物語は佳境を迎え、ますますの盛り上がりを見せている、常盤貴子が主演するドラマ、日曜劇場『グッドワイフ』(TBS毎週日曜夜9:00~)。常盤が19年ぶりにTBS日曜劇場で主演を務めることでも話題となった。共演には、小泉孝太郎、水原希子、北村匠海、賀来千香子、唐沢寿明ら豪華俳優陣が並び、演出を『アンナチュラル』や『リバース』などを手がけ注目される塚原あゆ子が担当する。
常盤演じる主人公の蓮見杏子が、子どもを守るため、強く前に向かって歩く姿は、現代女性の強さを表しているかのようで、女性視聴者からも熱烈な支持を受けている本作。それをイメージさせるかのような洗練されたセットも印象的で、特に杏子が働く、神山多田法律事務所は記憶に残る。法律事務所、そして杏子の家について、美術プロデューサーの大木壮史さんにこだわりや裏話を語ってもらった。
完璧じゃない"人間"というキャラクター設定もセットに反映
――小泉孝太郎さんが演じる多田征大の部屋も印象的でした。
多田の部屋については、設計段階の時点で監督から「ローテーブルに座ってご飯を食べるようにしたい」という要望があったんです。肩書きのある人なので、親しみやすさ出したいといった意図があったようです。塚原さんの女性的な目線だからこその指示だなと思いました。
――なるほど。多田がまるで自宅にいるかのようにくつろいでいる姿が新鮮でしたが、そういった意図があったんですね。
そうですね。多田にはあまり片付けられない、完璧じゃない人間というキャラクター設定があるんです。なので、くつろいだところを見せることが監督の狙いなのかもしれないです。セットだけじゃなく、衣装もそうなのかもしれないですね。ダウンジャケットで自転車に乗って通勤していたりというのも、本来の弁護士像とは違いますよね。自転車もロードバイクではなく、親しみが持てるものを、という指示がありました。でも僕は、どういう部分に親しみやすさを持たられるのか、ピンときてなかったんですよ・・・(笑)。でも、オンエアされて、小泉さんのかっこよさやかわいさが評判になっているようなので、なるほどと、納得するものがありました。
――多田は、非常に魅力的な人物になっていますもんね。これも塚原さんのキャラクター設定が見事に当たったということですね。
塚原さんは、キャラクターの作り方が細かいんですよ。ほかのドラマでは、詳しいキャラクター設定がされていない登場人物がある場合もあって、その場合には、美術チームであるていどの方向性を考えて、飾りながら決めていくのですが、今回は、細かい設定があったので、それに準じて、セットも作っています。
監督・塚原あゆ子、女性ならではの目線
――では、主人公・杏子の自宅についてはいかがですか?
杏子の場合は、設定が少しややこしいですよね。メインで登場している自宅のマンションは引っ越してきたばかりという設定です。監督は、さまざまな条件が合ったから、あのマンションに決めて撮影をしているわけですが、実は、本当はもっと下のランクのマンションが良かったそうなんです。だから、あの建物は実際のものよりグレードが落ちて見えるように飾ってほしいという指示がありました。
リビングに置いてある家具も、茶色の棚だけは前の家から持ってきたという設定ですが、それ以外は庶民的な家具を入れていて、あまり飾らないようにしています。急場をしのいで、とりあえず家具を揃えたという印象を与えたいということでした。
――監督から細かい指示があるものなんですね。
色味や映像的なことよりも、心情的なことを意識されているようでしたね。僕は、これまで女性の監督とご一緒する機会があまりなかったんです。塚原さんは、女性ならではの目線をお持ちなので、僕が思ってもいなかったポイントを指摘してくださったのでとても面白く取り組ませていただきました。
――では、美術スタッフとしてセットを作る上で、一番、大切にしなければいけないのはどんなことだとお考えですか?
芝居をすることを考えた上でレイアウトすることです。例えば、法律事務所のドアの数。ここには3つのドアがあるんですが、それが例えば1つだったら、役者は全員そのドアから入ってくることになります。逆に、全部の壁にドアがついていたらリアリティーもなくなるし、役者もどこから入ってくるのかわからなくなります。芝居の動線を考えながら作りつつも、リアリティーは出さないと映像的にもおかしなことになる。そのギリギリのラインを探りながらセットを組むのが重要だと思いますね。
セットを作るという工程の中では、平面図が一番大切です。実は、色味だとかガラスを張るかどうかということは、それほど重要ではないんですよ。何よりも、芝居が成立するということが大事なんです。それから、スケール感。だから、どう動くかを計算しながら描かなければいけない平面図が重要で、平面図はチーフが描くという美術チームも多いと思います。そして、セカンド(チームの二番手)が建ち図を描く。もちろん、それはセットにもよるので一概にはいえませんが...。『グッドワイフ』でいえば、裁判所は配置が決まっているものなので平面図は難しくありません。印象的に空間を作らなければいけない裁判所と、芝居を成立させなければいけない法律事務所では、平面図の意味も変わってきます。
――ところで、ドラマの場合、セットを組む段階では、脚本は最後まで出来上がっているわけではないですよね。撮影が始まってから、セットを変えることもあるのでしょうか?
僕たちから変更しようと提案することはありませんが、脚本を読んだらこれまでなかった小物が出てきた、というようなことはあります。その場合には、その都度、プロデューサーやディレクターと話し合いをして解決していきます。もちろん、セットを大きく変えることはありませんが、例えばこれまで置いてなかったイスが置いてあるというような細かい変更は時々あるので、熱心な視聴者の方は気づくかもしれませんね。
――それぞれのキャラクター性を強調するために、実はこんなものを置いているという、裏話がありましたら教えてください。
小泉さん演じる多田は、完璧ではないことを強調するために、デスク周りにスタッフが食べ終えたコンビニ弁当の容器を置いたり、飲みかけのペットボトルを置いていたりします(笑)。仕事は完璧なのに、日常生活ではだらしない人っていますよね? そういったキャラクター性を出したいと思っての演出です。常盤さん演じる杏子は、法律事務所ではまだ新任で、働き始めたばかりという設定なので、デスクはほとんど飾っていないんですよ。ただ、杏子の趣味は英語の本を読むことだという設定があったので、自宅には英語の本が飾ってあります。そのほかにも設定に沿った小物を配置はしてありますが、どこまでやるかは難しいラインです。言い出したらキリがないので・・・。
――その「どこまでやるか」はどうやって決めているんですか?
時間とお金です。連続ドラマの場合、潤沢な時間があるわけではないので、できることも限られてきます。例えば、料理をしている菜箸の先端は焦げていないとおかしいですよね? でも、どのドラマでもピカピカの菜箸を使っています。それも、厳密にいえばおかしいんですが、そういうことを言い出したらキリがなくなってしまう。それに、そこまで映るのかどうかということもあります。それから、リアルにしても、映像的に不快に思うようなところまでやってしまったら本末転倒なので、違和感のないところまででいいんじゃないかなと思っています。
自然に見えていればそれが一番・・・美術としてのやりがい
――美術のお仕事をしていて、やりがいを感じるのは?
『グッドワイフ』はそれほど役者の動線は複雑ではないですが、例えば銃撃戦があるとか、天井から人が降ってくるというような動きのある作品の動線を考えながら平面図を描いていって、芝居が成立するプランが自分の中で腑に落ちたときかな。極論を言ってしまえば、おしゃれな部屋を作るのは簡単なんですよ。インテリア雑誌に載っているような要素を一つ一つ詰め込んで、コラージュしていけばできるんです。芝居を成立させることの方がその何倍も難しいと感じます。だからこそ、やりがいも感じますし、うまくハマったときは達成感も感じます。
――最後に、改めて『グッドワイフ』で観てもらいたい美術のポイントがあったら教えてください。
「ここは!」と力を入れているのがわかってしまうというのは、美術としては失敗なので(笑)。自然に見えていればそれが一番だと思います。ただ、『グッドワイフ』では、毎話、弁護を依頼する登場人物が出てきて、事件が起きたり、さまざまな仕掛けがなされているので、その辺りのイレギュラーな部分は見てもらえたら嬉しいですね。少ない時間の中で、ひとつひとつひとつ、僕の仲間たちが作っていますので、その頑張りにも注目してほしいです。
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