わずか数時間。だけど、その数時間が人生を変えてしまうこともある。それが、映画の面白さです。今この瞬間も世界中でたくさんの映画がつくられていて、どれだけ長生きしても、この世の映画のすべてを観ることなんて、たぶんできない。だからこそ、1本1本の映画の出会いが特別で、かけがえのないものなんだと、僕は思います。

今回は動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中の映画の中から、私、ライターの横川良明が大好きな映画を5本セレクト。観終わった後、しばらく動けなくなるような余韻の深い作品から、自分の人生がちょっといとおしくなるような作品まで、色とりどりの5本をチョイスしました。

この中から、あなたにとって特別な1本との出会いが生まれることを、ひそかに祈っています。

そこのみにて光輝く(2014年)

どこにも行けないどん底で、彼らは何を夢見たのか

心に傷を負った無職の男(綾野剛)と寝たきりの父を抱える女(池脇千鶴)。さびれた海辺の街で出会ったふたりは、お互いの中に光を見るように求め合う。女は生活のために肉体を売り、男は自責の念に苛まされ無為な時間を貪るだけ。すべてを捨ててどこかに逃げたいけれど、行くあてなどどこにもない。鬱憤と閉塞。不遇と倦怠。緩やかに自死していくような絶望状態を、監督の呉美保が決して扇情的にならず、シビアなくらい冷淡に描き出していく。綾野剛、池脇千鶴、高橋和也と充実の役者陣だが、中でも鮮烈なのが菅田将暉。本作と『共喰い』をもって菅田将暉がこれからの日本映画界を支えていく逸材であることを証明した記念碑的作品でもある。

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湯を沸かすほどの熱い愛(2016年)

タイトルの意味を知ったとき、涙が溢れて止まらない

末期ガンで余命わずかと宣告された銭湯の店主・双葉(宮沢りえ)。残り少ない人生をどう生きるか。彼女が選んだ答えは、遺された家族のために生きることだった。行方不明だった夫・一浩(オダギリジョー)を連れ戻し、娘・安澄(杉咲花)のいじめ問題も力技で解決。血のつながらない少女・鮎子(伊東蒼)を新たに迎え入れ、双葉たち家族の止まっていた時計が動き出す。周囲の人々に惜しみなく愛を注ぐ双葉。いわゆる感動物語ではあるけれど、決して湿っぽくならないのは、宮沢りえ演じる双葉の気丈さが作品に生命感を与えているから。インパクト大のタイトルの秘密はラストシーンに。その意味を知ったとき、涙が溢れて止まらなくなる。

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パコと魔法の絵本(2008年)

これは、世界でいちばん優しい愛と嘘の物語

傲慢で偏屈な大貫(役所広司)は入院先の病院でパコ(アヤカ・ウィルソン)という少女と出会う。パコは事故の後遺症で1日しか記憶を保つことができない。お金はあるけれど愛は知らない嫌われ者の大貫は、パコの記憶に何か残したいと、病院中を巻き込んで、パコの大好きな絵本を演劇にすることを思いつく。大の大人たちが集まってお芝居を打つのは、言ってしまえば嘘をつくこと。でも、その嘘が純粋だからこそ、流れる涙に心まで洗われてしまう。自殺癖の元売れっ子子役(妻夫木聡)など、お芝居を通じて成長していく登場人物たちも魅力的。ビビットでポップな中島哲也の映像がファンタジックな世界にピッタリで、爽快な感動に浸れる1本だ。

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日本で一番悪い奴ら(2016年)

「これは実話です」がこんなにも衝撃な映画はない

2002年に発覚した稲葉事件を題材に、破滅の道を突き進む一人の警官と警察組織の腐敗を描いた問題作。正義感の強い柔道青年だったはずの諸星(綾野剛)は、ある先輩警官の助言から点数を稼ぐために裏社会とルートを築きはじめる。次々と手柄を挙げ周囲から一目を置かれる一方で、違法捜査はどんどんエスカレート。その表情には、入庁当初の善良な面影はもはやどこにも見当たらなかった――。『凶悪』で映画界を震撼させた白石和彌監督が、国家権力の裏の顔を過激に描写。やっていることはヤバいのに、どこかコミカルなのが本作の持ち味だ。しかし、終盤は陰惨そのもの。結末に辿り着いたとき、これが実話であることに打ちのめされ、絶句した。

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美少女戦士セーラームーンR(1993年)

迷える大人にこそ、セーラームーンが必要なんだと思う

日本中に社会現象を巻き起こした人気アニメの劇場版。突如襲来する謎の敵・フィオレ(CV:緑川光)。その真の目的は、唯一の友達である地場衛(CV:古谷徹)を取り戻すことだった。行動は暴虐に見えるけれど、友達がほしかったという気持ちに正義も悪も関係ない。むしろセーラー戦士たちもそれぞれ孤独を抱えていて、フィオレの訴えに共鳴を見せるような場面も。
そんなフィオレに、セーラームーンは力でなく、愛で向き合う。その聖母のような姿に、そうだ、セーラームーンは「愛と正義のセーラー服美少女戦士」だったのだと、おなじみの決め台詞の意味を噛みしめた。「子ども向けアニメ」と侮っている人にこそ観てほしい愛と友情のドラマだ。

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動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で、「誰かに教えたくなるParavi映画祭り!」を展開中!

『そこのみにて光輝く』(C)2014『そこのみにて光り輝く』製作委員会
『湯を沸かすほどの熱い愛』(C)2016『湯を沸かすほどの熱い愛』製作委員会
『パコと魔法の絵本』(C)2008『パコと魔法の絵本』製作委員会
『日本で一番悪い奴ら』(C)2016『日本で一番悪い奴ら』製作委員会
『美少女戦士セーラームーンR』(C)武内直子・PNP・東映アニメーション(C)東映・東映アニメーション 1993

映像・演劇等エンターテイメント中心に取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。