物語は佳境を迎え、ますますの盛り上がりを見せている、常盤貴子が主演するドラマ、日曜劇場『グッドワイフ』(TBS毎週日曜夜9:00~)。本作は、リドリー・スコットが製作総指揮を務め、2009年から7年間アメリカで放送された「The Good Wife」を原作に、夫がスキャンダルで逮捕されたことから、16年ぶりに弁護士に復帰する女性が数々の困難に立ち向かう姿を描いたリーガルヒューマンエンターテインメントドラマ。

常盤が19年ぶりにTBS日曜劇場で主演を務めることでも話題となった。共演には、小泉孝太郎、水原希子、北村匠海、賀来千香子、唐沢寿明ら豪華俳優陣が並び、演出を『アンナチュラル』や『リバース』などを手がけ注目される塚原あゆ子が担当している。

常盤演じる主人公の蓮見杏子が、子どもを守るため、強く前に向かって歩く姿は、現代女性の強さを表しているかのようで、女性視聴者からも熱烈な支持を受けている本作。それをイメージさせるかのような洗練されたセットも印象的で、特に杏子が働く、神山多田法律事務所は記憶に残る。法律事務所、そして杏子の家について、美術プロデューサーの大木壮史さんにこだわりや裏話を語ってもらった。

20190308_goodwifeart_04.jpg

映像的な見せ方とリアル、どちらも追求

――ドラマ『グッドワイフ』では、主人公・杏子の自宅や杏子が働く法律事務所など、おしゃれで今どきのセットが印象的でした。最初に、美術スタッフの方々が、どのような流れで、セットを作っていくのかを教えてください。

まず、台本を読みます。そして、それに合わせて、予算やスタジオの日数などを考えながら、セットにするべきか、ロケにするかを話し合っていきます。その中で最善の選択を探っていくことになるのですが、今回は、制作部というロケの担当が、法律事務所のセットを作った倉庫の物件を持ってきてくれて、「ここならば全部作れて、飾りっぱなしでいけます」ということだったので、そこからスタートしました。

今回は、法律事務所のセットが一番大きなものでした。このほかに裁判所や検事室などもありますが、一番広いのは法律事務所ですね。この法律事務所のセットも様々な考えの上での設計になっています。例えば、この作品は法廷ものなので会議室で話すシーンが多いんです。なので、会議室を真ん中に置くことで、抜けの映像が作れるようにという考えから作られています。

――会議室は、ガラス張りですね。それが抜け感にも繋がっているんですね。

カメラマンからすると、撮りにくいだろうなと思いますが(笑)。実は、会議室のテーブルにもガラスを張っているんです。上の電飾がガラスに反射するので、撮っているとキラキラするんですよ。もちろん、それだけではなくて、ガラスを張ることで、テーブルの傷が目立たなくなるというメリットもあります。どうしても、撮影中にケーブルなどで傷がついてしまうので、黒い天板だと、拭いても拭いても汚れていってしまうんです。それが嫌なので、ガラスを乗せています。高級感も出ますし、傷も付かないので一石二鳥なんですよ。

20190308_goodwifeart_02.jpg

意識的に分けられたシーンを演出する色味

――今回の法律事務所のようなセットは、どのくらいの期間で建てることができるんですか?

スタジオで作る場合は、事前に工場でパーツパーツを作っておくことが多いんです。今回もそうです。そうすると、現場では工場から運び入れたパーツを組むだけになります。今回は車両で運搬しなければならなかったので、ベニアだけで作っておいて、現場で壁紙を貼るなどの仕上げをしたので1週間以上はかかりました。例えば、緑山スタジオの場合は、工場もスタジオ内にあるので、同じようなものを作っても3〜4日で建ちます。

――そんなに短期間で建てることができるんですね!

もちろん、パーツを作るにはもっと長い時間がかかっていますよ。パーツを作るところから考えたら、3〜4週間はかかっていると思います。

――先ほど、会議室についてはお聞きしましたが、そのほかに、どういったことを意識して、セットを作り上げたのでしょうか?

色味です。演出の塚原さんから、最初に色味と素材を裁判、検事、そして法律事務所という3つのシーンごとに意識的にわけるというお話をいただいていたので、その部分は一番意識しました。

ご覧いただけばわかると思いますが、検察のシーンはグレーを強調した色味になっているのでわかりやすいと思います。裁判所は、どっしりした、重い色調で作っていて、重厚感のある建物をイメージして作っています。法律事務所は、それらよりも軽く明るい印象で、楽しい気分になれる事務所を目指しました。

20190308_goodwifeart_03.jpg

「人がたくさんいる」ことが成立するセット作りを

――原作はアメリカのドラマですが、日本のドラマに置き換える上で、何か意識されたことはありますか?

意識的に何かを取り入れたということはありません。ただ、原作は、どのシーンでも常にエキストラが動いているという印象があったので、その点に関しては監督に「そういうことはやりますか?」という質問はしました。

日本のドラマでは、二人が話しているシーンでは二人しか映らないことが多いんですよ。オフィスにいても人を感じないといいますか...。でも、アメリカのドラマは、人が多すぎるんじゃないかというぐらい画面内に人がいる(笑)。例えば、アメリカのドラマだと主人公たちが歩きながら話してオフィスに入ってくるシーンでは、たくさんの人とすれ違うんです。それで、監督に聞いたんですが、監督からはエキストラをたくさん入れたいというお話があったので、それで抜け感を作ることを意識して、「人がたくさんいる」ということが成立しうるセット作りを心がけました。

――なるほど。演出的なことで意識することはあっても、例えば、部屋の作りを寄せるとか、そういったことはないのですね。

ないですね。アメリカのオフィス設計は日本ではリアルではないので、似通わせようというのはなかったです。逆に、影響を受けないためにも、あえて原作はあまり見ないようにしました。

――法律事務所のセットはかなり広いですよね。

広いです。スタジオでは入らない大きさなので、それだけでもスケール感の大きいものができたと思っています。通常のスタジオセットは、どれだけ広く作ってもリアルなものよりは狭いんです。デザイン的にも肉眼で見るよりもカメラで撮って奥行きが出るようになっているんですよ。

後編に続く)

後編はこちら:『グッドワイフ』美術プロデューサーに聞く(後編)映像的な見た目よりもキャラクターの心情を意識

(C)TBS