山口雅俊監督×コルク・佐渡島庸平｜SNSが加速させるドラマの深読みとその行方

エンタテインメント

2019.03.18

TBS×Paravi（パラビ）スペシャルドラマとして、Season1（全8話）、Season2（全9話）が制作された『新しい王様』。物語の核となる"ふたりの王様"を、藤原竜也と香川照之という実力派俳優が演じ、作品全体に社会派の香りを漂わせつつ、テンポの良い会話劇で重くなりすぎずに人間の本音や欲望を描いていく様が痛快と、パラビでの配信開始時から注目を集めた。

監督を務めるのは『ナニワ金融道』『闇金ウシジマくん』『カイジ人生逆転ゲーム』など、多くの映像作品でお金にまつわるエピソードを描いてきた山口雅俊監督。今回、大手出版社の編集として『バガボンド』（井上雄彦）、『ドラゴン桜』（三田紀房）、『働きマン』（安野モヨコ）、『宇宙兄弟』（小山宙哉）など、多くのヒット作品を担当した経験を持つ株式会社CORK（コルク）の代表取締役会長・佐渡島庸平氏にインタビュアーとして登場頂き、ドラマ『新しい王様』の魅力と制作のプロセスについて山口監督に鋭く切り込んでもらった。今回はその後編をお届けする。前編はこちら。

"深読み好きなお客さん"に刺さっている

佐渡島：：Season2は動画配信サイト『Paravi』で有料配信という、ある種閉じられた世界の中で物作りをするうえで、何か工夫はありましたか？

山口：いつもの演出や仕上げのやり方を変えるようなことはしていませんね。画面のサイズにしても、小さい画面でも見やすくするため寄りを多用する手法など取られる方もいるらしいですが、最近は画質もいいので。私はSeason1と2でまったく変えてないです。

佐渡島：監督自身、プロモーションツールとしてTwitterを上手く活用しているイメージがあるのですが、その辺はどうお考えでしょうか？

山口：作品を完成させたら、それに関してアレコレ言い訳をしないというのが大前提だと思いますが作り手であり受け手でもある者として"発信"するのは大切だと思うのです。ライナーノーツ的な情報を小出しにしつつ、それもコミで作品を楽しんでいただけたらいいですね

佐渡島：それが僕を含め"深読み好きなお客さん"に刺さっているんでしょうね（笑）。それによって、作品の広がりがより加速していくでしょうし。

山口：そうですね。僕もSNSで視聴者の方の書き込みを読んで「そんな受け取り方もあるのか」と新鮮に思うこともあるので、双方向で楽しめたらいいなという感じですかね。

エピソードの厚みが先を期待させる

佐渡島：せっかくなので撮影現場の様子も伺いたいのですが、印象的なシーンや撮影中のキャストの方々の様子などをお話しいただけますか？

山口：越中役の香川照之さんは社会派のドラマに出演することも多く、日頃から現場は男性キャストの比率が非常に高くその平均年齢も高いそうなんです。白い水着の女性が三人も登場する海中カジノのシーンを撮影し終えた時「今回はオッサンばっかりじゃなくて若い女の子も多い現場で楽しい。ありがとう!!」と、感謝されたことが印象に残っています。これも"エピソード"ですね（笑）。

シリアスなシーンでは、Season1の第1話の最後でコウシロウの事務所のビルの屋上でアキバが吠えるシーンは脚本を書くのに苦戦した分、印象的でした。あのシーンはセリフを何回も入れ替えたり戻したり試行錯誤を繰り返し非常に悩んだのですが、藤原竜也くんという役者が演じたことによって説得力のある生き生きとしたシーンになりました。カットをかけた瞬間、「成立した」と確信しました。

佐渡島：最後に、今後のドラマ『新しい王様』の展開を楽しみにしている皆様にメッセージをお願いします。

山口：とにかく大前提として、「このドラマには特定のモデルはいません」ということを言っておきます。登場するどのキャラクターみんな愛すべきキャラクターとして描いていますし、そのキャラがラストに向かってどう動いていくんだろうと、その動向を見守ってほしいですね。放送を見た方は「お金とは何か」「幸せとは何か」、そして「より心豊かに生きる、よりよく生きる」ことについて、今一度考えていただけたら嬉しいです。
Season1、Season2の全17話が完結したときに、ささやかでも届く答えを提示したつもりです。

佐渡島：完結と言いつつ、キャラクターが魅力的なだけに外伝とかも期待してしまいますよね（笑）。そう思わせるのは、さきほどから監督が何度もおっしゃっている"エピソード"の厚みがあるからだと思うんですよ。

山口：佐渡島さんにそう言ってもらえるのは光栄だし嬉しいです。コウシロウ役の杉野遥亮くんも「登場人物たちの描かれていない過去やこれからもが気になる！」と言ってくれてました。続編や外伝については一切未定ですが、万一やることになっても、何としてもプロデューサーは回避したいです（笑）。

佐渡島：編集としてアドバイスさせていただくなら、今後の展開を1回全部小説として世に出してみたらいいと思いますよ。その後に企画を提案するという順番にした方が人を巻き込みやすいし権利関係もキレイになる（笑）。山口さんが書いた小説をもとに脚本家に台本を書いてもらえば、監督も今回のように3役を兼ねることなく、ちょっとは楽ができますしね。

山口：楽したいです（笑）。