テレビ東京系列にて放送中のドラマBiz『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女(ひと)に賭けろ~』。月曜よる10時の時間帯に『働く』ことをテーマとし、大人たちへ向けた上質で本格的なドラマを提供する「ドラマBiz」第4弾となる本作は、作・周良貨、画・夢野一子により1993年から1997年にかけて『モーニング』(講談社)で連載された日本の漫画作品が原作で、初の実写化となる。
真木よう子演じる、都市銀行で働く女性総合職の主人公・原島浩美が、「恐れながら申し上げます」の決め台詞と共に、どんな相手にも臆せず正論を吐き、お客様第一の銀行員として、大胆な発想と行動力で業績不振の支店を立て直していく様子を描いた痛快ドラマだ。
今回は、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』などの脚本を務めるなど数々の映画・テレビドラマ・舞台の脚本・構成だけでなく、監督・演出としても活躍する西田征史に、本作の魅力や見どころ、込められた想いなどを語ってもらった。
――銀行を舞台にしたビジネス系作品の脚本を書いてみてどうでしたか?
もともと今回は原作がしっかりあるものなので、その世界の中にやわらかい部分を足していくというのと、連ドラの背骨として、群像劇としての部分をオリジナルで作っていくというのが自分の仕事だと思っていました。原作は台東支店の仲間の話というよりは浩美がどう切り拓いていくかのような物語で話によっては台東支店のメンバーが全く絡まないこともあります。ですので、連ドラとして、それぞれの役にドラマを作ったという感じですかね。加東は原作では最初に浩美を敵視して以降はそれほど出てこなかったりするんです。
ドラマ版では、加東・矢野・吉田3人の関係値や、そもそもの加東の「生真面目ナルシスト」「断れない男」というキャラ付け、そして加東が浩美に恋心を抱くことなど、こうしたら楽しそうだなという発想で書いていきました。島津副頭取が頭取の座を狙っている表現が物語の途中から出てくるので、それを連ドラとして大きな軸に置いてみようかな?そうなると、それぞれの派閥争いなどを各話で進めていこうかな?とか、オリジナルの役を作ったりして人物配置なども色々考えました。原作のお二方にも挨拶させて頂いたんですが、自由にのびのびやってくださいと言って頂きました。銀行の世界の勉強をしながら、とても楽しく書かせてもらいました。
――その"やわらかい"部分というのは?
ビジネスっぽい会話は、むしろ入れていこうと思ったんです。あえて分かりやすい表現にしたところもありますが、意味は分からなくても専門用語を聞くだけで「こんな会話しているのか!」という驚きがあると思うので。ただ、実際に働いている人間って、ずっと真面目で仕事のことだけを考えているかというとそうでもないと思うんです。だから、硬く書くところは硬く書いて、クスっと笑ってもらいたいところとか、人間らしさとかが出る部分ではやわらかさを意識したつもりです。
――原作を読まれた印象は?
15巻かけて加速度的に面白くなっていく印象がありました。ただ今回のドラマが全8話なので、漫画版の前半をやるとすると、後半がもったいないないなという気持ちもありつつ、漫画版の未来があるからこそ、今この段階で書けることもあるなと思いましたね。全15巻の内容は今回のドラマだけでは入りきらないので。キャストも含めて一緒に積み重ねていって、2期ができたらいいなという思いは、読み終わった段階で最初に感じたことですね(笑)。
――原作では巻をまたいでのでエピソードもありますが、ドラマは1話完結となっていてスピーディーで見やすい感覚があります。
原作は毎週連載されていたからコミックスでまとめられるとそうなってしまうところもあるんでしょうね。お題となる案件の骨格は使わせていただいて、派閥争いやそれぞれのキャラクターの想いや描写をドラマとして足していきました。ドラマという表現は、週刊連載の漫画とは違う見せ方かなと思っているんですけど、それがまた楽しい作業でもありました。
――ドラマ版を見た感想は?
キャストの方々も素敵なお芝居をしてくださっているので、みんなで同じ方向に向かっている感じがあらためてして、うれしくなりましたね。真木さん演じる浩美だけでなく、どのキャラクターにも思い入れがあって書いているので、それをキャストの方が読み込んで作って頂いているなと思いました。
台東支店営業課の加東を演じる丸山隆平くんには、自分の映画にも出てもらったりもしたので、今回も自分が狙っている「生真面目だけど本質的にちょっと笑える部分」等をト書きから読み取って演じてくれているなと感じています。真面目過ぎて笑えるとか、真面目過ぎてかわいい、感じが好きなんですが、その辺りをちょうど良く表現してもらっている気がします。
同じく営業課の矢野を演じている塚本高史さん、副支店長の奈良を演じている三宅さん、喫茶店の店主を演じる片桐はいりさんとか笑いを担って頂きたいポジションの方もそうですし、全てのキャストの方が、ドラマにおける自分の居場所を明確に意識して演じて下さっているなという感じです。
――脚本家から見た本作の面白さや魅力はどんなところにありますか?
照れくさいですよね(笑)。僕は群像劇と位置づけているので、浩美という1人の人が自分だけの力で何かを乗り越えるという話だとは思っていないんです。彼女が動き出すというのが前提なんですが、彼女の動きによって感化されたりとか、変わっていく人々の物語なので。
かっこいい女性のお話ではあるけれども、その人が自分の力でスーパーウーマンとしてやっていくって話ではないので、そのあたりが本作の魅力だと思ってもらえたら嬉しいです。
――"群像劇"として言うと、第3話に登場した菅原大吉さん演じる中年で熱意を失ってしまった丹波というキャラクターは、サラリーマンの方々が感情移入してしまいそうなキャラクターですね。
ああ、はい、この歳になるとあっち側に気持ちが寄り添っちゃいますよね。なんかちょっと諦めている側というか。この間、丸山君と話した時にも、加東と丹波が2人でしゃべるシーンで、丹波の「銀行で30年働いてきてなんかいろいろと分かってきて、熱意も失われた」というような台詞で思わず泣きそうになったと言っていたんですよ。丸山くんみたいなトップアイドルですらそう思うんだと驚きました(笑)。
――脚本については、演じる役者さんを考えながら当て書きをするタイプですか?
「こういう言い方になるかな?」みたいに顔はイメージしています。でも、その時々ですかね。「あの人は、あの人のあの感じで言うといいだろうな」とか、「むしろあの人のイメージじゃないから面白いかな」とか。だから、寄せる部分と離す部分というのは台詞によるかもしれませんね。
――ドラマ版は本店の人たちのキャラクターが立っていて分かりやすいですね。
ありがとうございます。企業もので分かりづらいフレーズが多く出てくるので、それぞれのポジションが何を目指しているのかというのは分かりやすく進めないと見て頂だけないかなという不安もあったので。分かりやすくというのは意識しました。
――第1話は登場人物の紹介的な側面もありましたけど、そこで本店の人物が分かりやすくイメージづけされているなと感じました。
ありがとうございます。頭取と副頭取の争いに巻き込まれた浩美という女性が、さらに支店も巻き込んでという図式で見せていくのがドラマ版なので、そこはわかりやすくセットアップしていった感じです。
――原作の時代設定は20年以上前のバブル崩壊後ですが、ドラマ化にあたってどのような考えで現代にアレンジしたのでしょうか?
銀行を取材させていただくと今でもバブル崩壊の負の遺産に関してはあまり変わっていない、進んでいないという現実もあったんです。だからテーマとして、そのまま取り上げさせていただいた回もありました。一番大きな違いは、銀行でも潰れてしまう時代になったということですかね。ちょっとした雰囲気・空気感でそのあたりの銀行への期待感や銀行で働く人の考え方などは現代的にしています。銀行への取材では、出会ったことのない人たちに会えてすごく面白かったです。他のドラマの脚本を書く時よりも、このドラマでは台詞が硬いんですけど、そういう硬い口調で生きている人なんだろうなという感じの人が本当にいらっしゃいましたね。
――ドラマに出てくる本店の人たちはかなり現実のイメージに近いんですね。
まぁ誇張はしていますが、「銀行内で生き残る上で一番大切なことはミスをしないことだ」というフレーズは取材中何度も耳にしたくらい、銀行の上の人って本当にああいう生き方をしているんだなと、取材してみて思いました。
――「ドラマBiz」シリーズとしてどのような考えで脚本を書いていたのでしょうか?
もちろん、プロデューサーのみなさんとこの枠の中でターゲットも含めてですが、どのぐらい分かりやすくとか、どのぐらい今までのルールやしきたりに添うのか、変えるのかみたいなところは話し合ってやってきています。
――「ドラマBiz」初の女性主人公ということで、何か意識をしたことは?
そうですね、普通にお話を描く中で今までの男性目線と若干違う部分はありますけど、浩美自身が女性だから男性だからってことにあまりこだわっていない人として描いているつもりです。男性だから女性だからって話にはしたくないなと思っていて、個人差はありますけどそれは男性と女性の差じゃなくて、個々の差として描いた方が今風かなと思ってはいます。それに、わざわざそこを描くドラマにはしないほうがいいかなと。それが本作で一番伝えたいことではないですからね。
――「ドラマBiz」的な要素としてインバウンドを扱ったりと、原作からの設定変更が今の時代とマッチしていますね。
そこが一番20年前との違いなのかもしれないですね。業界的な流れがやっぱり今と違うというか、スタッフのみなさんとアイデアを出し合ってそれっぽさを取り入れてみたつもりです。
――そういう点が、テレビ東京で本作の放送後の23時から放送される経済ニュース番組『ワールドビジネスサテライト』につながってくるなと思いました。
それは意識しましたね。やっぱり他のドラマ枠との差別化も含めて、ビジネスという世界に興味がある人が今見て古いなと思ってもらわないように、今見る意味があるものとしてそういう今っぽさを入れ込んでいるつもりです。
――真木さんの演技も印象的な「恐れながら申し上げます」という浩美の決め台詞がありますが、これはドラマオリジナルですか?
ドラマオリジナルです。今回、僕は決めゼリフはなくていいかなと思ったんですけど、みなさんで話していて「入れましょう!」という話になって。僕からは「反論させて頂きます」のような強いセリフで入ろうかなという提案をしたら、さすがにそれは強いなと(笑)。それで、いくつか候補を出し合っている中で最終的に女性の助監督・祖父江里奈さんの案である「恐れながら申し上げます」に決まったんです。僕のこだわりとしては、毎回「恐れながら申し上げます」の前にト書きで「堂々と」と書いていて、台詞とのギャップを意識したつもりです。
――原作・ドラマの舞台でもある台東区浅草は一般人からすると観光地のイメージが強いですが、いろいろな企業もあって面白いですね。
そうですね。下町の義理人情というイメージはもちろんありますし、土地に独自の色がある感じですね。そういうのを含めて台東支店を舞台にしているのは、そもそも原作がそういう風にしたのかなと思います。
――ロケーションについては脚本に書かれたりするのでしょうか?
絵的な場所の制限については、あまりしていないかもしれないです。芝居とかのニュアンスは沢山書くんですけど、場所はどうしても時間と予算の制限がありますからね。例えば、いきなり「東京ドーム」と書くわけにはいかないですから。お金を使うところ、使わないところはやっぱり切り分けていかないと現実的じゃないので。だから、場所に関してはお任せというか、こういうことがやれれば僕はいいですというニュアンスしか書かないです。
――西田さんは脚本・構成だけでなく、元芸人で、映画・テレビドラマの監督や俳優としても活躍されていたり、ラーメンズの小林賢太郎さんと演劇プロジェクトをやられていたりとマルチに活躍されていますが、その経験が脚本家として活きていることはありますか?
自分が生きてきた中で出会った人、見てきた人がいるから、何か自分が思いつく台詞はあると思うので、どの瞬間も無駄にはなってないのかなとは思います。
――第5話のオリジナルエピソードでは、ラーメンズの片桐仁さん、東京03の豊本明長さん、元ジョビジョバの長谷川朝晴さんというお笑いや演劇界からのゲストが登場しました。
特別にあの話だけ自分の色を出そうと思ってなくて、感じてもらえたらいいなというのを全話に思っています。原作や原案があるドラマを作る場合は、その原作・原案の良さを損なわないという前提の中で、面白いと思うものを出しているつもりですね。自分の色を出そうという意識はありません。キャストに関して言うと、片桐くんは僕の作品にほとんど出ているので、どこかに出て頂けたらとは思っていました(笑)。
――原作ものでオリジナルエピソードを書くことに苦労はありますか?
原作の台詞を一つも使っておらず、扱う案件からして完全にオリジナルなのは5話なんですが、最初にプロットで思っていたよりも一気に書けたので、楽しかったです。スルガ銀行とか特定の今の状況をモチーフにした事件というのとリンクさせています。他の話数では扱う案件は原作のものを使わせていただいていますが、派閥争いとか人間関係の進み方は完全オリジナルなので、それまでの話数で自分が思い描いていた人間関係を整理したら自然に書けたのという感じで、特別苦労したという実感はなかったです。
――西田さんご自身が今「恐れながら申し上げたい」ことはありますか?
えーと、えーと、今年、インフルエンザにかかって、そこから気管支炎になってぜんそくになっちゃったんですよ。だから、みなさんも身体には気をつけて下さいということは恐れながら申し上げたいですね(笑)。こんなことでいいでしょうか(笑)?
――本作は、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信が行われますが、動画配信サービスを利用したことはありますか?
数年前までは利用していなかったんですが、去年から結構見ています。便利ですよね。自分の見たいタイミングで見られるっていうのが、やっぱり時代に合っているんだろうなと思いますね。
――本作の今後として、どんな点を視聴者に注目してほしいですか?
各話に登場するゲストも浩美に出会って変わっていく人たちなんですけど、本店の人間も支店の人間も浩美によって変わっていくので、第1話から最終話に向けて浩美によって皆がどう変わっていくのかというところを追って頂けるとうれしいですね。
ドラマBiz『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女(ひと)に賭けろ~』は、テレビ東京系列にて毎週月よる10時放送中。BSテレ東は1月25日(金) よる9時スタート。定額動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信。
(C)テレビ東京 (C)Paravi
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