日本が誇るバレエダンサー・熊川哲也率いるKバレエカンパニーから、選りすぐりの男性ダンサー5人で結成された「Ballet Gents(バレエジェンツ)」。2014年の発足以来、ディナーショーやオーケストラとのコラボレーション、地方特別公演などを経て、2018年12月22日に東京では初めてのシアターでの単独公演を行う。座長の宮尾俊太郎、ゲストの大貫勇輔のインタビューに続き、バレエジェンツの残る4人のメンバーにもそれぞれインタビューを行った。1人目は、杉野慧をピックアップ。

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熊川さんに憧れて

――まずは、杉野さんがバレエを始められたきっかけを教えて下さい。

きっかけは、5歳の時にテレビで熊川哲也ディレクターの踊りを見たことです。夜目が覚めてしまった時に、母が見ていたテレビに映っていたのが、熊川ディレクターでした。「すごい、すごい!」とはしゃいだことを憶えています。翌日、「やりたい」と言って、カルチャースクールのようなところに体験レッスンに連れて行ってもらったんです。その後に、「もっと男の先生に教わりたい」と母にお願いしたところ、家の近くにちょうど教室があったので、そこに2、3年通いました。その後、別のスタジオに移って小学校5年生の終わりまで続けていたのですが、中学受験を機に辞めてしまいました。

中学2年生になって、もう一度バレエに触れる機会があったんですが・・・バレエから離れている間に身長が17cm伸びていたんですよ。子供の頃に覚えたテクニックや動き方は、全てリセットされてわからなくなってしまって。身体の重心も変わっているから、以前の感覚で動いてみたらすぐ転ぶし。復帰したけれど、すぐに辞めてしまいました。でも、また半年ぐらい後には、もうちょっとバレエをやりたい・・・となりまして(笑)。通い始めたバレエスタジオに来ていた、Kバレエ スクールのサマースクールの案内をきっかけに、恵比寿でやっていたオープンクラスに足を運びました。その時参加したクラスが、その後僕の恩師となる溝下司朗先生のクラスだったんです。とても明るく、気持ちを開放してくれる楽しいクラスだったので、この人の元でもっとバレエをやってみたいと思い、Kバレエ スクールに入りました。それが16歳の時でしたね。

――そこまで杉野さんを惹きつけたバレエの魅力とは、何でしょう。

なかなか言い表せないんですが、音に合わせて身体を動かすことが元々すごく好きだったんですよ。かつ、クラシック音楽も小さい頃から大好きで。クラシックの音楽と踊り、生のオーケストラ、舞台装置、衣裳がすべて合わさって、素晴らしい世界になる。だから入団当初から、幕が開く瞬間、毎回僕はワクワクします。舞台が開幕するその瞬間は、舞台袖にいたい(笑)。また新しく一つの世界が始まるって、ワクワクするんです。いつになっても飽きない、毎回新鮮に感動させてくれる。そんなバレエが、僕は大好きです。

――宮尾さんは、杉野さんのことを「日本人離れした表現力を持つダンサー」だとおっしゃっていました。

そうおっしゃって頂いて嬉しいんですが、あまり実感がないんですよ。日本人離れしているっていったい何なんだろう・・・って。確かに、小さい頃から表情がコロコロ変わるとか、身振り手振りが大きいとか言われていたんですけど(笑)。おそらく、テンプレートの演技をしない、ということなのかなと思っています。これからもしっかり表現力を磨いて、舞台を見ている方々をずっと新鮮に盛り上げられる、そういうダンサーであればいいなと思います。

――憧れのダンサー、といえば・・・やはり熊川さんでしょうか。

それはもう!近くにいながら、ずっと最高の憧れの方です。純粋にバレエを、芸術を愛し、人生を捧げていらっしゃる方だと思います。普段の私生活からきちんとバレエに向き合っていらっしゃるし、音楽や本にもたくさん触れていて、見識がとても広いんですよ。お話を聞くと、勉強になることばかりです。指導していただく時も、とても合理的な方法を教えて下さるし、熱いんですが、理路整然としていらっしゃる。一口には全部言いきれないんですが、すべてを尊敬しています。

――宮尾さんはどんな方ですか?

自分の身体とすごく真摯に向き合っている方です。食事面はもちろん、ケアの方法や運動力学を学んでいる時期もありましたし、踊ること以外のワークアウトであったり身体作りであったり、すごくストイックにやっている方だと思います。

――Kバレエ カンパニーとバレエジェンツでは、どんな違いがありますか?

Kバレエは、いわゆるグランド・バレエ(ストーリー性のある、何幕かに分かれた豪華なバレエ)を主にやっていますが、ジェンツはあえてそこに触れずに、毎回、他ジャンルへチャレンジし、違うジャンルとのコラボレーションをさせていただいてます。ジェンツとして、5人で世界観を創り、新しいジャンルをバレエに合わせていくことで、バレエの可能性を広げ、お客様に提供していく、広く認知していただくことが役割だと思っています。

――特にお好きな役柄などありますか。

好きな役柄は『ドン・キホーテ』のエスパーダです。闘牛士の役ですが、キャラクター的にもとてもかっこいいですし、踊りも熊川版ではかなり多いんです。華やかですし、本当に大好きな踊りです。

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他のメンバーのこと

――ジェンツの他のメンバーについて教えて下さい。

栗山(廉)くんは、まず顔がイケメン!しかも、背が高くてプロポーションがいい。入団当初は、いわゆる少女マンガから抜け出てきたような王子様というイメージで、すごく華奢だったんですよね。でも、身体を変えたいという意識が強くて、ジムに通ったり、いつもトレーニングをしています。すごくストイック。ただのお澄まししてる王子様ではなく、根がちゃんと熱い男です。

益子(倭)くんは、もしかしたらお互いを一番理解してるんじゃないでしょうか。Kバレエ スクール時代から、良い部分も悪い部分も見せ合ってきました。勉強熱心なんですよ。仕入れたものによって、ファッションから纏う雰囲気まで、全部変わったりするんです。そういう意味で、とても面白い。自分を変えるって、なかなか勇気がいることだと思うんです。壁にぶち当たって苦しむこともあるかもしれないけれど、それを怖がらずに実践できて、自分の糧にできる人ですね。

篠宮(佑一)くんは、頭脳派ですね。美術館に行ったり、海外に行ったり、経験を経て見識を広めているタイプ。バレエへのアプローチも、効率的に淡々と進めていくんですが、舞台に出ると本当に楽しそう!篠宮くんと一緒にいると結構癒やされるんです(笑)。僕たちは話しているとどんどんストイックな感じになってしまうんですが、篠宮くんはそういう雰囲気を柔和にしてくれる、僕の中ではジェンツのいやし担当です。

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今後について、12月22日の公演について

――今後の目標は?

ダンサーとしては11月に初めてグランド・バレエの主役、『ドン・キホーテ』のバジル役を踊らせて頂いたんですが、出演が1回で終わらないように。僕はこれまで、エスパーダや(「白鳥の湖」の)ロットバルトだったり、(「くるみ割り人形」の)ドロッセルマイヤーだったり、脇を固める役が多かったんですが、主役をやりたいという気持ちも強くて。いつかKバレエを支えられるようなダンサーになれたらなと思います。

――12月の公演は、どんな公演になりそうですか?

川崎悦子先生の演出で、素晴らしい身体能力と踊り心を持っていらっしゃるダンサーの大貫勇輔さんをお迎えするということで、胸を借りつつ、僕たちの色を出していきたいと思います。クラシックバレエの良さ、大貫さんの良さ、悦子先生の演出を融合して、ファンの皆さんに喜んでいただける公演にできたらいいです。謙虚に臨ませていただく所存でございます!

大きな、きれいな瞳をきらきらさせててらいなく「バレエが大好きです」と語る杉野慧。11月の『ドン・キホーテ』での主演、初のバジル役は大好評のうちに終わり、すでに2019年3月の公演で『カルメン』の主役ドン・ホセを、熊川哲也や宮尾俊太郎らと日替わりで踊ることが決定している。キャラクターも主役も踊れるダンサーとしてますます成長を遂げる杉野の今後が楽しみだ。

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(C)Paravi