『中学聖日記』(TBS系)が面白い。新米教師と中学生による禁じられた恋を、硝子細工のような繊細さで描き、視聴者の心を掴んでいる。メイン監督を務めるのは、『アンナチュラル』(TBS系)の塚原あゆ子。『コーヒーが冷めないうちに』で映画初監督を務めた気鋭のクリエイターが、強みの映像美とスリリングな編集テクニックを駆使して、ピュアで危うい恋の行方に透明感と緊張感をもたらしている。そこで今回は、塚原あゆ子がメイン監督を務めた過去作品の中から、今観たい3本をピックアップ。観る者を惹きつけてやまない塚原ワールドの魅力を解剖する。

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【1】『夜行観覧車』(TBS系/2013年1月~3月)

『告白』で日本中に衝撃を与えた"イヤミス(読んだ後に嫌な気分になるミステリー)"の女王・湊かなえの同名小説をテレビドラマ化。本作は、平凡な中流家庭が、分不相応の高級住宅街・ひばりヶ丘に引っ越してきたことから始まるサスペンスだ。

物語は、主人公・遠藤真弓(鈴木京香)の向かいに暮らす高橋家の夫・弘幸(田中哲司)が何者かに襲われ、死亡。狂ったように泣きわめく妻・淳子(石田ゆり子)の叫び声と共に幕が上がる。いったい誰が弘幸を殺したのか。高級住宅街で突然起きた殺人事件の謎を核に、複雑に入り組んだ人間模様を、遠藤家の引っ越しから事件発生までの4年間をかけて追いかけていく。

事件の謎を追うミステリー部分はもちろんのこと、本作の面白さは何と言っても渦巻く"秘密"と"悪意"の描写である。"イヤミス"の称号にふさわしく、胸がざわめく登場人物や展開の嵐。まず先制パンチを繰り出すのが、ひばりヶ丘の女ボス・小島さと子(夏木マリ)だ。引っ越しの挨拶の順番からゴミ出しのマナー、結婚パーティーのドレスコードなど、上流階級ならではのご近所付き合いに翻弄される庶民の真弓。品のいい笑みを顔に貼り付けながら明らかに真弓を見下しているさと子の目にイライラしつつも、なぜか同時にゾクゾクするような高揚感が生まれていることに気づかされる。

だが、『夜行観覧車』の孕む"悪意"は、まだ序章。真弓の娘・彩花(杉咲花)は私立中学の受験に失敗。公立中学に通うこととなる。しかし、女子同士の嫉妬からイジメの標的となり、蝕まれた心は暴走。やがて家庭内暴力を繰り返すように。
一方、理想的な家庭に見えた高橋家にも不和が見え隠れする。医師の弘幸は、一見すると温和で寛容だ。しかし、仮面の下に別の顔を隠し持ち、兄に比べて出来の悪い次男の慎司(中川大志)は、多大なストレスとプレッシャーで追いつめられていく。

「どんな家庭にも秘密がある」――これは、第1話のラストで、事件の起きた高橋家を見下ろしながら、さと子が呟いた台詞だ。見かけだけは美しい「家」という小さな箱の中に閉じ込めた"秘密"は、行き場を失ったままどんどん膨張し、やがて箱の中だけではおさめきれなくなって、そこかしこに歪みを生む。吹き荒れる暴力。孤独と閉塞感。平和に見えた家族の崩壊に、胸が悪くなるような陰鬱さを覚えつつ、快感を抑えきれない。人の不幸は、いつだって蜜の味なのだ。

だが、対岸の火事として見ていたものが、突如自分事として目の前に立ち現れる瞬間がある。それが第7回(監督は棚澤孝義)のクライマックス。彩花の家庭内暴力は日に日にエスカレートし、真弓はさと子から顔を合わせるたびに嫌味を浴びせられていた。その夜も、逆上した彩花が家じゅうのものを投げ散らかして暴れていた。幸せな家庭を夢見て、必死に良妻賢母を演じてきたつもりなのに、何ひとつとして現実は思い通りにいかない。心が壊れた真弓は、彩花に馬乗りになり、口に唐揚げを押し込む。思わずテレビの前で凍りついてしまう狂気のシーンだ。

だが、そんな凄惨な場面を飾るBGMは、まるで子守唄のように穏やかで清らか。真弓の顔は鬼のようだが、手にしている唐揚げは日常の象徴で、その完璧なまでのアンバランスさに、視聴者はもうワイドショーを見るような感覚で笑っていられなくなる。

壊れ果ててしまった母子の姿。だが、すべてはちょっとした幸せの掛け違いだった。自分の家は、果たしてこの家とどれくらいの違いがあるのだろうか。もしかしたら、あそこで娘の口に唐揚げを押し込んでいるのは、自分なのかもしれない。そう気づいた瞬間、震えが止まらなくなる。

全10回を貫く1本の大きな事件として弘幸の殺害はあるものの、この『夜行観覧車』が提示するものは、幸せというものがいかに壊れやすいものなのかということ。そして、幸せそうに見える家族の暮らしも、結局は、薄氷の上に建てた小さなお城のようなものだということだ。それでも人はそのお城を守っていかなければいけない。もし壊れたら、また一から建て直すしかないのだ。なぜならそれが、家族と生きるということだから。