前2回を振り返って

さて、「女性の"働く"ドラマ」をテーマにお送りしてきた本連載も、いよいよ後編(完結編)である。

現在放映中のTBSのドラマ『わたし、定時で帰ります。』にも象徴されるように、ヒロインの働き方から、"時代"が見えてくるというもの。だから、ドラマは「時代の鏡」――。

本コラムは、日本の連ドラ史において、ヒロインの職業や、それを取り巻く環境や社会情勢がどのように変化してきたかを精査することで、時代の移り変わりを紐解きたいと思います。

ちなみに、ここまでの流れを振り返ると――

前編では、憧れの職業"スチュワーデス"を描いた1970年の『アテンションプリーズ』(TBS)を皮切りに、男女雇用機会均等法が制定された1980年代半ばの『男女7人夏物語』(TBS)を挟み、女性の総合職が定着し始めた1991年の『東京ラブストーリー』(フジテレビ)までの軌跡を追った。

続く中編では、就職氷河期を描いた1994年の『夢みる頃を過ぎても』(TBS)を起点に、仕事に自分探しを重ねた1990年代半ばのいくつかのドラマを経て、世紀末に起きた2大お仕事ドラマへの進出――刑事ドラマと医療ドラマにおける新たなヒロイン像に迫った。そして、ミレニアム前後の深津絵里サンがヒロインを務めた4作品にも注目し、仕事もプライベートも自分らしくありたい21世紀の女性の生き方を見た。

――で、いよいよ後編である。今回の舞台は2000年代半ばから現代まで。新たなキーワードとして、「アラサー」、「アラフォー」、そして「派遣社員」が登場する。そこから、女性が定時で帰れるようになるまで、どんな軌跡を辿るだろうか。

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日テレ水10は働く女性がターゲット

まずは作品ではなく、「枠」の話から始めたい。

2000年代半ば、連ドラの勢力図にある変化が起きる。それまでドラマと言えば、フジとTBSの2強だったのが、そこに日本テレビも割って入るようになったのだ。その原動力となったのが、同局の水曜夜10時のドラマ枠である。通称「水10」――。

それまで水10は、1995年の『星の金貨』や2002年の『ごくせん』など、度々ヒット作を生み出すことはあったが、フジの「月9」やTBSの「金ドラ」のように、枠にお客が定着するまでには至らなかった。
それが、ある作品のヒット以降、局の方針で同枠が"働く女性"をターゲットにするようになり、枠の視聴率が安定する。そのエポックメーキングが、「アラサー」に着目した2005年のドラマ『anego[アネゴ]』だった。

職場にアラサーの波

そう、『anego[アネゴ]』――。原作・林真理子、脚本・中園ミホの黄金コンビ。主演は篠原涼子である。

彼女が演じる奈央子は32歳の正社員の独身OL。この時代になると、会社は数年に渡って女性の正社員の採用を控えており、気が付けば奈央子の下の20代のOLたちは、契約社員と派遣社員ばかり――。

そうなると、必然的に正社員の彼女は後輩たちから慕われ、仕事がデキることから、上司からも一目置かれる存在に。だから周囲は親しみを込めて、彼女をこう呼ぶ。――"anego"と。

とはいえ、一見颯爽と見えるキャリアウーマン風のanegoだが、心の底はいつも不安や焦りでいっぱい。結婚だって、ホンネではまだまだ諦めたワケじゃない。

そんな一人のアラサーOLの抱える悩みや不安や恋愛模様をリアルに描いて、同ドラマは同世代の共感を得て大ヒットする。

ハケンが主役の時代に

それから日テレの水10枠は、主に働く女性をターゲットにした路線へと転換し、安定した視聴率を稼いでいく。そして『anego[アネゴ]』から2年後、再び同枠に篠原涼子が帰ってくる。次なるテーマは「ハケン」である。

2007年、ドラマ『ハケンの品格』がスタート。脚本は『anego[アネゴ]』と同じく中園ミホだが、今作は彼女のオリジナルである。

主人公は、篠原涼子演ずる"スーパーハケン"の大前春子。彼女はあらゆる資格を持ち、どんな仕事にも対応できる超絶スキルの持ち主。そのため時給は3000円と、破格の扱いである。そして派遣社員であることに誇りを持ち、残業や休日出勤など契約外の仕事は一切しないことを信条とする。

物語は、そんな春子が3ヶ月契約で、東京の丸ノ内にある大手食品会社にやってくるところから始まる。当初、社内には、漫然と正社員と派遣社員を区別するヒエラルキーが存在しており、契約外の仕事を一切しない春子に周囲は困惑・反発する。しかし、次第に彼女の有能な仕事ぶりを認めるようになり、いつしか派遣社員を下に見ていた社内意識も改善される。

同ドラマは、まさに派遣社員が不当な扱いを受けていた時代を反映したもので、毎回、春子が超絶スキルでピンチを乗り越える勧善懲悪劇に、お茶の間は拍手喝采。大ヒットした。

アラフォーの星、天海祐希

そう、2000年代中盤の女性の"お仕事"ドラマは、「アラサー」や「ハケン」がキーワードとなり、それはまさに晩婚化や非正規雇用の拡大といった時代を反映したもので、その代弁者として、篠原涼子サンがピタリとハマった。

そこへ、更に時代が進んで、もう一人の代弁者が登場する。天海祐希サンである。「アラフォー」なる流行語を生んだ、2008年のドラマ『Around40〜注文の多いオンナたち〜』(TBS)がそう。

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かの作品、天海サン演じる優秀な精神科医であるアラフォーの聡子が主人公。彼女は、患者だけでなく同僚医師や看護師からの信頼も厚く、プライベートでも頼りにされているアネゴ肌。しかし、自身の恋愛に関しては、からきしダメ。趣味は高級旅館に泊まって、独りでお笑いのビデオを観ること――。

ドラマは、そんな聡子の目を通して、同世代の女性たちの抱える悩みや願望を代弁したもの。天海サンのカラッとした性格のお陰か、そこにあまり悲壮感はない。前向きな展開の話がお茶の間の共感を呼び、同ドラマが起点となって、「アラフォー」がこの年の流行語大賞を受賞する。

また、天海サンは翌2009年にもフジテレビのドラマ『BOSS』で、部下から慕われる、よき上司を演じている。

警視庁・捜査一課特別犯罪対策室の大澤絵里子は、捜査一課の札付きのポンコツばかりを集めた部署の女性ボスとして、アラフォー力をいかんなく発揮する。それは――部下たちの短所には目をつぶり、それぞれの長所を生かして難事件を解決するというもの。現代社会が求める理想の女性上司像だった。

もちろん、絵里子自身も米国仕込みの一流のプロファイラーで、捜査に妥協しない強い精神力の持ち主ながら、その一方で地震に弱かったり、酒癖が悪かったりと、人間的な面を併せ持つ。そんな絶妙なバランスが、またお茶の間の共感を呼んだ。まさに、女優・天海祐希の真骨頂だった。

OLもゆるキャラの時代に

ここで、一風変わったヒロインのドラマを紹介したい。例の日テレの水10枠で人気シリーズとなった『ホタルノヒカリ』(2007年、2010年)である。脚本は、女性の心情を描かせたら右に出る者はいない、名人・水橋文美江。

綾瀬はるか演じるヒロイン雨宮蛍は、会社ではそつのないOLだが、一度家に帰ると、日がなジャージで過ごし、恋愛に興味のない"干物女"に変身する。丁度、みうらじゅんサンが命名した「ゆるキャラ」がブームになっていた頃で、時代の空気感として、様々な局面で"ユルさ"が求められていたのだろう。同ドラマのヒロインも、少なからずそれを投影したものだった。つまり、年ごろの女性であっても、頑張らなくていいと。それが視聴者の共感を誘った。

物語は、そんな彼女が、ひょんなことから格安で一軒家を借りて生活していたところ、そこに家の持ち主の息子である上司の高野部長(藤木直人)が引っ越して来て、奇妙な同居生活が始まる。キレイ好きで几帳面、その上家事が得意な部長と、干物女・蛍――。当初、部長は蛍の家での干物っぷりに驚くが、次第に理解を示すようになり、遂には恋に落ちた蛍を応援するようになる。

同ドラマは、蛍の素直な生き方が同世代の女性たちの共感を呼んで、スマッシュヒット。そこには多分に、綾瀬はるかという女優の資質もあった。時に天然を発揮する彼女のキャラクターが、ヒロインと重なってリアルに見えたのだろう。

時代と並走した3つのドラマ

そして、時代は2010年代を迎える。

ここでは、時代と並走した3つのドラマを紹介したい。

まず、2012年のフジテレビの『リッチマン、プアウーマン』である。IT業界を舞台に、小栗旬演ずる若きベンチャー社長・日向徹と、石原さとみ演ずる就職活動に奔走する女子大生・真琴とのラブストーリー。生活も価値観も正反対の2人が衝突を繰り返しながらも互いを知り、次第に惹かれあうフォーマットは、往年の映画『プリティ・ウーマン』を彷彿とさせた。

丁度、ITベンチャーが脚光を浴びていた時期で、2011年に大学卒業後の就職率が大きく落ち込んだ背景もあり、まさに時代との並走感があった。物語のラスト、恋よりも仕事を選んだヒロインの生き方も、新しい時代のドラマを感じさせた。

次に、2013年のTBSの『空飛ぶ広報室』である。ご存知、脚本家・野木亜紀子の名を一躍有名にした名作ドラマ。

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元報道記者で、現在は不本意ながら情報番組ディレクターとして航空自衛隊の取材担当になったリカ(新垣結衣)と、元パイロットで、事故により広報官に異動になった空井(綾野剛)とのラブストーリーである。当初は、互いに自分の境遇に不満を持つ2人は噛み合わないが、次第に相手の誠実さを認め合い、やがて自分の仕事にも誇りを取り戻すというもの。

同ドラマは、民放の連ドラで東日本大震災を始めて描いた作品でもあり、震災を乗り越え、2人が絆を取り戻すラストは大いなる感動を呼んだ。その意味で、これもまた時代と並走したドラマだった。

そして3つ目が、2014年のフジテレビの『ファースト・クラス』である。

沢尻エリカ演ずる、東京・下町の衣料材料店で働いていたヒロインちなみが、ひょんなことから一流ファッション雑誌の編集部のインターンになり、上司や先輩、専属モデルたちから壮絶ないじめに遭いながらも、持ち前の前向きな性格と努力で、這い上がっていく現代版シンデレラストーリー。

ドラマの肝は、毎回、ドラマの最後に発表される最新のマウンティング・ランキングだった。それは、何かと格付けをしたがる現代社会を投影したもの。それをある種のスパイスとして、ドラマの味付けに効かせたのである。

ハイスペックが婚活の障害に

さて、ここからは記憶にも新しい、比較的最近のドラマになる。時代感としては、もはや今とあまり変わりないだろう。

まず取り上げるのは、ヒロインのハイスペックなプロフィールが、逆に婚活の障害となったパターン。16年のTBSドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』である。原案は、水野敬也サンの恋愛マニュアル本『スパルタ婚活塾』。それを金子ありさサンが珠玉のドラマに仕上げた。

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中谷美紀演じるヒロイン橘みやびは、青山に自ら美容系クリニックを開業した美容皮膚科医。

高校時代から美貌で鳴らし、大学は現役で医学部合格。絵に描いたような"美人・高学歴・高収入"のスペックの持ち主だが、なぜかアラフォーになった今も独身。その原因を、たまたま女友だちと訪れた和食割烹「とくら」の店主・十倉(藤木直人)に「ハイスペックが三重苦となり、結婚を難しくしている」と指摘される。

そこから、毒舌家の十倉の恋愛指南で、みやびは高校の同窓会を機に婚活へと動き出す。かように同ドラマは、ハイスペックな女性であることが、かえって結婚を難しくする現代女性の抱える新たな問題点を浮き彫りにした。

地味な仕事にも光

また、それとは逆に、これまで日陰の存在と思われていた仕事に光を当て、ヒロインを輝かせるドラマも登場する。日本テレビの『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(2016年/日テレ)である。

石原さとみ演ずるヒロイン河野悦子は、ファッション誌「Lassy」の編集者に憧れ、7回目の就活でようやく念願の出版社に採用されるも、配属先は地下にある地味な校閲部。仕事へのやる気を失う悦子だが、「校閲」の仕事に取り組むうちに、次第にやりがいと楽しさに目覚める。そして、いつの日か「Lassy」編集部に移った際に、校閲の経験を生かそうと、前向きになる。その姿勢は自らのファッションにも表れる。

そう、同ドラマで評判になったのは、ヒロイン悦子のファッション。場面転換の度に、彼女が身に着けるファッションが紹介され、そこには自身の内面の輝きをファッションに応用させようとする、女性の新たな働き方の提案があった。

連ドラにも働き方改革

ここから先の話は、あまり長くない。

続いて紹介するのは、野木亜紀子サンが初めてオリジナル脚本に挑んだ、2018年のTBSドラマ『アンナチュラル』である。

物語は、架空の不自然死究明研究所(UDIラボ)を舞台に、石原さとみ演ずる法医解剖医のミコトを中心に、個性豊かなメンバーたちが事件解決に挑むもの。だが、今回取り上げるのは仕事の中身ではなく、そのUDIラボの職場環境である。

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松重豊演じる神倉所長以下、6名のメンバーからなる少数精鋭の部署だが、仕事自体は過酷ながら、その働き方は個々の自主性を尊重。上下関係も井浦新演じる中堂と助手を除けば、平等である。お茶出しや雑務はヒマな者が自主的に行うルールのため、多くは所長の担当に。部署として意思決定をする際も、所長が独断で決めることはなく、メンバー個々の意見を必ず聞く。

そう、今の社会が求める「働き方改革」が、このUDIラボでは実現している。多少願望を込めつつも、時代が投影されている。この辺りは、同じ野木亜紀子サン脚本の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)で、平匡(星野源)の職場にLGBTの思想を自然に取り入れた野木サンの本領発揮だろう。

女性ならではの働き方とは

最後に、今年放映された直近の2つのドラマのヒロインから、女性ならではの理想の働き方を考えたい。

1つ目は、テレビ東京の『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!〜この女に賭けろ〜』である。真木よう子演ずるヒロイン原島浩美は、よつば銀行の女性総合職。業績が振るわない台東支店への異動を命じられるが、女性ならではの柔軟な発想と行動力で、新規顧客を開拓したり、数々のピンチを脱する。

とはいえ、その物腰はあくまで柔らか。朝も遅く、およそモーレツ型の銀行員とは程遠い。そう、男性に対峙するのではなく、女性ならでは――もっと言えば、彼女らしさを失わない点で、極めて現代的である。

もう一つは、TBSの『グッドワイフ』だ。米CBSの人気シリーズのリメイクだが、そこには女性の社会進出で一日の長にあるアメリカ社会の思想が見事に反映されている。

常盤貴子演ずるヒロイン蓮見杏子は、検事である夫が逮捕されたことを受け、家族を養うために16年ぶりに弁護士に復帰する。16年間も現場から遠ざかっていた普通の主婦が、第一線に社会復帰する設定がまず新しい。それでいて、16年間の主婦経験が決して無駄にならず、それも含めてヒロインのキャリアとしてストーリーに組み込まれているのが、見ていて心地よい。多少願望を込めつつも、今の社会が求める女性の働き方の可能性がそこにはあった。

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――以上、ざっと「女性の"働く"ドラマ」の歴史を辿ってきたが、これまでも再三「ドラマは時代の鏡」と申し上げてきた通り、そこには常に、社会が求める理想のヒロイン像があったのが、お分かりいただけたと思う。

それは、現在放映中のTBSドラマ『わたし、定時で帰ります。』も同様である。吉高由里子演ずるヒロイン東山結衣の働き方は、決してドラマオリジナルの荒唐無稽な発想ではない。お茶の間が潜在的に求めるもの。男女問わず、彼女の働き方に共感する人は多いだろう。

さて、次なるヒロインのお仕事ドラマは、僕らに何を教えてくれるだろうか。

『Around40〜注文の多いオンナたち〜』(C)TBS
『空飛ぶ広報室』(C)TBS
『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(C)TBS
『アンナチュラル』(C)TBS
『グッドワイフ』TM & (C) 2019 CBS Studios Inc. All Rights Reserved (C)TBS

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