大人から子どもまで、大ブームを巻き起こしている「人狼ゲーム」。ヨーロッパで生まれたこのゲームを、演劇として昇華し、ステージ上で13名の役者たちがアドリブで紡いでいくライブ・エンターテインメント『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』(人狼TLPT)が、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて配信中だ。プラスパラビでは、公演チケットは即日完売となるほどの人気を博す『人狼TLPT』の生みの親・桜庭未那さんにインタビューし、前後編でお届け。前編では、『人狼TLPT』の基本から、立ち上げた経緯からステージの裏話までを語ってもらった。

最初に、『人狼TLPT』の基本の設定を紹介しておこう。
出演者たちがルールに用いるのは人気パーティーゲーム「人狼」。脚本はオープニング以外まったくなく、開演直前に6種類13枚のカードで決まる役割に従い、人間vs人狼の戦いを即興劇で繰り広げる。

ステージに上がった13名は、
・人間(6名)・・・特別な能力は持たない
・予言者(1名)・・・人狼ではない者を一人知っており、毎夜、生存者の中から一人の正体が人狼かどうか判定出来る
・霊媒師(1名)・・・毎夜、直前に処刑された者の正体が人狼だったかどうかを判定できる
・狩人(1名)・・・毎夜、生存者の一人を選び、人狼の襲撃から守ることが出来る
・狂陣(1名)・・・人狼ではないが、嘘をついて人狼に味方できる
・人狼(3名)・・・嘘をつき自分の正体を偽り毎夜誰か一人を襲撃する
いずれかの役割を与えられる。

自分以外の役割は原則として分からないものの、自分の役割をプレイ中にカミングアウト(CO)することは可能。
ただし、人狼はお互いに誰が人狼かを知っている。
人狼は嘘をつくが、人間は"とある例外"以外では嘘をつけない。

以上の設定を踏まえた上で、『人狼TLPT』の解説を桜庭さんに聞いていこう。

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――まずは、初めて観る方にも分かるよう「人狼TLPT」の解説をお願いいたします。

「人狼ゲーム」というパーティーゲームは、そもそもはヨーロッパ発祥のゲームで、ローカルルールがたくさんあります。参加人数もまちまちですし、その時々によって人狼の数も変わってきます。ここでは、『人狼TLPT』で使用しているルールをご説明させていただきますね。

ゲームは、昼と夜を繰り返す流れで進行していきます。1日目の昼は「誰が人狼なのか」を生存者が全員で話し合い、最終的に多数決で一番票を集めた人を処刑します。夜の時間には、人狼が誰か一人を襲撃し、能力者が力を使い、それぞれ情報を得ていきます。2日目の昼は、前夜、人狼に襲われた人が狩人によって守られなかった場合には、生存者がさらに一人減った状態でスタートします。こうして、だんだんと生存者が減っていきます。勝敗は、生存者の半分以上が人狼になった場合には人狼・狂陣側が勝利。人狼が全滅したら人間(予言者・霊媒師・狩人を含む)側の勝利となります。

また、観客はこのステージを見ながら「誰が人狼なのか」「誰が能力者なのか」を予想しながら参加することができます。回答用紙は3日目の夜に回収され、最後、正解した方には景品がプレゼントされます。この基本ルールに則り、アドリブで物語を作っていくのが『人狼TLPT』です。

――夜の時間帯に、退場してしまったキャストが登壇し、トークをする「幽霊タイム」も『人狼TLPT』の特徴ですね。


通常、「人狼ゲーム」において対面人狼(人狼ゲームを顔を合わせて行うこと)を行う場合には、ゲームに参加しない「ゲームマスター」という人物を置き、進行をします。『人狼TLPT』の夜の舞台裏でも、この対面人狼と同じことが行われています。

この間の時間を、エンターテインメントとして見せる時間が「幽霊タイム」ですね。2日目の夜までは、キャストたちが自分の役割を明かすようにしているので、観客の皆さんにとっては人狼や役職者を当てるヒントを得られるようにもしています。

このほか、役割を一切明かさない「フルクローズステージ」や、逆にゲームマスターが人狼や役職者の行動を確認するすべてを見せる「オープンステージ」というタイプの公演も行ったことがあります。

いろんな試みをした中で、スタンダードに取り入れているのは、一番人気があり、かつ推理に集中できるシステムですね。

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――もともとのゲームは人数がまちまちとのことでしたが、13名にしたのはどういった理由なのでしょうか?

『人狼TLPT』のスタート当初は、12名でやっていたんですよ。しかし、やっていくうちに、バランス調整が必要だなと感じて。100回やっても200回やっても必勝法が生まれないようなバランスを考えていったところ、最終的に13名になりました。13名でやると、どんな流れになっても楽しめるんです。いろんなシミュレーションを繰り返して、このシステムを作るまでには、2年ぐらいかかりました。

――人狼側と人間側、現在までの公演で、勝敗はどのような割合なのですか?

トータルで見ると半々ぐらいです。演目によっては、「人狼勝利の方が多かった」「人間勝利の方が多かった」というようなことはありますが、それはゲームのシステムというよりも、キャストたちの間で行われるアドリブの「流行り」が関係しているんだと思います。例えば、初日に予言者がカミングアウトしないパターンが流行ったり、人狼が「俺も予言者」と被せてくるパターンが流行ったり。「旬」のようなものがあるので、そればっかりは私たちにはコントロールできないんです(笑)。

先ほども言いましたが、必勝法はないので、勝率がどちらかに大きく偏っていることはありません。ただ「○○が予言者の時に人狼を見つける確率は何パーセント」というような、細かいデータは、実はあります。

――お客さんの正解率はいかがでしょう?

ゼロの日もあれば、ほとんどの方が正解という日もあります。実は、「狩人」がいつ退場するかでも変わるんです。『人狼TLPT』では、3日目の夜に回答用紙を回収するので、「初日に処刑された人」「初日の夜に襲撃された人」「2日目に処刑された人」の役割までがオープンされます。この中に「狩人」がいた場合は、パーフェクト正解率はぐんと上がりますね。逆に、殺された人がみんな村人で、昼のステージで誰も自分の役割をカミングアウトしていないという状態だと難易度は高くなります。

どのような流れになるか、私たち運営側も読めないので、景品が余ってしまったり、逆に足りなくなってしまったりというトラブルが出ることも・・・(笑)。お客さんの満足度は、正解率と必ずしも一致はしないようです。パーフェクトが一人も出なくても、「楽しかった」「神回」と言われたステージはたくさんあります。ですから、正解率=エンタメとしての満足度ではないのも、この公演のおもしろいところなんだと思います。

――桜庭さんの中で、一番印象的だったステージは?

桜庭:一番印象に残っているのは"人狼以外誰も死ななかった"という、奇跡のステージです(笑)。初日に人狼を処刑し、その日の夜は狩人が守る。私たちは、人狼の襲撃先と狩人の守り先が同じで、護衛が成功することを「グッジョブ」と呼んでいるのですが、2日目も昼に人狼を処刑、夜に狩人が「グッジョブ」を起こす。そしてその回は、3日目の昼に生存者全員が最後の人狼と狂陣が分かった状態でスタートしたんです。

キャストたちは、その状態をどうお客さんに楽しんでもらうかを考えた挙句、ステージ上で相撲をとることになったんです。当然、人間側は人狼に投票したいのですが、狂陣があまりにも「俺を殺せ!俺が人狼だ!」とがんばるから、「人狼と相撲をとってもらい、負けた方に投票しよう」という流れになったんです。お客さんのためにもおもしろい話にしよう!という思いが強いので、それはもう、ガチの相撲で(笑)。

「人狼以外が死なない」ということは理論上はあり得るのですが、なかなか起こることではないので印象深いですね。キャストたちのお客さんを楽しませようとする思いも伝わってきて、おもしろい公演になりました。

ほかにも、名勝負はたくさんあります。例えば、ルール上、最後に3人残ると最終日という状態になるのですが、この最終日に様々な条件が揃うと、人間が「自分が人狼だ」と言った方が勝てる場合があるんです。それは、人間が1人、人狼が1人、狂陣という組み合わせで、狂陣が人狼を把握していないパターンの時です。この場合、人間と人狼が共に「自分が人狼だ」と言い、狂陣を仲間に出来た方が勝つことになります。『人狼TLPT』では「人間は"とある例外"以外では嘘をつかない」というルールを設けていますが、この「とある例外」がこれに当たります。そういう奇跡的な終わり方も、印象に残っていますね。

――『人狼TLPT』は、アドリブ演劇でもあることが非常におもしろい公演ですが、エンディングを含め、どこまでがアドリブなのでしょう?

冒頭の部分以外は、すべてアドリブです。ゲームとしての役割も幕が開く直前で決まるので、キャスト同士もまったく相談していません。もちろん、どのタイミングでどちらが勝つのかもわかりません。ステージに上がり、人間が生き残る「グッドエンド」の曲か、人狼が勝利する「バッドエンド」の曲が流れた時、初めてどういう状況でエンディングを迎えるのかを知ります。

キャストたちも常にいろいろなことを考えてステージに臨んでいます。稽古中も本番中も、よく、長文のLINEで「これを言ってもいいですか?」という相談がくるんですよ。それぞれに「それはOK」「これは矛盾するからダメ」と判断していって、キャラクター性や世界観を壊さない範囲で、極力自由にアドリブが出来るようには配慮しています。台本がある作品の場合は、お客様からいただいた拍手の半分は脚本家、演出家のものですが、『人狼TLPT』ではすべて役者のものだよ、と伝えています。この作品は、役者の「すごさ」を存分に感じていただけるエンタメでもあります。

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インタビューの後半では、桜庭さんと「人狼ゲーム」の出会い、『人狼TLPT』の成り立ちから今後の展望、動画配信で見る楽しみ方などもお話いただいています。お楽しみに!

パラビでは、『人狼TLPT』より名作選として、「#09:冬霧に冴ゆる村」「#11:春風の薫る村「#26:FLAG」「THE ROOM #01」を配信中。