始末。開店資金の調達も難航し、尾花を敵視するやり手の飲食経営者・江藤不三男(手塚とおる)の妨害によって一時は開店すら危ぶまれた。

だけど、どんなときも尾花はあきらめない。そんな尾花を見て、倫子も奮い立つ。このドラマの面白いところは、このふたりが完璧な人間というわけではなく、それぞれ欠けているところがあり、それを互いに補うことで、逆風に立ち向かっていくところだ。そして、希望の道を切り開くのは、いつだって「料理」と「心」であることに胸が熱くなる。

たとえば、尾花はライバル店であるレストラン「gaku」で働く京野をヘッドハンティングしようと、修行時代の思い出のまかない飯を振る舞う。しかし、尾花のせいで多額の借金を背負った京野は「お前なんかのために「gaku」を辞めるわけにはいかないんだよ」と反発する。

頑なな京野の心を溶かしたのは、倫子だった。単身「gaku」に乗り込んだ倫子は、なけなしの貯金をはたいて京野の借金を肩代わりし、捨て身で京野を説得した。同じように料理の才能に苦しみながら、それでも星を獲る夢をあきらめない倫子の一途さに、京野もまたもう一度夢を見ようと決意したのだ。

愛娘との生活を優先するため、「グランメゾン東京」では働けないと固辞していた相沢が仲間に加わったのも、黙って娘のためにキャラ弁をつくり続けた尾花の「料理」に込めた想いと、「自分の家族や店の仲間を幸せにできないような人がお客さんを幸せにできるわけありませんよ」という倫子の「心」のこもった後押しがあったから。

ひとりじゃ、できない。でも、ふたりなら、できる。仲間がいれば、乗り越えられる。おいしい「料理」と、まっすぐな「心」で「グランメゾン東京」は次々と奇跡を起こしていく。

木村拓哉は、表情と仕草で感情を語る

そして、出てくる登場人物たちがみんな人間味に溢れているから、この世界がどんどんいとおしくなってくる。主人公の尾花夏樹は身勝手で頑固で口が悪い。絶対に人を褒めないし、なかなか「ありがとう」も言わない。でもそれは彼が不器用なだけで、決して尾花は嘘をついたりはしない。おいしい料理を食べれば、たとえそれがライバル店でも天を仰いで感嘆し、倫子が京野を「gaku」から連れてきたときはお礼を言う代わりに、背中を向けたままサムズアップで感謝を伝えた(そして、倫子に「口で言えよ」とツッコまれる)。

口下手な尾花は、すべてを料理で表現する。「ごめん」も「ありがとう」も「お前のことが必要だ」も、すべて料理にこめる。だから、尾花夏樹の料理は人の心を動かすのだろう。口にするだけで、言葉にできない感動が広がっていくのだろう。

そんな尾花夏樹を木村拓哉が実に魅力的に演じている。木村拓哉の真骨頂は、前述のサムズアップのような、台詞以外の表情や仕草で役の魅力や感情を雄弁に語れるところだと思う。たとえば第2話、融資を渋る銀行員・汐瀬(春風亭昇太)に、倫子が「この前菜は人の意見を聞かない頑固な料理人が自分の価値観を曲げて昔の仲間の助言を活かしてつくったんです。このひと皿にはそれだけの価値があるんです」と訴える。その瞬間の、目を赤らめながら小さく顎を上げる尾花の表情がリアルで、胸の内に熱い昂りが広がっているのが、説明しなくても伝わってきた。

鈴木京香も堂々たる存在感だ。第5話で「ナッツ混入事件」に対するバッシングで閉店の危機に追い込まれる「グランメゾン東京」。チームの間で苛立ちと疲弊が広がり、険悪なムードに。事態を収拾させようと、自分が「ナッツ混入事件」の犯人だと泥をかぶる京野。そんな京野を止めようと、尾花は声を荒げて摑みかかる。アラフィフの「おっさん」ふたりが暑苦しく互いを庇い合う姿は、まるで学園ドラマみたいだ。

そんなふたりを見て、倫子は「勝手に言ってろ。食べたくない人は食べなきゃいいわよ」と怒鳴る。そして、「私たちは今、おいしい料理をつくっている。それを食べたお客さんたちは喜んでくれてる。何も間違っていないよね」とまっすぐ尾花と京野を見つめる。倫子が単なる「お飾りオーナーシェフ」ではないことを証明する名場面だ。料理人としての威厳と誇りを表情に溶かして見事に演じ切る鈴木京香の説得力に、まるで自分も「グランメゾン東京」の一員として、その場にいるような感覚になる。

尾花も、倫子も、京野も、いい年して不器用で、いい年して熱くて、いい年して本気で、だからこそ観る人も思うのだ、自分もこんなふうに本気になりたいと。

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「若造」代表・玉森裕太の成長と葛藤が、よりドラマを熱くする

「おじさん」「おばさん」の本気は、「若造」たちも熱くさせる。一流店を「飽きたんで」と半年で辞め、「料理なんてどんなに努力したって才能ない人は一生ダメ」と豪語するパティシエ・松井萌絵(吉谷彩子)は、尾花たちと出会うまでは、センスは良くてもただの自惚屋だった。けれど、たったひと皿をつくるために、何度も何度も試行錯誤を繰り返し、睡眠時間を返上してレシピ開発に取り組む尾花たちと働くことで、初めて努力することの意味を知る。楽勝なんかじゃなくていい。這いつくばってでも、最上のひと皿を目指す。その喜びと大切さを知り、「もっと勉強したいです、もっと頑張りたいです」と声を震わせる萌絵の顔には、もう「どんなに努力したって才能ない人は一生ダメ」と切り捨てたときの傲慢さはどこにもなかった。

そして、「おじさん」「おばさん」の奮闘に誰よりも感化されている「若造」が、パリ時代から見習いとして尾花のもとで腕を磨いてきた若手シェフ・平古祥平(玉森裕太)だろう。誰よりも尾花に憧れ、誰よりも一途に料理のことを考えてきた祥平。「グランメゾン東京」にピンチが襲いかかるたびに、陰日向になって力を貸すにもかかわらず、彼がなかなか正式に仲間に加わらないのは、尾花への反発心か、あるいは憧れゆえに意地を張っていただけなのだと思っていた。

けれど、違った。「ナッツ混入事件」を引き起こしたのは、他ならぬ祥平の不注意だった。その罪悪感にずっと苦しんできたからこそ、祥平はもう一度尾花のもとに戻ることができなかった。すべてを告白し謝罪しようとする祥平。そんな祥平の心を見透かすように「何も言うな。ただし、フレンチ辞めんじゃねえぞ」と尾花は忠告する。このときの木村拓哉の凛々しい目、そして玉森裕太の崩れそうな気持ちを必死にこらえるような潤んだ目には、フィクションを超えた師弟関係がにじみ出ていた。

一見冷めた「若造」たちが、尾花たちとの関わりを経て情熱を噴火させることで、ドラマはますますヒートアップしていくのだ。

青春ドラマは、若者だけの特権じゃない

SNSの炎上により経営危機に追い込まれた「グランメゾン東京」だったが、世界的に権威のある「トップレストラン50」の候補店に選ばれたことから復活。店は軌道に乗りはじめる。

そしていよいよ新展開へ。「グランメゾン東京」に加わるだろうと思われた祥平は、ライバル店「gaku」に加入。本気で尾花に憧れているからこそ、尾花のもとで働くのではなく、本気で尾花と戦ってみたいと思ったのだろう。祥平の加入により「gaku」はもはやただの悪役ではない。どちらも三つ星を目指す青春ドラマの主人公だ。きっとこれまで以上に熱い料理バトルを繰り広げてくれるだろう。

心躍る青春ドラマの舞台はこれで整った。「おじさん」も「おばさん」も「若造」もみんながたったひと皿のために情熱とプライドを注いでいく。青春ドラマは、若者だけの特権じゃない。シワができても、お腹がたるんでも、みんなずっと青春なのだということを、『グランメゾン東京』は教えてくれる。

引用:『青春とは、心の若さである。 』(角川文庫―角川文庫ソフィア) 著:サムエル ウルマン、訳:作山宗久

◆番組情報
『グランメゾン東京』
毎週日曜夜9:00からTBSで放送中。
毎週地上波放送後に、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信され、パラビでは本作の配信版オリジナルストーリー『グラグラメゾン♥東京 ~平古祥平の揺れる思い~』も配信中。

(C)TBS