日本が誇るバレエダンサー熊川哲也さん率いるKバレエカンパニーのダンサーを中心に、選りすぐりの男性ダンサー5人で結成された「Ballet Gents(バレエジェンツ)」。2014年の発足以来、ディナーショーやオーケストラとのコラボレーション、地方特別公演などを重ねてきた彼らが、2018年12月22日(土)に東京・TBS赤坂ACTシアターにて単独公演『Ballet Gents in TOKYO 2018』を行う。
過去にも公演の中でタンゴやジャズなどバレエとは違う分野にも挑戦してきたが、今回は様々なダンスのジャンルで活躍する大貫勇輔さんをゲストダンサーに、1983年一世風靡セピアの振付でのデビュー以来数々の舞台、コンサート、テレビや映画の振付に活躍している川崎悦子さんをゲストステージディレクターに迎えて、これまでの集大成とも言える舞台に期待が高まる。どんな公演になるのか、座長の宮尾俊太郎と大貫勇輔に対談してもらった。
見る人を圧倒する大貫さん、何でもパワフルに吸収する宮尾さん
――12月の公演の内容を教えてください。
宮尾:今回の公演では、今までのBallet Gents公演で上演したことのある僕が作った作品と川崎悦子さんが作った作品を再演するのですが、一つのテーマをもってそのふたつを融合させようという試みです。しっかりとしたバレエシーンもあり、そこでは大貫さんもバレエに挑戦したり、とても楽しい舞台になると思います。
――大貫さんは、バレエジェンツとの共演は初めてですか?
大貫:ジェンツとの共演は今回が初めてです。メンバーの栗山廉くんとは『ビリー・エリオット』で、座長の宮尾さんとはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』と『クレメンティア』でご一緒しています。
――宮尾さんから見た大貫さんは、どんなダンサーでしょう?
宮尾:大貫くんはすさまじいダンサーです。そもそも踊りのジャンルが広く、どのジャンルにおいても高いスキル、高いレベルで踊れているし、それらを全て融合した、今は彼だけの踊りになっていると思います。本当に見た人を圧倒できる踊りであり、ダンサーです。
大貫:ジャズダンスとモダンバレエを7歳の時から始めて、中・高でストリートダンス。17歳の時に森山開次さんからコンテンポラリーダンスを初めて習って、19歳の時に辻本知彦さんに習い、同じ19歳の時のタイミングでクラシックバレエも習い始めて、26か27の時にタップダンスを始めました。
うちの家系は体操一家なんです。祖父は東京オリンピックの予選に出ていたり、母は国体の団体で優勝したりしています。その名残で実家のスタジオに体操場があって、そこで趣味のレベルで体操をやっていたので、アクロバットもできる感じです。言葉にならないものを表現するのが踊りだから、それが僕の性に合ったんでしょうね。
ダンスのカンパニーに短期間だけ入ってパフォーマンスをするということは何回かありますが、1ヶ月ぐらいがマックスです。ダンサーの生き方って何種類かあると思うんですが、僕はカンパニーに所属するというのが合わないかもと思って、フリーランスでやろうと。周りには海外へ行かれるダンサーが多くて、海外に行ってから日本に帰ってきて踊るという方もいらっしゃるんですが、そうじゃない形を自分はやりたいなと思って。海外に行かないで、日本にいて海外へ呼ばれるダンサーになろうと思って、今の形になりました。
僕の今の夢はいつの日か全幕バレエに出ることなんです。全幕でなくてもいいんですけど、バレエの古典『ドン・キホーテ』とか、『海賊』とかを踊るのが僕の今の目標であり、夢です。
宮尾:その片鱗を12月の舞台では味わってもらおうかと思って。
大貫:楽しみです!
――大貫さんから見た宮尾さんは?
いろんなバレエダンサーの方とご一緒させていただいていますが、宮尾さんのように本当に華のあるバレエダンサーって僕は見たことがない。出て来ただけで絶対に目が行ってしまうと言うか。それはもちろんスタイルの良さ、ルックスの良さというのもあるけれど、天性のオーラがありますよね。まさに華。それを崩さず、演じるようにステップを踏まれているから、そこがまさに、類い稀なるバレエダンサー・宮尾俊太郎の真髄なんだと思います。
そして、宮尾さんは興味の幅が広い。身体のことにしても健康のことにしてもダンスのことにしても、たくさん情報を持っていらっしゃるので教えてもらえるし、僕自身のものも、その他からも、常に吸収しようという意識を感じます。そのパワーがすごいなといつも思っています。
宮尾:ダイソン宮尾と呼んでください(笑)。
ジェンツは勢いのある若手、大貫さん『ビリー・エリオット』でのWキャストを振り返る
――宮尾さんにとって、Kバレエとバレエジェンツの違いは?
宮尾:Kバレエカンパニーは育ってきた場所であり、自分を厳しくする場所、修行の場であり、舞台も含めてとてもかけがえのない経験をたくさんしてきた場所です。アーティストとして、バレエの深い意味での時間を過ごせる場所。ジェンツは、実は僕の役割としてはもう一歩先に行っているところで、演出・振付など全体を見ないといけないし、ダンサーのリハーサルも見なければいけないので、ダンサーとして、だけではない視点を勉強する場所です。
僕が興味を持って出会ってきた良さを、他のダンサーにも知ってもらいたいですし、刺激を受けて欲しいという思いもあります。お客様にも新しくて面白いものを見せられるんじゃないかな、といろいろな試みができる。それは、Kバレエという母体があってこそできた場所だと思います。
――お二人から見た、ジェンツのメンバーについて教えていただけますか?
宮尾:ジェンツのメンバーを選ぶ時は熊川ディレクターと一緒に相談したのですが、バレエ団は団員が80人ぐらいいるので、なかなか1人ずつにスポットは当てられないけれど、その中でも特に勢いのある若手にスポットが当たる形にして盛り上げようと選んだ4人です。
まずキャラクター、個性が被っていないことが条件でした。杉野慧は日本人離れした表現力を持ったダンサー。益子倭は小回りが利く、キレと回転、ジャンプのテクニックがすごい。篠宮佑一もテクニックを持ったダンサーですが、独特のシュールな笑いがとれる。栗山廉は端正な顔立ちと恵まれたボディを持っていて、正統派な王子様っぽさが魅力だと思います。
大貫:栗山くんは(身体の)ラインがめちゃくちゃきれいです。僕は、ミュージカル『ビリー・エリオット』のオールダー・ビリー役を、Wキャストとして一緒に演じたのですが、プレッシャーでしたね(笑)。やはり僕はバレエダンサーではないので、あのキュッとした脚のラインというのはそう簡単に出るものではない。本当にキレイだな、僕はどうしようかなと考えながら一緒にリハーサルしていました。僕の場合はお芝居などもやってきたので、目線だったり、手の使い方だったり、子供に対しての雰囲気作りや関係性だったり、そういった表現力を意識して作品に挑みました。
宮尾:素晴らしかったですよ。オールダー・ビリーの役は「あの子どもが、成長してああなるんだ!」と思った時に、その成長したダンサーが素敵だと問答無用で感動できる。そこに説得力がないと、ただの幻想的できれいなシーンで終わってしまうんですが、オールダー・ビリーが素敵だともう一歩先に行けるんだと思います。
大貫:あのシーン、実はめちゃくちゃ緊張したんですよ。舞台は傾斜しているし、スモークが効いていて、照明も暗い。椅子を自分の手で回さなければならなかったり、子どものワイヤーを装着したりと意識することがあり過ぎて、自分の表現なんて8番目ぐらいの意識でした(笑)。だから、回数を重ねても慣れない。毎回いつも緊張していました。素晴らしい作品、素晴らしい役だからこそ、ですね。
宮尾さん、大貫さんから見た、それぞれの熊川哲也像
――熊川哲也さんは、どんな方ですか?
宮尾:熊川ディレクターは師匠でもあり、芸術監督でもあり、バレエの素晴らしさを教えてくれた人です。僕がバレエを始めたのは熊川ディレクターがきっかけだったので、その存在の大きさは計り知れないものがあります。僕が主役をやり始めた頃は、毎日今日ここで命がつきるんじゃないかと思ってスタジオに行っていました(笑)。身体も痛いし、もう行きたくないと思うぐらい、厳しかった。
でもそれは熊川ディレクターがダンサーとして主役をやりながら、大きな規模で演出もして、しかも連続10公演以上も主演を務めたりする姿を袖から見ていたから、辛かったけれど、皆そのパッションにひっぱられていたんです。自分の思い描く最高のものに対してのこだわりが強い方なので、常に妥協がないんですよね。
大貫:僕は、熊川さんのダンスを実際に観た時に、「ウソでしょ?!」というぐらい、想像の4倍も5倍すごいと打ちのめされました。スピードも高さも、絶対に真似できない。本当に生きる伝説、レジェンドだと思います。
お二人の今後と、12月の公演について
――12月の公演に向けた展望や、お二人の今後について聞かせていただけますか?
大貫:12月のジェンツとの公演については、プロフェッショナルな人たちと一緒にできる機会がもらえたことに、心から感謝しています。皆さんと舞台上でパフォーマンスできるのがとても嬉しいし、その中で、また新しい大貫勇輔をお見せできたらいいなと思っています。
今年はミュージカルで歌ったり、ドラマに出演させて頂いたりしました。その中で、強く感じたのは、僕の基本はやはり"ダンサー"なんだということでした。改めて、今まで誰も見たことのない表現者になるというのが、僕の夢であり目標です。日々、限られた時間の中で、ちゃんと積み重ねていくものがないと実現できません。それを肝に銘じて、体現していけるようにしたいと思います。
宮尾:僕は、バレエダンサーとして良い時期に差し掛かってきました。幸せなことに、いろんなお仕事をいただいているので、様々な角度から多くのものを吸収して、人間としても、アーティストとしても、裾野を広げ続けていけたらと思います。
今回の舞台は、僕の大好きな人たちと一緒にできるお仕事です。まず、実現できたことが嬉しいので、今後、スタジオでどれだけ良い時間を過ごし、伝説の一日をどう創り上げられるか、模索していこうと思います。乞うご期待です!
どちらも180cmを超える長身で、いずれ劣らぬイケメンのお二人だが、今にも白馬の元へエスコートしてくれそうな宮尾さんと、すぐにも片脚を軽々と宙に蹴り上げて踊りだしそうな大貫さん。タイプが全然違うことが、更にお互いの好感、興味、リスペクトを深めているのだと感じられた。12月の公演が本当に楽しみだ。
『Ballet Gents in TOKYO 2018』は、2018年12月22日(土)に東京・TBS赤坂ACTシアターにて開催される。
(C)Paravi
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