原作・寺嶋裕二による、王道にして斬新、感動と興奮の高校野球漫画として大人気の『ダイヤのA』(講談社)。現在も続編となる『ダイヤのA actⅡ』が週刊少年マガジンにて大好評連載中だ。アニメ版も2013年に『ダイヤのA』(以下、1stシーズン)、2015年から『ダイヤのA -SECOND SEASON-』(以下、2ndシーズン)として放送されて好評を博し、そしてアニメ最新シーズンとなる『ダイヤのA actⅡ』(以下、actⅡ)がついに4月2日(火)よりテレビ東京系列にて放送スタートとなった。
増原光幸監督インタビュー後編となる今回は、1stシーズンから監督を務めている増原に演出や声優のキャスティングなどを語ってもらった。
【前編はこちら】ダイヤのA actⅡ』監督・増原光幸に聞く(前編)「甲子園で高校球児は何を思い、何を経験するのか」
――アニメの演出手法についてなんですが、投手と打者の対決時などで赤青の色使いとなるシーンが印象的でした。その演出はどのように生み出されたのでしょうか?
一番分かりやすい色変えのシーンが出てきたのはクリス先輩と沢村くんとの出会いの頃なんですが、対応し始めたのは雷市との対決シーンとか、その辺りからですね。その辺りのシーンは、原作でもすごいタッチと大ゴマで描かれていて、迫力がすごいんですよ。ただ、そういう表現って、テレビというメディアに落とし込むと再現が難しいんですよね。というのは、原作のそのコマをそのままアニメに落とし込むと、テレビの画面ではこじんまりとした絵になってしまって、むしろ迫力がなくなってしまうんです。
では、それを補完するにはどうしたらいいか?というと、アニメには音楽とSEという手法があります。でも、SEも普段から迫力があるシーンではボリュームをMAXでやっているので、それ以上大きな音にはできない。また、盛り上げようと音楽をつけた上でSEをつけると、総ボリュームの制限にひっかかってしまって、かえって音が小さくなってしまうんです。
じゃあ、他の要素で勝負できるものはないか?と考えた時にハッと気づいたのが「色変え」だったんです。単純な発想ではあるんですが、色変えの要素は人間の視覚の中でも原始的な部分に一番刺さるものなので、分かりやすくはあるかなと取り入れたのがきっかけですね。
――見ている側も、画面の色が変わるとそのシーンに引きつけられます。
沢村君が稲実戦で追い詰められているところでも結構多用しています。単純に感情要素として「ここは見どころですよ」というのが分かりやすいというのはありますね。他にも色々あります。例えば、片岡監督の言葉や沢村くんがいい台詞を言う時は、原作の漫画では背景をあえて描かずに白く飛ばしているんですけど、アニメではピカッと光らせる透過光という手法で見せていたりします。
それを使うことには他の狙いもありまして、画面の背景が飛ぶ時って、SEのタッチ音を入れやすいんですよ。「カキーン!」とか「パーン!」とか、ハッとさせるような音を入れやすくて。「ここは絶対に印象に残る台詞だし、聞き逃してほしくない」と思う部分には、よく使っていますね。立てたい台詞の時は、そういうことを考えて設計します。この意図が一番分かりやすいシーンは、2ndシーズンのラストで沢村くんが「そのエースナンバー 絶対奪い取ってやる」と言うシーンだと思います。
――前園がバッティング時に見せる仁王像のような特徴的な顔などの止め絵にはどんなこだわりを持って演出していますか?
前園のあの顔は原作がやっていたテイストをどうにか再現したくて、特効処理というものをかけているんです。専属で特効処理を担当する方がいらっしゃって、デジタル化してからは撮影さんがやってくれていたりするんですけど、前のシリーズではチーム・タニグチさんにお願いしていました。例えば、特別な伝説の聖剣とか、岩に刺さった剣とか、先祖代々から伝わる壺とか、あるいはめちゃめちゃおいしそうな食事であるとか、特別に見せたい絵は通常のセルの二段塗りじゃなくて、特別に手間のかかる処理としてブラシとかを吹いてもらったりします。前園くんの顔は原作のテイストがわりと質感の重い感じだったので、特別にそういう処理をのっけようということでやっていましたね。なので、ミットのアップとか、ここぞという時は特効をかけていたりします。
――音楽面では、2ndシーズンのラストの薬師戦で最終回に降谷が登板してからの台詞もSEも無く音楽のみのシーンが印象的でした。原作でも台詞も擬音もないというシーンでしたが、どうしてあのような演出になったのでしょうか?
まずは原作の特殊表現というのがあって、じゃあアニメでは違う台詞を入れようかとも考えましたけど、原作がああなっている以上、余計な台詞を入れるのもまた違うなという感じはしました。あそこの曲の提案は、音響現場でどういう曲にしようかという話になった時に、最後の決着をつけるというシーンなので特別な曲があったほうがいいんじゃないかという意見が出たんですよ。そしてスタッフ間での話し合いの中で「こういう曲っぽいやつってどうだろう?」と最終的にあの形になったんです。
――応援や練習時のガヤも、今までの野球アニメより際立っていると感じましたが、その点についてこだわりは?
応援や練習のガヤも、これもまた一つの偶然ですね。『ダイヤのA』はキャストの数が非常に多いんですよ。アフレコでは少ない時でも15人ぐらい、多い時には25人ぐらいと、アフレコのハコの中に入りきれないぐらい役者の方がいらっしゃるんです。通常であれば、効果さんが集団の音を録ってきて下さって、それを汎用的に使いまわしたりするんです。だけど「これだけ人数がいるなら、ついでに録れちゃうじゃん」というわけで、シーンごとにガヤを新録で用意するという非常に贅沢なことが可能になったんです(笑)。
――そうすると、あの練習や試合の応援のガヤは声優さんのアドリブなんですね。
そうです。「練習ガヤ」とか「応援ガヤ」とか「嬉しいガヤ」とか、そんな感じです。何をしゃべるのかはキャストにおまかせなので、時々、使えないことを言っていることも・・・そうしたら、録り直しです(笑)。
――沢村役の逢坂良太さん、御幸役の櫻井孝宏さんをはじめ豪華な声優陣が揃っていますが、キャスティングについてはどのように行われているのでしょうか?
沢村役はずっと長いこと決まらなくて、色々とオーディションをかけていたんですけど、「これだっ!」という方に巡り会えてなかったんですよね。その時に、いろいろあって逢坂くんだけ遅れてオーディションしたんですよ。その時の逢坂くんの熱量が半端なくて「これは沢村だ!」とピンときました。それが、一番の決め手でしたね。
御幸役に関しては、櫻井さんとは以前に別の作品でご一緒させて頂いていて、櫻井さんの力量というものに関しては信頼を置いていたんです。だけど、そういう個人的な感情で選んじゃダメかなと思って。でも、寺嶋さんが櫻井さんに対して「これ御幸です」とおっしゃっていて、「ですよね~」となりました(笑)。それで、櫻井さんでいこう!となったんですよ。
他の方も色々とあったんですけど、なにしろ人数が多いので、一役5人ぐらいの方でオーディションしたとしても登場人物が半端ない・・・。だから、オーディションにはとても時間がかかりました。
――最後に、actⅡのアニメ放送を楽しみにされているファンの方へメッセージをお願いします。
いよいよ新シーズンのactⅡが開幕いたします。新しいキャラクターも続々と出てきて、また沢村くんも2年生に上がって、いろんな新しい一面が見られます。以前、見ていてくださっていた方々も、これから初めて見るという方々も、どんな方でも楽しめる作品になっていると思います。ぜひ、皆さんご覧になってください。よろしくお願いいたします。
【前編はこちら】ダイヤのA actⅡ』監督・増原光幸に聞く(前編)「甲子園で高校球児は何を思い、何を経験するのか」
『ダイヤのA actⅡ』はテレビ東京系列にて毎週火曜日夕方5:55から、BSテレ東にて毎週木曜深夜0:30から放送スタート。動画配信サービス「パラビ」では、『ダイヤのA』シリーズを見放題配信中。
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