20181126_tsukaharaayukocolumn_04.jpg

【3】『リバース』(TBS系/2017年4月~6月)

湊かなえ×塚原あゆ子三部作の最後を飾るのが、この『リバース』だ。本作も、前2作同様、あるひとつの大きな事件の真相を追いつつ、絡み合う謎と謎を楽しむヒューマンミステリー。

その事件とは、10年前に雪山で起きた車の転落事故。崖から落ちた車に乗っていたのは、大学生の広沢由樹(小池徹平)。広沢は、大学のゼミ仲間と卒業旅行に来ていた。しかし、燃え上がる車の中から広沢の姿は見つからない。死体が発見されたのは、それから半年後のこと。いくつかの疑問を残しつつも、最終的には事故として処理された広沢の死だが、その死には共に卒業旅行に来ていた深瀬和久(藤原竜也)、浅見康介(玉森裕太)、村井隆明(三浦貴大)、そして谷原康生(市原隼人)の4人が深く関わっていた。
それから10年後、大人になった深瀬らのもとに「人殺し」と書かれた告発文が届く。10年の時を超え、5人は封印していたはずの過去と再び向き合う―。

本作の面白さは、回を重ねるごとに二転三転するストーリーだ。広沢を死に追いやったのは誰なのか。4人の間で疑念が交錯する。ある者が怪しいと思ったら、また別の者が怪しく見える。次々と浮上する新事実に振り回されながら真相を突きつめていく推理ゲーム的な楽しさがある。

だが、それだけなら他のミステリーも同様だ。この『リバース』が他と一線を画す最大のポイントは、その"優しさ"にある。浅見も、村井も、谷原も、それぞれ他人には簡単に言えない秘密や問題を抱えている。それが疑惑の矛先となるのだが、真実が明らかになったときに見えてくるのは、決して人の傲慢さや強欲さといったネガティブなものではなく、弱さゆえの人間味であったり、人を傷つけることは避けられないけれど、それでも誠実に生きていきたいと願う優しさだったりする。"イヤミス"ならぬ"ヤサミス(観た後に優しい気分になるミステリー)"と言えるのが、この『リバース』の魅力だ。

主人公・深瀬は終始オドオドとした頼りない性格で、クラスカーストで言えば俄然下位。残る浅見や村井、そして谷原は上位グループで、もともと決して仲が良いというわけではなかった。深瀬は明らかにバカにされているし、深瀬もまた派手な浅見たちを自分とは別の世界に生きている人として見ている感がある。それが、広沢の死の真相を追ううちに、お互いに理解を深め合い、本物の友情を築いていく。本作がヒューマンミステリーと謳われる所以は、そんな人と人との絆に重きを置いて描かれているところにある。

演出的な面白さで言えば、冒頭に配置された告白のシーン。『夜行観覧車』でも同様の仕掛けが施されているが、この告白シーンがあることで、それぞれの人物の言動が一層怪しく見えてくる。また、今回紹介した3作品はどれも現在と過去を行き来しながら物語が進んでいくが、その時間経過を『夜行観覧車』では観覧車の建設風景で、『Nのために』では積み重なる写真のイメージで表現。それを本作ではタイトルそのままに時間を逆戻りさせることで表した。

また、風景を巧みに使った描写も塚原あゆ子らしい。原作では、深瀬たちは夏のバーベキュー旅行の最中に広沢を死なせてしまう。だが、ドラマでは敢えてそれを雪山に設定変更した。放送時期は春なので、特段季節を合わせたわけでもない。では、なぜ雪山にしたのか。個人的には、そこに塚原あゆ子の雪に対するこだわりを感じている。

例えば、前述の『夜行観覧車』では、第1話の彩花と慎司の合格発表のシーンで雪が降っていた。しんと凍えた空気が伝わるような青白い映像の中、明暗が分かれた遠藤家と高橋家。一切言葉を交わさないこのシーンで、両家の間に吹く雪が、現実の残酷さと儚さを際立てていた。また、『アンナチュラル』の第5話では、殺された恋人の復讐を果たすべく、鈴木巧(泉澤祐希)が犯人を刺すシーンで雪がちらついていた。物憂げに空を見る中堂系(井浦新)のカットも含め、あの雪がなければ、あれほど美しい場面にはならなかっただろう。

塚原あゆ子にとって、雪は悲劇や儚さを表すモチーフなのかもしれない。実際、この『リバース』を思い出すとき、吹雪の中に消えていく広沢の背中がくっきりと瞼に浮かぶ。それは、あの降り積もる雪がたった22歳で生涯を終えることになった広沢の人生の儚さを、そして起きてしまったことは決して取り返せないのだという不可逆性を表していたからだろう。

『リバース』には「反転」「裏」「逆」「再生」など様々な意味が込められている。時間を逆戻りし、知らなかった裏の顔が明らかになることで目に見えるものが反転していくさまは、まさに「リバース」だが、本作が『リバース』と名付けられた最大の理由は、きっと「再生」という言葉に集約されている。大きな罪を背負った4人が、どうやってもう一度自分の人生を生き直すか。『リバース』は止まっていた時計の針を動かし、前に進むための「再生」のドラマだ。

以上の3作品はどれもミステリーを軸にしているが、そこで培われた視聴者を釘付けにする緊迫感溢れる演出手法は、『中学聖日記』でも確かに活かされているように思う。また、『Nのために』の希美と成瀬のままならぬ恋も、どこか聖(有村架純)と黒岩(岡田健史)を連想させる。それぞれ持ち味の異なる作品群だが、こうして塚原あゆ子というフィルターを通して観てみると、また違った色合いが浮かび上がってくる。ぜひあわせて楽しんでほしい。

「中学聖日記」(C)TBS (C)かわかみじゅんこ/祥伝社
「夜行観覧車」(C)TBS
「Nのために」(C)TBS
「リバース」(C)TBS