女の人って大変だなあ、としみじみ思う。そりゃあもちろん男の人だって生きてりゃ大変なことはいっぱいあるけれど、男性と女性で大変さの何が違うかと言えば、きっと「選択」の差だろう。少なくとも、今のこの日本社会において、女性は男性以上に「選択」することによって、その後の人生ががらりと変わってしまう。

ドラマ『tourist ツーリスト』は、そんな「選択」の前で揺れている女性たちの物語だった。

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第1話「バンコク篇」のヒロイン・野上さつき(水川あさみ)も、第2話「台湾・台北篇」のヒロイン・津ノ森ホノカ(池田エライザ)も、第3話「ホーチミン篇」のヒロイン・立花カオル(尾野真千子)もみんなそれぞれ「選択」を突きつけられている。

さつきは、結婚・出産というタイミングをズルズルと逃していることも知りつつ、不毛な不倫地獄から足が洗えないまま、好きだった仕事も停滞気味。何だかすっかり人生に疲れ果てて、「死」を選択しようとバンコクを訪れた。

ホノカは、めでたく結婚が決まったものの、相手はこれまでの恋愛遍歴では考えられないような平凡な男性。これでようやく浮き沈みの多い毎日も終わりだと晴れやかな顔をしながらも、どこか後ろ髪を引かれている。

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そしてカオルは、夫と離婚調停中。これからの長い人生を、子どもを抱えてシングルマザーとして生きていかなければならない。手に入れたはずの幸福で穏やかな日々を手放し、自ら舵を切るその踏ん切りを求めているようにも見えた。

きっと彼女たちと同じように、多くの女性たちがそれぞれの岐路を前に揺れ惑っていることだろう。確かに、変わることは怖い。だって、それは昨日までの自分を手放すことになるから。今の自分に100%納得いっているわけではない。だからと言って今あるものを失ってまで新しい何かがほしいのかと言われたらわからない。何を選んだにしても、何を選ばなかったにしても、それで本当に良かったのかどうか、延々と答え合わせをさせられているような。そういう閉塞感と、女性たちは戦っている。

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女性たちは、ひそやかな革命を繰り返すことで、美しくなる

この『tourist ツーリスト』は、そんな三者三様の不安や重圧の中にいるヒロインたちが、異国の地という非日常の空間で、束の間、息苦しさから解放され、のびのびと両手を伸ばし、軽やかに呼吸する、その姿が眩しくおさめられていた。

水掛祭りでびしょ濡れになりながら笑っているさつきは、眉間に皺を寄せてギャンブルをしている負けん気まる出しの表情よりずっとイキイキしていたし、ビルの屋上で台北の夜景をバックに笑うホノカは、地球上にいる男性がみんな恋をしてしまいそうになるぐらい儚くて蠱惑的だった。そして、ずっと涙を流すことさえできなかったカオルが、ホーチミンの雑踏でグシャグシャになりながら泣き声をあげる姿は、痛々しくて、でも、とてもナチュラルだった。

こうしたある種の心許なささえ孕んだ刹那的な美しさは、男性にはあまり見られない、女性ならではの特別なものだ。そしてその美しさの秘密は、きっと女性たちが「選択」をし続けなければならない生き物だからだ、とふと思った。

選択をすれば、何かが変わる。常に何かを選択し続けなければいけない女性の人生は、つまり常に変わり続ける人生とも言える。だから、一瞬一瞬が、とても眩しい。細胞が入れ替わり続けるように、女性たちは絶えず変身を繰り返していく。昨日はあんなに苦しそうな顔をしていた彼女が、明くる朝には凜とした表情で前を見据えている。しなやかで、タフで、めまぐるしい。

目一杯のストレスを抱えながら、また男社会に立ち向かっていくことを決めたさつきも。幸せになるために諦めることを選んだホノカも。甘やかな想い出を胸にしまい、ひとつのチャプターに区切りをつけたカオルも。みんな、旅を経て変身を遂げた。それは、傍目には気づかないささやかな変身かもしれない。だけど、そうやって彼女たちはひそやかな革命を何度も繰り返して、人生を乗り越えていくのだ。

女性って、大変だ。でもやっぱり、女性って、美しい。突然目の前に現われて、そして消えていった3人のヒロインたちを前に、感嘆するように、小さく息を吐いた。

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変わり続ける女性たち。そして、変われないままの男性たち

だが、そんな「選択」の前で揺れている女性たちの物語は、視点を変えることで、また別の文脈が浮かび上がってくる。それが、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて独占配信の『tourist ツーリスト』天久真バージョンだ。

3人のヒロインと、それぞれの地で出会い、共に過ごす謎の男性・天久真(三浦春馬)。本編だけを見ると、天久真は女性に救済を与える"都合のいい存在"に映るかもしれない。けれど、天久真バージョンを見ると、もしかして一番救済を欲していたのは、天久真自身なのかもしれないと思った。

基本的には、本編の映像を再編集した上で、合間に天久真のモノローグを乗せるかたちで展開されるのだけれど、中でも本編とはっきりと違う演出が施された場面があった。それが、第1話「バンコク篇」のラスト。空港で真を抱きしめたさつきが、耳元で呟くシーンだ。本編ではオフとなっていたさつきの言葉が、天久真バージョンでははっきりと聞き取れるようになっている。

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ここに、天久真の物語がある気がした。母子家庭で育ち、母親のためにいい子を演じ続けてきた真。いい大学に入り、いい会社に就職し、いい子のレールを踏み外すことなく突き進んできたはずが、突然会社を解雇されたことによって、人生観そのものが大否定されてしまう。自分の軸となるべきものを失い、今までの人生の答え合わせをするために、天久真もまた敢えていい子の殻を破り、旅を始めたわけだけれど、結局真が自分の存在意義を認識できるのは、誰かのため、だけなのだ。

それは、第3話「ホーチミン篇」のモノローグでもはっきりと語られている。ナイトクラブで泥酔状態のカオルに声をかける真。どう考えても面倒臭そうな相手だ。それでも真が放っておけなかったのは「どこか寂しそうだった」から。バンコクでさつきから「あなたに会えて良かった」と言われることで救済を覚えた真は、旅先で出会う女性たちと関わることで、自分の中にぽっかりとあいた空洞を埋めようとする。それは、母親のためにいい子を演じていた自分と何ら変わらない。

けれど、結局、泣きじゃくるカオルを「俺はただ彼女を抱きしめてあげることしかできなかった」と真は語る。女性たちは、ひとりで勝手に立ち直り、ひとりで勝手にたくましくなっていく。むしろ第2話「台北篇」では間違って赤い封筒を拾い、逃げ続ける真に対し、ホノカが自分から頭を下げに行き、決着をつける。弱くてズルいのは、真の方だ。

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そして、別れの後も、ホノカはもう真のことを忘れて、すぐに婚約者に電話をかけている。第1話「バンコク篇」でも、旅の目的について「話聞きたい?」と持ちかける真に、さつきは「いい。だって、もう会うことないし」と笑って話を打ち切る。もう彼女たちの人生に、真は必要ないのだ。誰かのために自分を演じる真は、結局誰の何にもなれず、救済を与える役割のはずが、誰かも救済をもらえず、変われないままだ。

たった一日で鮮やかに変わっていく女性たちとは裏腹に、真は何も自分を変えられないまま。それは真に限ったことではない。変化に柔軟な女性とは対照的に、男性は何だかんだと保守的で頑固だ。そんな男の弱さや小ささを浮き彫りにした物語でもあった。

どの視点で見るかで、きっと見え方も感じ方も違うだろう。3局横断、メガホンも3話それぞれ別の監督がとるという実験的な試みがなされた『tourist ツーリスト』は、切り取り方によってまったく味わいが異なるドラマの楽しみ方を提示してくれている。