20181126_tsukaharaayukocolumn_03.jpg

【2】『Nのために』(TBS系/2014年10月~12月)

『夜行観覧車』に続く湊かなえシリーズとして制作されたのが、この『Nのために』だ。本作も『夜行観覧車』と同様に、ある殺人事件から物語がスタートする。

殺されたのは、高級マンションの48階に住むエリート商社マン・野口貴弘(徳井義実)とその妻・奈央子(小西真奈美)。そして、事件現場に居合わせたのは、杉下希美(榮倉奈々)、成瀬慎司(窪田正孝)、安藤望(賀来賢人)、西崎真人(小出恵介)の4人。西崎は奈央子と不倫関係にあり、貴弘が奈央子を刺したため、貴弘を撲殺したと自供。懲役10年の実刑判決を受けた。

だが真実は、別にある。そう睨んだ警察官の高野茂(三浦友和)は、服役を終えた西崎と接触。独自に真相を探りはじめる。果たしてあの殺害現場で何があったのか。そこには、全員が"N"のイニシャルを持つ6人の数奇な運命が隠されていた―。

本作の特色は、湊かなえ作品ではあるが、いわゆる「イヤミス」ではなく、「純愛ミステリー」であること。その純愛の主軸を担うのが、希美と成瀬のふたりだ。瀬戸内海に浮かぶ人口5000人程度の小さな青景島で生まれ育った希美と成瀬。だが、ふたりの間には、単なる幼なじみ以上の結びつきがあった。愛するということは、罪を分かち合うこと。思わず手が汗ばむような、ミステリーらしい緊張感も魅力的だが、僕がこの『Nのために』を思い出すときに浮かんでくるのは、希美と成瀬が一緒に過ごした青景島での日々の方だ。

裕福な家庭に生まれ育った希美だったが、突然、父・晋(光石研)が愛人・由妃(柴本幸)を連れ込んできたことから、幸せな家族の日々は呆気なく終わりを告げる。家を追い出され、白亜の豪邸から今にも潰れそうなボロ家暮らしに転落。お嬢様育ちの母・早苗(山本未來)は晋に捨てられたショックから心を病み、何とか夫の愛を取り戻そうと、なけなしの養育費をすべて化粧品やアクセサリーにつぎ込む始末。明日食べるものにさえ困る日々の中で、やがて希美はこの狭い島を出て、自分の力で上の世界に行きたいと野望を抱くようになる。

一方、成瀬も家業の料亭が廃業となり、母・瑞穂(美保純)は家出。料理人としてのプライドを傷つけられた父・周平(モロ師岡)は茫然自失の状態に。共にどん底に叩き落とされた希美と成瀬は、お互いの中に光を見つける。

二人だけの暗号代わりに使われたシャープペンシルのノック音。授業中こっそりと交わした詰め将棋の切り抜き。自転車の二人乗り。明け方のバルコニー。裏に「ガンバレ」と書いたフェリーの乗車券。今にも破裂しそうな日々の中で、お互いの存在だけが救いだった。たったひとつの希望だった。その絆が、やがて不穏な事件を招くことを、視聴者はあらかじめ知らされているからこそ、観ていて余計に苦しくなる。

今回の3作品の中で、塚原あゆ子の実験的な遊び心が最も楽しめるのも、この『Nのために』だと思う。現代のシーンは彩度を下げ、コントラストを強めることで、陰影の濃い仕上がりに。一方で、青景島のシーンは緑と空の色彩が映える透明度の高い映像になっており、実に対比が効いている。また、重要な場面でまばたきをするたびにシャッター音が刻まれるのもシンボリックで印象深い。野口夫妻の殺害現場でつながれたふたりの手が、別のシーンでシンクロするなど、思わず肌が粟立つ仕掛けも満載。塚原あゆ子のクリエイターとしてのチャレンジ精神が隅々に渡って行き届いている。

孤独な魂と魂が、共に寄り添い合うことで、未来を夢見た。浅薄な恋愛モノではなく、深遠なる魂の部分で結ばれた純愛物語として高い完成度を誇る本作。ぜひミステリーは苦手という人にも観てほしい1本だ。