小説家・真山仁氏の人気シリーズ「ハゲタカ」。そのスピンオフ小説をドラマ化した『スパイラル〜町工場の奇跡〜』が毎週月曜夜10:00からテレビ東京系で放送中。(BSテレ東は毎週金曜夜9:00~)

天才的な発明家である社長を亡くし、3億円もの借金をかかえた小さな町工場・マジテックを再生するため、企業再生家・芝野健夫が立ち上がる物語。主演の玉木宏に、ドラマならではの楽しみや見どころを聞いた。

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――玉木さんは、真山さんの『巨悪は眠らせない』シリーズに2度出演されています。真山さんの作品の面白さはどういうところだと思いますか?

今、日本が抱えているリアルな問題が描かれていることは、すごく大きいですね。架空の話ではないんです。『スパイラル~町工場の奇跡~』は日本でビジネスをしている方々、町工場で働かれている方がきっと共感するはずです。とくに製造業は男性の多い業種なので、真山さんが働く男性ファンの支持がある作家さんだということが納得できます。

――今回の『スパイラル~町工場の奇跡~』、原作を読んでみていかがでしたか?

すごく真っ当な作品だなと思いました。「ハゲタカ」シリーズには個性豊かないろいろな登場人物がいますけれど、芝野というとてもまともな人間が主人公で、他のシリーズに比べるとフラットな作品だなという印象です。

――「ハゲタカ」シリーズの中でもめずらしく人間の温かみがしっかりと描かれた作品ですね。シリーズの他作品では見られない、登場人物たちの違った一面が見られそうです。

そうですね。シリーズものなので、登場人物がかぶっているのが楽しみのひとつです。それが「ハゲタカ」シリーズの不思議な魅力なのかなとも思います。

――ドラマ化するにあたって、どんなところにやりがいを感じていますか?

連続ドラマなので、初回から最終話まで「マジテックは再生できるのか」という物語の一本筋はあるのですが、一話一話に掲げられたテーマもあるんです。一話では、バラバラになった家族の再生が描かれました。二話はテーマがお客様の立場に立って考えるということ、三話は希実ちゃん(宝辺花帆美)という病気の女の子がメインになるストーリーです。全編を通したベースは同じだけれど、一話ごとにプラスαとして芯になる要素があるのが、連続ドラマの面白さですね。一話ずつを楽しみつつ、毎週続けて見ていただく面白さがあるので、大きなテーマを忘れずにひとつひとつにしっかり取り組んでいければいいなと思います。

ドラマは瞬発力がとても大事で、映画や舞台のように入念に準備をして臨めるものではない。時間に追われて、台本も少しずつ出来上がってくる中、短い時間でどれが最善の形かを皆で模索しながら撮っていくものなので、そこに集中したいです。

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――ドラマでは、原作からいくつか設定が変わっていますね。

いろいろと変更はありますが、物語の芯は小説もドラマも同じです。ドラマを作る時には「何を伝えたいか」を一番に考えるのですが、『スパイラル~町工場の奇跡~』では「諦めないことの大事さ」を大切にして、物語の枝となる部分にどんなスパイスを加えていけばドラマとしてよりリアリティが出せるのだろうと考えて、組み立てています。

――もっとも大きな変化が、舞台となる町工場・マジテック社員の浅子(貫地谷しほり)と望(戸塚純貴)の関係。原作では親子ですが、ドラマだと姉弟になっています。

原作では、親子だからこそ関係がうまくいかない事もあったと思うのですが、ドラマで姉弟にした事によって、親が急にいなくなってしまってどうするんだ・・・と路頭に迷う感じが、より表れているような気がします。天才的な発明家である社長がいなくなったマジテック同様、家族を率いていた父親がいなくなって、「どうしていいのかわからない」という印象が強くなりました。

――玉木さん演じる企業再生家・芝野健夫は、原作からどんな変化があるんですか?

原作より10歳くらい年齢を下げています。またドラマの芝野にはもう少し人間味というか、涙もろいというスパイスが足されています。芝野というブレない人間がブレる瞬間。ただ、演じるにはさじ加減が難しくて、どのくらい感情を高ぶらせるか、涙を流すのかということは台本のト書きには書かれているけれど、涙もろい男になることによって役のベースラインが変わってきます。難しいけれど、良い味になればいいですね。

――ドラマでは芝野は、「危機に瀕した町工場にあらわれたヒーロー」として登場します。小説では、ヒーローだけれどもスーパーマンではない人物として描かれていますので、これからドラマ版の芝野がどのように活躍していくのか楽しみです。

たしかにドラマの方が原作よりも、地に足のついた芝野だという気がしますね。町工場の人達と一緒になって、地道に一コマずつ進めていく感じが原作よりも表れていると思います。

ただ、芝野はまっとう過ぎて遊びどころが無い役なので、どう演じようかなと・・・。芝野はすごい人なんです。大企業を辞めて、いくら恩があるとはいえ借金を抱える町工場の一員として、無給で一緒に働いたり・・・そこまでするの!?と正直思います。原作では結婚もしているので家族もいるなかで、共倒れになってしまう可能性もあるのにそこまでできる人はなかなかいないでしょう。あえてリスクがある場所に入っていって、そこでもよりリスキーな選択をしていく。すごい人ですけれど、演じるにあたっては、真面目で良いところしか見えないので人間味を持たせるのがすごく難しいです。

――そのための役作りで心掛けた事は?

『巨悪は眠らせない』シリーズの時もそうでしたが、『スパイラル~町工場の奇跡~』の企業再生家という役も、日常生活の会話ではない。しかも、芝野は感情的になることもありません。そんな環境で、人物像を作り上げるのは難しいです。

けれども、町工場をはじめ周囲の皆さんがいるからこそ、芝野という人物像が見えてくるんだと思います。周りの人たちとの関係性の中で、芝野の立ち位置がうまれてくるはず。そのため、現場での相手役とのキャッチボールを大切にしています。そのうえで、芝野が大企業を離れて町工場の皆と一丸となって進んでいく様子を表現することを意識しています。芝野は外から来た人だから、最初はちょっと町工場の皆さんより浮ついているのですが、段々と同じ枠組みになって馴染んでいく...そんな感じが出せたらなと思います。ドラマでは浅子が母親でなく姉という設定になったことで、芝野と浅子の年齢が近くなったので、距離を縮めていく様子は表現しやすいかもしれません。

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――撮影現場では、町工場のみなさんはとても仲が良く、休憩中もとても和やかだと聞きました。

貫地谷さんがふと「本当にマジテックには個性豊かな人がいっぱい集まってる」と言っていたんです。まさにその言葉通りで、とても個性的な人達ばかりです。その中でもっとも現場のムードを作ってくれているのは、貫地谷さんですね。

彼女はとても明るいし、すごく真っ直ぐな人。何度も共演していますが、最近はさらに明るさが増していて、現場では非常に助かっています。

――芝野は、マジテックの人たちと過ごすことが多いですよね。職人役の國村隼さん、先代社長の息子役の戸塚さんとは共演してみていかがですか?

國村さんは、いるだけですごく存在感がある方。説得力があります。さすがだなと尊敬しています。國村さん自身はとても穏やかな方で、若者の話にも耳を傾けてくれるし、現場では良い雰囲気です。

戸塚君は、すごく柔軟性がある俳優さん。コメディセンスが高いので、相手との会話がきちんとできるんです。コメディはちゃんと会話のキャッチボールができなければ成立しないので、誰かが投げたものをちゃんと受け止めたり、彼自身が発信していくことも上手。すごく器用な人だと思いました。

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――今後の展開が大いに期待されますが、玉木さんの思う「ドラマの見どころ」は?

日本には陽の当たっていない高い技術力を持った企業がたくさんあります。世界的にも、日本製の製品はかなり精度が高いという認識があると思います。小さな会社が、外資系ファンドなど世界から認められるのか...という視点で見ても面白いかもしれません。日本の町工場で生まれたものたちを守っていかなければいけないという気持ちは、日本人ならきっと理解できる部分があるはず。たとえ自分が製造業に関わる仕事でなくても共感してもらえる部分がたくさんあるドラマです。

また、製造業で働く方だけでなく、親子や兄弟の立場からも感情移入していただけると思います。"町工場"と"家族"、両方の再生物語ですので、さまざまな角度で楽しんでいただけたらうれしいです。

ドラマ Biz『スパイラル~町工場の奇跡~』はテレビ東京にて毎週月曜よる10:00より放送。その後、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信される。

◆著者・真山仁インタビューはこちら

前編:ハゲタカシリーズ『スパイラル』ドラマ化!著者・真山仁インタビュー

後編:『スパイラル』社会派小説の旗手・真山仁が描く日本企業「生き残り」の答え

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