――呉井を演じてみて、感じたことは?
呉井という人物は複雑な人間なんだなぁということを感じました。俗に言う"二面性のある人間"という言葉ではちょっと片付けられないというか。呉井はなぜこういう判断をしたのか、なぜ突発的な行動をしてしまったのか・・・そういう描かれてない幼少期のことを自分なりに掘り下げて考え、演じました。それが今の呉井の行動に繋がっているんだろうなって。自分の人生を生きているだけでは分からないことを呉井というフィルターを通して、少しばかり理解できるようになったかもしれません。そういう意味で言うと、とてもやりがいのある役でした。
――自分なりに掘り下げて考えた呉井の幼少期というのは?
幼いころ、全身にあざを作ってきた呉井に母親が気づくっていう描写があったんです。ただケガをしたんではなくて、周りからいじめられていたんじゃないかとか。それで、「何でいじめられていたんだろう?」「幼少期には、どういう人たちが周りにいたんだろう」ってことまで考えました。
――呉井はなぜいじめられていたと考えたんですか?
自分の中では答えがあるんですけど、言葉にするとトゲがあるので、あまり言えないかな(苦笑)。いじめられる、いじめる原因って、人によってそれぞれあるので、そこは僕の中だけの解釈に留めておきたいと思います。
――では、その幼いころの経験によって呉井はゆがめられ、原作者の真加田(三浦誠己)が死んだ後も"ミリオンジョー"の連載を続けようとしたんでしょうか。
おそらく当の本人はゆがんでいるとは思っていないんですよ。変わっている人って「自分は変わってない」って言うじゃないですか。あと人は人間形成をする中で大人になるにつれ、ちょっと自分を取り繕いつつ「普通って何だろう?」って考えるようになったりしますよね。そこを掘り下げていくと、呉井の正義が見えてきた気がして。そこが呉井の行動の原点じゃないかなと思います。
――『ミリオンジョー』はサスペンス色が強い作品ですが、コミカルな一面もあると思います。このドラマの楽しみ方を教えてください。
原作者が亡くなったのに連載が続いている。漫画の物語としてはもう、それだけで面白いじゃないですか。じゃあ、それを続けていくためにはどうするのか。亡くなった遺体はどうすればいいのか。もし、こういう事件が起こったとき、リアルに描写すると、こんなことが起こるんじゃないかとか。ただ、「実際に行動を起こしてしまう呉井って、どうなの?」って思っちゃうんですよね。それに撮影中、監督が「OK」を出してもモニターチェックをすることがなかったので、僕は自分の呉井が画面にどう映っているか分からなくて。山で死体を埋めるシーンも、自分の目で映ったものしか知らないんです。だから呉井の気持ちがリアルに感じてきて。そんな思いをドラマをご覧になる方も分かれば、もっと面白くなるんじゃないかなって思います。
――真加田が死んでもなお "ミリオンジョー"の連載を続けようとする呉井の狂気。演じるとき、すんなり自分の中に入れ込めましたか?
それが入ってこないわけじゃないんですけど、なかなか出来なくて。マンガを続けるために死体を隠す気持ちは理解できませんからね。だからこそ、なぜこういう行動を起こすのかっていうことをものすごく考えました。そうすると呉井には呉井の正義があるってことに気づいたんです。
――先ほどもおっしゃっていましたが、呉井の正義って?
呉井って変な思考を持っていると思われがちなんですが、実は素直でまっすぐなんです。それは幼少期、マンガに助けられたことで芽生えたマンガへの強い愛があったから。「お前は一体、なんなんだ?」って呉井が言われるシーンもあるんですが、そこを重く受け止めながらも、これを言われるためには、どう演じればいいのかをずっと考えたりして。本当に演じていて面白いキャラクターでした。
――ちなみに呉井のファッションセンスはどう思われますか?
呉井って、おそらくファッションにはまったく興味がないんじゃないかな。誰かからもらった服を着ていそうですし。シリアスなシーンなのに、ふざけたTシャツを着ていたりすると、変な気持ちになります(笑)。
――呉井のファッションを見ると、チャラい男のようにも見えますが・・・。
そこなんですよね。チャラいのひと言では片付けられないというか・・・。本人はいたってマジメですし、意外とそういう男って、人の懐にうまく入り込めたりもしますし。世の中をするりとくぐりぬけてしまうところも含め、呉井はどうしてもチャラく見えてしまうんでしょうね(笑)。
後編では、『ミリオンジョー』一色だったという今夏に行われた撮影の裏話や共演者の印象などを聞いていく。
(文:MAIMAI)
【番組情報】
毎週水曜日深夜1:35からテレビ東京で放送中
動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話一挙配信中
(C)「ミリオンジョー」製作委員会
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