小学生時代から麻雀に親しみ、一時はプロを目指したほどの腕前を持つサイバーエージェント社長の藤田晋氏(45)。2014年には麻雀最強戦に優勝し、2018年7月には競技麻雀のプロリーグ「Mリーグ」の初代チェアマンに就任するなど、麻雀普及活動への意欲はますます加速するばかりだ。

そんな麻雀愛に溢れる藤田社長に、現在、テレビ東京で放送中(毎週水曜深夜1:35より/「Paravi(パラビ)」にて全話一挙配信)の麻雀ドラマ『天 天和通りの快男児』の見どころについて、さらには麻雀から学んだビジネスの極意、動画配信サービスなど多様化するコンテンツ事業の未来について話を聞いた。今回はその前編。

なお本作は、ギャンブル漫画の第一人者・福本伸行氏の伝説的麻雀漫画を実写化した人間ドラマ。麻雀に命を懸けた男たちの手に汗握る心理戦をスリリングに描いている。キャスティングも原作のイメージを再現すべく、主人公の天貴史役に岸谷五朗、天のライバル・赤木しげる役に吉田栄作、天と赤木を尊敬する井川ひろゆき役には古川雄輝を起用した。

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『天』は福本作品の中でも一番好き。麻雀を知らない人も楽しめる

――福本先生の漫画は結構読まれていますか?

たぶん、全部読んでいると思います。中でも『天』が一番好きですね。話が東西対決とか壮大な物語になっているところがいい。ドラマ版も麻雀を通して人助けをする義理人情の部分も含めて、特に男性にはたまらないんじゃないですかね。エンターテインメントとして、麻雀ファンでない方も十分楽しめると思います。

――今回、天を岸谷さん、赤木を吉田さん、ひろゆきを古川さんがそれぞれ演じているのですが、藤田社長から見て、このキャスティングはいかがですか?

天とひろゆきは、スチール写真を見ただけでピッタリな感じがしますね。赤木はなかなか再現するのは難しい役だと思いますが、よくここまで寄せられたなと思います。

――そういえば、岸谷さん、吉田さんは麻雀初心者ですが、古川さんは相当好きらしく、「唯一の趣味」とおっしゃっていました。

そうみたいですね。古川さんは、結構ツイッターなどSNSを通じて麻雀を広めてくれているみたいで、僕の立場からすると、すごくありがたい存在。今まで麻雀をやる人っていうと「博打好き」という雰囲気がありましたが、最近、古川さんみたいな麻雀好きの爽やかな方が出てきてくれて、かなりイメージが変わりました。純粋に「ゲーム」としてハマっている人が増えていることの表れだと思います。

――『天』に出てくるキャラクターの中で、ご自身に重なる雀士はいますか?

僕に重なる人はいないですが、ひろゆきのようにデジタル麻雀みたいな打ち方をする人は、たくさんいると思います。ただ、それだけでは限界があるんですよね。一見、正しい答えがあるように見えますが、理詰めだけではどうにもならない壁がある。局面ごとのゲーム運びだったり、押し引きだったり、そういったところが勝敗を決めてしまう場合が多いので。だから、理詰めに頼っている人は「心の強さ」という点で負けてしまう。「理屈では間違っていないのに!」と、自分の考え方に執着し過ぎてしまうからかもしれませんね。

――麻雀好きの藤田社長にとって、本作の見どころはどこになるでしょう?

視聴者のほとんどは、ひろゆきに自分を投影して観ると思うんですよね。天にしても、赤木にしても「バケモノ」みたいな存在ですから。でも、実際に麻雀のプロの中にも彼らみたいな人がいるんですよ。もちろん経験に裏打ちされた「バケモノ」なんですが(笑)。打っているときになんとなくオーラを感じたり、また、そのオーラさえも打ち消して自分をコントロールしている人もいたり。麻雀って、相手をビビらせると相当有利だし、逆に舐められると不利になりますから、そこの駆け引きも観てほしい。ただ、全体を通して言えるのは、このドラマは麻雀ファンでなくても、エンターテインメントとしてどなたでも楽しめる作品であること。そこは安心して観ていただきたいですね。

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麻雀が「勝負強さ」を育てる、それは間違いない

――藤田社長の麻雀の打ち方は、客観的に見ると、どういうスタイルなのでしょう。

麻雀の中には、技術者のような仕事と、全体のゲーム運びなどを決めていく経営者のような仕事があると思うんですが、一人で両方やらなくてはいけない。それでいうと、僕は明らかに経営者寄りなので、局面を俯瞰しながら冷静に決断を下していく、というスタイルになると思いますね。

――麻雀というものが「勝負強さ」を育てることに役立っていると思いますか?

それは間違いないと思います。麻雀以外でそういうことを学ぶ場がないんですよね。例えば、度胸や勇気が試される局面で、忍耐強く我慢する、という状況が麻雀の中では繰り返し現れる。そんな環境って、普通ないですから。

――なるほど、確かにそうですね。例えば、会社で大切な意思決定をするときに、麻雀のように、ふっと打ち筋を考えたりするものなのでしょうか?

麻雀に置き換えることはさすがにないですが、厳しい時期に「キレたら終わり」とか、滅多にないレアケースのチャンスに対して思い切って「一歩踏み出せない」とか、麻雀と似たようなことがよく起こったりはしますね。

――藤田社長が書かれた「仕事が麻雀で麻雀が仕事(近代麻雀戦術シリーズ)」を読ませていただいたのですが、その中で、「自分のタイミングで勝負しない」という言葉が印象的でした。これまでそういった感じで意思決定されてきた、ということでしょうか?

自分ではそうしてきたつもりですが、逆にそうじゃない人がよく目につくというか。市場とか、環境とかが整ってきたので、「今が勝負どころ」というのが筋だと思うのですが、時代の変化に焦ってしまってあとがなくなり、損なタイミングで勝負している人が意外と多いんですよね。自分の「都合」で決めてしまうというか。

――例えば、メディアで最新技術がフィーチャーされていても、藤田社長としてはぜんぜん焦らず、タイミングを冷静に判断すると?

まぁ、それはそれで重要な情報ではあるんですが、例えば、どんなに優れた映像技術でも、誰も観ていなければどうしようもないので、観る状況になったときを見計らうとか、そういう単純なことがとても大事なんですよね。モバイルでインターネットを使えるようになったとか、あるいはスマホが普及してきたなとか、タイミングの見極めが的確にできればいいわけなんですが、多くの方がそこ以外の要素に目が奪われてしまうので、心が揺れてしまうんですよね。

――著書の中に出てくる「人生は配牌(*)だと思え」という言葉がありましたが、周りが焦っている中でも、「現状を受け入れ、好機を待つ」も大事だということですかね。
(*編集部注:はいパイ。ゲームを始める際に配られる手牌のこと)

麻雀は忍耐力勝負みたいなところがありますからね。4人でやると4分の1しか上がれないし、ほかの4分の3は劣勢に立たされている気になる。それで焦って我慢できなくなってしまうという状況が多いんですが、本当はそこで歯を食いしばってがんばらなきゃいけない。こんな話をしていると「本業が大変なのに、なんで余暇まで歯を食いしばらなきゃいけないんだ?」と、ふと思うこともあるんですが(笑)。そこで学ぶことも多いですし、そうしないと勝てませんからね。昔は賭け麻雀で徹夜したとか、よく耳にしましたが、ゲームとして真剣に取り組むと、もうヘトヘトになって、徹夜なんてできないですよ。

――相手がチャンスを迎えたとか、聴牌(*)したとか、わかったりするんですか?その場合、どの辺りを注意して見ているのでしょう。
(*編集部注:てんパイ、残り1つ必要な牌があればあがれる状態)

プロはみんな洞察力に優れているのでわかると思いますが、僕の場合は「気配」で察する場合が多いですね。動作や表情、目線、ツモって切るスピードとか・・・。逆に僕がテンパッってもいないのに、迷いなく危険牌をポンポン切っていったら、勝手にみんな降りてくれたりするんですが、そういう気配でも押し引きがある。その駆け引きがまた、面白いんですよね。

※前編はここまで。後編では、お子さんとのほっこりするような麻雀話から今年10月に立ち上げた麻雀のプロリーグ「Mリーグ」への思い、さらには動画配信サービスの今後についてなど、公私にわたる藤田社長の思考や人柄をたっぷりとお届けいたします!

後編はこちら

(取材・構成/編集部、坂田正樹)

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