ラグビーワールドカップ日本大会が国内を大きく盛り上げている。その導火線のひとつは、9月までTBSの日曜劇場で流れていた『ノーサイド・ゲーム』ではないか。ラグビー部を持つ企業の人間模様が描かれ、選手役の多くが本物の日本代表経験者だったことも話題を呼んだ。

ドラマと現実のつながりも垣間見えた。昨今の日本代表戦で見られた技のひとつに、接点で相手の球へ絡む「ジャッカル」があった。これは物語においてもフォーカスされたものだ。

動画配信サービス「パラビ(Paravi)」では、この『ノーサイド・ゲーム』のディレクターズカット版が配信中。ラグビー経験者である福澤克雄監督の演出とラグビー経験者をそろえたキャスティングでファンをうならせた迫力満点の試合シーンが魅力だった本作。本編に入りきらなかった貴重なシーンや試合の場面がディレクターズカット版では観ることが出来、本編を全て見た視聴者やユーザーも、見逃せないコンテンツとなっている。

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さらに、ここからは劇中の『トキワ自動車アストロズ』の登場人物のプレースタイルを、いまのワールドカップでプレーする選手と重ね合わせつつ紹介する。両者の相関性に触れたら、どちらももっと楽しめる。

■岸和田徹(高橋光臣)

チームの主将として首脳陣と選手のパイプ役を担う「テツ」こと岸和田徹。インサイドセンターに入る。

現日本代表の同職は中村亮土が務め、タックル後の素早い起き上がりと位置取りで渋く光る。抜け出す相手を追って止めるプレーは「テツ」の献身ぶりとリンクしうる。

■浜畑譲(廣瀬俊朗)

岸和田とともに低迷期からアストロズを支えた浜畑譲は、司令塔のスタンドオフで元日本代表。敵軍指揮官がヘッドハントを試みる際の「南アフリカ代表戦に出られなくて・・・」との口説き文句は、演じた元日本代表主将の廣瀬俊朗さんのワールドカップイングランド大会(2015年)での立ち位置とも繋がった。

日本代表で言うと今大会1次リーグの得点王となった田村優がこのポジションだ。ちなみに浜畑顔負けの司令塔といえば、イングランド代表のオーウェン・ファレルがいる。ピンチを防ぐタックルでも際立つ。

■七尾圭太(眞栄田郷敦)

七尾は浜畑とアストロズの背番号10を争う新星。ニュージーランド帰りの大型スタンドオフで、恵まれたサイズを活かした走りと一撃必殺のドロップゴールを切り札とする。

今度のワールドカップでは、フランス代表スタンドオフのカミーユ・ロペスがアルゼンチン代表戦で途中出場するや美しいドロップゴールを決めた。先発スタンドオフのロマン・ヌタマックはランニングとオフロードパスが持ち味で、七尾はこの両者の魅力を併せ持っていると言えそう。

■安西信彦(齊藤祐也)

フランスでのプレー経験もある元日本代表ナンバーエイトの齊藤祐也さんが、アストロズのベテランフランカーの安西信彦を演じる。ナンバーエイトとフランカーはいずれもフォワード第3列とされ、突進、タックル、肉弾戦での働きが強く求められるポジションで、
日本代表では今大会での活躍が目立つ姫野和樹が務めている。

安西が試合中で見せるのは、迫りくる相手を正面から受け止めて地面にたたきつけるタックル。ワールドカップでも滅多に見られぬワイルドな妙技だ。鮮やかな突破でも光る安西は、ニュージーランド代表でいえば年齢を重ねたアーディ・サヴェアのような存在か。列強国の防御を破り、接点で圧をかける人だ。

■佐々一(林家たま平)

佐々はラグビーの愛好家を驚かせた。ストーリーの途中で先発入りするスクラムハーフだが、接点から大外のスペースへ後ろ手で球を放ったり、ボールを真後ろに放り投げて味方に渡したりと、なぜこんな選手が最初からレギュラーではなかったのかと思わせる奇想天外のパス技術を連発した。

日本代表で言えば田中史朗らがスクラムハーフを務めているが、他のポジションの選手を含めたら日本代表でアウトサイドセンターを務めるラファエレ ティモシーが佐々に重なりそう。タックルされながら強いパスを放ったり、防御の陣形を見定めてピンポイントのキックを転がしたりと、強くて器用だ。

(文:ラグビーライター・向 風見也)

『ノーサイド・ゲーム』(C)TBS