ヨーロッパで生まれた「人狼ゲーム」を13名の役者たちが即興劇で行うライブ・エンターテインメント『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』(人狼TLPT)。プラスパラビでは、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信中の本シリーズの生みの親・桜庭未那さんにインタビューを行い、制作の裏側を聞いた。後編では、桜庭さんと「人狼ゲーム」の出会いや『人狼TLPT』の成り立ちから今後の展望、動画配信ならではの楽しみ方などを語ってもらった。

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――「人狼ゲーム」を舞台にしよう、と思ったきっかけについて教えていただけますか?

私は、もともとゲームが大好きでして。コンピューターゲーム、ゲームセンターのゲーム、ボードゲームやカードゲームと、あらゆるゲームをプレイしてきたんです。「人狼ゲーム」は、インターネットがまだ普及していないパソコン通信の時代に、オンラインでやっていました。当時は、昼と夜の繰り返しを、実際の時間と同じく何日もかけてやっていたんですよ(笑)。

ある時、友達と集まった時に「人狼ゲーム」を実際にやってみようという話になり、初めて対面でやってみたんです。オンラインでのプレイももちろん面白かったのですが、対面でやってみて、さらに人狼の面白さに気づいたんですね。それから、友達と会うたびに人狼ゲームをしていたんですが、ある時、処刑する人物を決める投票の際に、私がふざけて「死んでいい人間なんてこの村にはいないの!」と演技をしてみせたら、場がすごく盛り上がったんです。一緒にやっていた仲間も、話の流れに姉妹の設定を盛り込んできたり、処刑される時に悲鳴をあげたりしだして。

それを見て「これをプロの役者さんが、本気の演技でやったらすごく面白いんじゃないか」と思ったのが『人狼TLPT』を始めるきっかけでした。私自身、昔、役者になりたいと思っていたこともあって、演劇が身近にあったんですね。だから、発想が自然と舞台に結びついたんだと思います。

――実際に、どのように舞台の企画として実現に至ったのでしょう?

当時、私が務めていた映像のキャスティングを行う会社が、150人規模の会場でやる企画を考えていたんです。そこへ、思いついた演劇として行う対面の「人狼ゲーム」の企画を持っていったんですが、ルールも難しいし、当時の流行とは正反対をいく路線だと、会社からはOKがもらえませんでした。

でも、私の中では「今やらないと!」という強い思いがあって。そこで、思い切って個人として、自分の貯金で1回目の公演をやることにしたんです。それが、2012年10月でした。初日には30人程度しか入らなかったのですが、4日後の千秋楽には会場に入りきれないぐらいお客さんが来てくれました。テレビ局も取材に来てくれたりしたんですよ。

その結果、勤めていた会社からも「面白さが分かったからやろう」と声をかけていただいて、2ヶ月に1回というペースで、公演を2年ほど続けてきました。ありがたいことに、いつも満席になっていましたし、2回目の公演を行った時期からはTV局さんからTVでもやりたいというご相談を受けてもいました。テレビ番組が作られたり、今ゲーム自体が広く知られ、ブームになっているのも、『人狼TLPT』がきっかけのひとつだと、自負しています。

――出演されているキャストの皆さんは、凄腕の方ばかりですが、どのように選んでいらっしゃるのですか?

私が1対1で面談をさせていただいて選んでいます。何で選んでいるかというと、私の眼力でしかないのですが・・・(笑)。その人を舞台上で見たいかどうか、応援出来るかどうかが、ポイントですね。ですから、例え弁が立たなくてしどろもどろでも、この人に「生き残って欲しい」と思える魅力がある方に出演していただきます。

ルックスや集客力で選んだことは一度もないです。それから、私たちはお客さんを楽しませるためにやるのであって、出演者をかっこよく見せたいわけでも、ワンマンプレイを見せたいわけでもありません。私たちの理念と合わない方は、お断りしていますね。

これは、『人狼TLPT』ファンの方も同じ気持ちではないかと思います。自分と似たところがあると、人は応援しやすいと思いますし、いろんなタイプの人がいるべきだと考えています。役名も私が出演を決めた時点でつけているのですが、公演ごとに変えることはしていません。『人狼TLPT』には「村公演」という基本設定の公演のほかに、「スチームパンク」「魔女」「海賊」といった様々な世界観を持つ公演を行っているのですが、「新選組」などコラボ公演以外は、基本、同じ名前になっています。常連の役者によっては、役名の方が浸透している人もいるかもしれません(笑)。

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――アドリブ劇ですが、稽古はどのように行われるのでしょうか?

そもそも、この作品は私が一人で作っているのではなく、多くの人の力を借りて出来上がっています。「人狼ゲーム」に詳しい児玉健さんを1回目の公演からゲームアドバイザーに迎え、何度も話し合いを重ねて、見て楽しいゲームのやり方を考えて作ってきました。

お稽古では、まずは、児玉さんからルールをしっかりと浸透させるための指導をしていただいています。そのあとに、その公演の設定に合わせた立ち振る舞いの稽古を行い、オープニングの脚本があるパートの稽古をします。それらを個別にやってから、通し稽古を何度か行います。ただ、通し稽古はやりすぎないようにしています。稽古中に名場面が出来上がることもたくさんあるんです。見ているスタッフが号泣してしまうようないい話が出来たりもするんですが、キャストたちは皆、2回同じことをややりたがらないので、稽古でやってしまうと本番で同じ流れは生まれないことも多いんですよね(笑)。

――公演を続けてきて、キャストさんたちの変化は感じますか?

ルーキーの頃は、「勝とう」「生き残ろう」という形で責任を果たそうとしているように感じますが、何度も出演を重ねていくと「常に魅力的なキャラであり続けよう」「物語を大切につくろう」という思いに変わっていくように見えます。例え初日に退場することになっても、お客さんの記憶に残るキャラでいようと、私からも伝えていますし、みんなそれを意識してくれていると思います。

『人狼TLPT』の用語で、「初夜トン」という言葉があるんです。これは、初日の夜にゲームマスターに肩を「トントン」されること。つまり、初日の夜に人狼に襲撃され、それ以降の出番がなくなるという意味なのですが、この「初夜トン」にみんな最初は落ち込むんですよ(笑)。「自分はもういらないの?」って。でも、初日って「人狼にとって脅威となる人間だから襲撃される」という側面もあるんですよね。それに気づくと、「初夜トン」されて一人前みたいな気持ちに変わっていくこともあるようです。役者たちも、いろいろなことを考えながらやっています。

――今年の夏には、世界三大演劇祭の一つ、エディンバラ・フェスティバル・フリンジジ(スコットランド)演劇祭への参加で、海外進出もされましたね。手応えはいかがでしたか?

もともと「人狼ゲーム」はヨーロッパ発祥のものですが、現在のイギリスでの知名度がどれぐらいなのか、『人狼TLPT』のようなステージがすでにあるのか、全然わからない状態で行ったんですよ(笑)。結果的に「人狼ゲーム」の知名度は高かったのですが、それを舞台にしているところはなかったです。小さな劇場で行ったので動員がすごく多かったというわけではないですが、皆さん帰る時には大興奮で、最終的には入れなかったお客さんも出ましたね。

日本と全然違ったのは、お客さんの反応です(笑)。投票するたびに「Oh!」とか「No〜!」とか、大きな反応があるんです。面白いのは、その結果が人狼でも人間でも「Oh!」「No〜!」って同じ反応なんですよ。なので、日本では「幽霊タイム」の役職者オープン時に、お客さんの反応でネタバレしないように工夫しているんですが、海外ではそれを徹底することは難しいし、全然ヒントにならないことも分かりました(笑)。

――公演は英語で行われたんですか?

議論はオールイングリッシュです。キャストは、半分はペラペラ、半分はほとんど話せない状態でした。そのため、片言英語のキャストも多かったのですが、勉強をして行ったので公演としては問題なく成立しました。特に、座長を務めたDOCTOR Jin役(日本の公演ではハイラム役)の澤田拓郎は、まったく英語が出来ない状態でしたが、勉強を重ねて、最終的に英語で舞台挨拶が出来るようになっていました。海外でも面白さが伝わることが分かったので、いつか世界三大演劇祭のすべてに参加できたらいいなと思っています。

――『人狼TLPT』は、もともとニコ生にチャンネルを持ち、今回、パラビでも配信されました。動画配信との相性についてはどうお考えですか?

演劇は敷居が高いというイメージがありますし、「人狼ゲーム」を難しそうと思っている人も多いと思います。でも、それをどちらも簡単にしているのが『人狼TLPT』なので、そういった意味でもたくさんの人に見ていただきたいと思っています。とはいえ、劇場は場所もキャパも限られていますし、『人狼TLPT』の場合は10公演あったらすべて違うお話になるので、なかなか全部を観ることはできません。ですから、自宅で公演を観られるというのは魅力的だと思います。それに、観ていると誰かと話したくなるんですよ。友達と会話しながら見られるのも、動画配信ならではの利点だと思うので、そういう楽しみ方もしてほしいですね。

それから、人狼が分かった状態で観ると、アドリブで生まれる"ドラマ"を楽しめるんですよ。同じ公演を2回、3回観ても違う楽しみ方が生まれるのが『人狼TLPT』の面白さだと思います。興味を持っていただけた方は、ぜひ配信でまず、『人狼TLPT』の世界に触れてみてください。

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パラビでは、『人狼TLPT』より名作選として、「#09:冬霧に冴ゆる村」「#11:春風の薫る村「#26:FLAG」「THE ROOM #01」を配信中。

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