スタジオシステムの残る1970〜80年代初頭の日本映画界では、職人的鬼才監督が多くの人気作品や人気シリーズを生み出しました。菅原文太、梶芽衣子、松田優作といったスター俳優や、深作欣二監督、五社英雄監督といった職人監督の手で、国内外の多くの映画作品に影響を与えた熱い作品が作られています。
今回、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信されている作品の中から私、映画ライター・松村知恵美がおすすめの作品を紹介します。
■仁義なき戦い(1973年)
もはや説明不要!深作欣二が贈るヤクザ映画の金字塔
深作欣二監督が菅原文太を主演に迎え、戦後の広島ヤクザの流血の記録を描いた大ヒットシリーズ。菅原文太が演じた広能昌三のモデルである美能幸三が著した手記を原作とし、広島で勃興するヤクザたちの戦いの軌跡が描かれています。戦後の闇市で出会った若者たちが暴力団の組員となり、敵対する組との抗争や仲間同士の裏切りといった修羅場を経験して、どんどん容貌が変化していく様子などもリアリティたっぷり。狡猾で吝嗇な組長を演じる金子信雄、冷酷な若衆頭を演じる松方弘樹、ヒロポン密売を手がける若衆・渡瀬恒彦など、登場人物はみんななかなか強めなキャラばかり。それぞれの推しキャラを探しながら見るのもおすすめです。
■女囚701号さそり(1972年)
タランティーノも惚れた、梶芽衣子の無言の演技
恋人だったはずの刑事に利用されて裏切られ、男たちに復讐の炎を燃やす女囚を梶芽衣子が演じる人気シリーズ第一作。スレンダーな体に長い黒髪、無言で男を睨みつける梶芽衣子の美貌は必見。クエンティン・タランティーノ監督が憧れるのも納得です。『キル・ビル』のエンディングソングともなった「怨み節」は、本来は本作の主題歌なのです。大勢の女囚たちのヌードや、女子刑務所での執拗なリンチシーンなどは、現代の映画ではなかなか見られないもの。70年代娯楽映画ならではのセクシーシーンもたっぷりです。嫌がらせや暴力にひたすらに耐え抜き、男への復讐を志す孤高の"さそり"の姿は、園子温監督の『愛のむきだし』にも影響を与えました。
■最も危険な遊戯(1978年)
松田優作が殺し屋を演じるハードボイルドアクション
松田優作が鳴海昌平という殺し屋を演じるアクションシリーズ第一作。松田優作と言えば探偵のイメージも強いですが、殺し屋役もぴったりとはまっています。誘拐された財界人を救い出す依頼を受けた探偵が、政財界や警視庁特捜部なども入り乱れる巨大な陰謀に巻き込まれていきます。激しい銃撃戦の末に、誘拐犯たちを無表情で皆殺しにするなど、松田優作のクールな一匹狼ぶりが楽しめる一作。誘拐グループの犯人の居場所を探るためにその情婦を拉致しておきながら、結果的にその情婦からも愛されてしまうだなんて、松田優作が主人公だからこそ、ですよね。
■魔界転生(1981年)
山田風太郎×深作欣二×沢田研二が魅せる伝奇忍法帖
「くノ一忍法帖」などで知られる山田風太郎の原作を、深作欣二監督が映画化。主人公は天草四郎と柳生十兵衛。それぞれ沢田研二と千葉真一が演じています。島原の乱で二万人のキリシタンとともに殺された天草四郎は、その恨みをはらすため魔界から蘇ります。そして、剣豪・宮本武蔵や槍術の達人・宝蔵院胤舜などを共に魔界から転生させ、徳川の世の転覆を謀るのです。この魔界衆を阻止しようと妖刀・村正を手に立ち上がるのが、柳生新陰流の剣豪・柳生十兵衛なのです。瘋癲小説家の伝奇小説を、日本映画の鬼才が映画化しただけあって、なんとも荒唐無稽な娯楽映画に仕上がっています。妖艶なジュリーとうら若き真田広之のキスシーンも見逃せません。
■鬼龍院花子の生涯(1982年)
夏目雅子の一喝が一世を風靡した土佐の花街の物語
大正・昭和という時代を生きた土佐の侠客・鬼龍院政五郎と、彼に翻弄された娘たちの人生を描いた物語。宮尾登美子の原作小説を五社英雄監督が映画化しています。主演の夏目雅子は鬼龍院花子ではなく、花子の姉・松恵を演じています。花子と松恵の父・鬼龍院政五郎を演じるのは、仲代達矢。彼が演じる侠客とは、言わばヤクザ者のこと。この作品では、大正・昭和という激動の時代の中、ヤクザ一家の勃興・没落と、その家族の物語がドラマティックに描かれているのです。夏目雅子、岩下志麻、夏木マリらが見せる和服姿や彫り物の美しさなども一見の価値あり。劇中にある「なめたらいかんぜよ!」というセリフは当時の流行語にもなりました。
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