1984~1985年にTBS系列で放送され大ヒット、35年を経た今もなお、ファンの間で熱く語り継がれるドラマ『泣き虫先生の7年戦争 スクール☆ウォーズ』。

不良生徒ばかりが通う川浜高校に体育教師として赴任し、ラグビー部の監督を務めることとなった主人公・滝沢賢治が、落ちこぼれの部員たちと真正面から向き合い、汗と涙の熱血指導。部員たちがラガーマンとして、そして人間的に成長を遂げ、それまで超弱小チームだったラグビー部が、やがて全国優勝を勝ち取るまでの奇跡を描いた青春学園ドラマ。"泣き虫先生"こと滝沢賢治を演じる山下真司をはじめ、ラグビー部員役の松村雄基、宮田恭男らの熱演も好評を博し、放送当時、社会現象ともいうべき一大ブームを巻き起こした。

動画配信サービス「Paravi(パラビ)」では、9月1日(日)より、この"80年代青春ドラマの金字塔"『スクール☆ウォーズ』の配信がスタート。これを記念して、主演の山下真司のロングインタビューを全2回にわたってお届けする。

前編では、当時の撮影裏話をはじめ、自身が演じた滝沢賢治というキャラクターの魅力、そして作品の見どころなど、「連ドラ初主演作であり、代表作」と山下本人も自負する名作『スクール☆ウォーズ』に対する熱い思いをたっぷりと語ってもらった。

20190814_sw_02.jpg

いろんな不安を抱えながらも、覚悟を決めて臨んだ

『スクール☆ウォーズ』の主人公・滝沢賢治には、モデルとなった人物がいる。元ラグビー日本代表で、京都市立伏見工業高等学校ラグビー部の監督を務めた山口良治氏。かつて全く無名だった伏見工業高校ラグビー部を、わずか数年で全国優勝を果たすほどの強豪チームに育て上げた、伝説のラグビー指導者だ。そんな山口氏の奮闘ぶりに迫ったノンフィクション『落ちこぼれ軍団の奇跡』(馬場信浩・著)を原作に制作されたのが、ドラマ『スクール☆ウォーズ』なのだ。

山下真司は、本作の出演依頼を受けたとき、連続ドラマ初主演という大役に喜びを感じつつも、実在の人物をモデルにしたキャラクターを演じることに対する戸惑いも感じたという。

「『スクール☆ウォーズ』のお話をいただいたのは、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で刑事役をやった後(※1979~1981年、スニーカー刑事役で出演)、いわゆるトレンディドラマに出たりしている時期でした。初めての主役ということで、もちろんうれしかったんですが、それと同時に、大変なことになったなと思いました(笑)。なんせ、ラグビーを全く知らなかったものですから。ラグビーって、いってみれば格闘技みたいなものでしょう。だから、これは体を張った仕事になるぞ、と。でも、初主演作は絶対に成功させたかったので、責任の重さも感じましたし、最後まで体がもつのかとか、いろんな不安を抱えながらも、覚悟を決めて臨んだことを覚えています。

最初、何よりプレッシャーだったのは、実話に基づいたドラマだということ。山口先生の顔に泥を塗るわけにはいきませんからね。それに生徒役も、モデルになった方々がたくさんいらっしゃるわけで、その方々がドラマをご覧になったときに、「こんなんじゃねえよ」って、がっかりさせるようなものにはしたくなかった。皆さん、自分たちが『スクール☆ウォーズ』のモデルであるということが誇りに思えるような、そんな作品にしたいと思ったんです」

20190814_sw_03.jpg

実際に撮影が始まると、「毎日が戦いだった」という山下。自身が演じる賢治は"泣き虫先生"の異名を持つキャラクターとあって、とりわけ"泣きの芝居"に苦労したそうだ。

「驚きましたよ、『賢治、泣く』『賢治、涙する』っていうト書きが、1冊の台本の中に何回も出てくるんですから(笑)。要するに、『用意、スタート』の掛け声で、すぐに泣かなきゃいけないわけです。だけど、カメラの前で、そんな都合よく涙なんて出てこない(笑)。だから、撮影が始まった頃は、前の日から泣く練習をしてました。行き帰りの車の中で、セリフを言いながら・・・そのときは割と簡単にボロボロっと涙が出るんですけど、いざ現場に入ると、なかなか涙が出てこないっていう。かなり苦しかったですね。

ところが、クランクインから1カ月もすると、割とすんなり涙が流れるようになってきて。それは、泣くのがうまくなったというより、滝沢賢治というキャラクターにハマったという感覚・・・いや、"『スクール☆ウォーズ』イズム"にハマった、と言うべきかな(笑)。生徒役の俳優さんたちの目を見つめただけで、自然と涙が出てくるようになってきたんです。

考えてみると、普段の生活の中で、泣きたくて泣いてる人なんて、そうそういないんですよね。我慢して我慢して、それでも出てくる涙が本物の涙なんです。・・・ということに、賢治という役を演じているうちに気付きました。その意味では、『スクール☆ウォーズ』のおかげで、役者として、いくらか成長できたのかなと思いますね」

生徒思いで涙もろい賢治だが、一方で、生徒たちの指導に没頭するあまり、妻が子どもを連れて家を出ていってしまうなど、山下いわく「かっこ悪いシーン」も少なくなかった。だが、そうした賢治の人間臭さもまた、『スクール☆ウォーズ』という作品の大きな魅力だと山下は分析する。

「かみさんに愛想を尽かされたり、チンピラに殴られっぱなしになったり・・・相手に手を出さず殴られ続けるっていうのは、僕はかっこいいと思ったりもするんだけど・・・いわゆる、情けない部分というか、賢治の苦悩とか葛藤みたいな部分は、あくまでも普通に、フラットに演じるように努めました。やはり、実話に基づいたドラマですし、そういう人間的な弱さというのは、演じていてやりがいもありますしね。もっと言うと、教師である賢治の人間臭い部分を描くことで、ドラマとして見やすくなっていると思うんですよ。生徒たちの成長だけでなく、賢治が一人の人間として成長していく姿も描くことができていたんじゃないかと思います」

20190814_sw_04.jpg

俺はなんてバカなことを聞いたんだろうと、いまだに後悔しています

全身全霊で滝沢賢治という役に挑んだ山下だが、モデルとなった山口良治氏からは、ドラマについて感想をもらったことは一度もなかったという。

「もちろん何度かお会いしているんですが、作品に関して具体的なお話は一切したことがないんです。ただ、アイコンタクトみたいなやりとりはありましたけどね。山口先生が『見たよ』『よかったよ』って、言葉じゃなく目で伝えてくれたような場面はあったんですけど。やっぱり先生は、『スクール☆ウォーズ』という作品の重さというか、社会に与える影響みたいなものを肌で受け止められていたと思うんです。だから、ドラマとしてどうこうとか、誰々の演技がうんぬんとか、そういう話をする気持ちにはなれなかったんじゃないかと。

そういえば僕、先生とお会いしたときに、バカな質問をしてしまったことがあって。『賢治は常に生徒のことを思いやる教師ですけど、山口先生は実際これまでに、「こいつは本当にどうしようもないな」ってさじを投げたくなった生徒が、一人ぐらいはいたんじゃないですか?』って、笑いながら聞いちゃったんですよ、軽い冗談のつもりで。そしたら先生は、目に涙を浮かべながら、『僕はそんなふうに思ったことは一度もありません』とおっしゃって・・・。あれは相当ショックでした・・・」

「俺はなんてバカなことを聞いたんだろうと、いまだに後悔しています」と目を潤ませながら語る山下に、こんな質問をぶつけてみた。今、山口先生に会ったとしたら、どんなことをお話しになりたいですか?

「山口先生は、とにかく目で語る方なので、そもそも僕なんかが相手だと、ちゃんとした会話にならないんですよね。もちろん、僕が話し掛けると何でも答えてくださる方なんですけど。

以前、平尾誠二さん(※日本代表監督、神戸製鋼コベルコスティーラーズ総監督などを歴任した元ラグビー選手。山口先生の教え子の一人で、『スクール☆ウォーズ』の川浜高ラグビー部のキャプテン・平山のモデルにもなった)が亡くなられたときに、山口先生がテレビに出られて、「俺は本当はここに来たくなかったんだよ」っておっしゃったんですね。だからきっと、『スクール☆ウォーズ』も、ご覧になりながら、自分の教え子たちのことをいろいろ思い出して・・・(涙ぐみながら)なんで俺が泣いてるんだろ。これが我慢して我慢して出ちゃう本物の涙ってやつですよ(笑)。

とにかくね、山口先生にとって『スクール☆ウォーズ』というドラマは、ストーリーとか僕ら役者の演技とか、そういうことはあんまり重要ではなくて。きっと、このドラマをご覧になったときは、教え子たちとの思い出だったり、ご家族との思い出だったり、人生の中で経験されたいろんなことが、走馬灯のように頭の中を巡っているんじゃないかと。だから、僕なんかが気軽に「見てくださいました?」なんて聞けないんですよ。そんな簡単なことじゃないから・・・(また涙を浮かべて)ちょっともう、泣かすなよ、本当に!(笑)」

20190814_sw_05.jpg

『スクール☆ウォーズ』の話をすると、大体いつも泣いちゃう

涙なしには語れないほど、滝沢賢治という役にも、『スクール☆ウォーズ』という作品にも、深い思い入れがあるようだ。

「もちろん、思い入れはすごくありますよ。ただまぁ、単純に泣き癖がついちゃってるだけっていうのもあるんだけど(笑)。『スクール☆ウォーズ』の話をすると、大体いつも泣いちゃうからね。今や、人前で涙を流すことに何のためらいもなくなっちゃって。こんな自分が悲しいですよ、俺は(笑)」

最後に、『スクール☆ウォーズ』を今回初めて見るという視聴者へ向けて、メッセージをもらった。

「『こんなふうに見てほしい』とかいうことではなくて、とにかく見てください、ということですね。見たら、おそらく5分でハマります。癒やしであったり、励ましであったり、いろんなものをプレゼントしてくれる作品ですから。もちろん、単なる娯楽としても楽しめますよ。酒飲みながらでも、お茶飲みながらでも、とにかく見ていただければ、理屈抜きに、『スクール☆ウォーズ』の世界にいざなわれるはずです。作品全体の空気感というか、画面から伝わってくる、言葉では表せないメッセージみたいなものを感じていただけたらと思います。だから、特に『ここを見てほしい』というのはないけど、逆にいえば、全編が見どころというか。愛に包まれてますからね。人に優しくなれるし、心が豊かになるドラマだと思います」

【番組情報】
『泣き虫先生の7年戦争 スクール☆ウォーズ』
9月1日(日)から動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて配信開始予定
DVD-BOXが9月4日(水)に発売予定

(C)大映テレビ
(C)Paravi