「カイジ」「銀と金」などギャンブル漫画の第一人者・福本伸行氏の伝説的麻雀漫画を実写化した『天 天和通りの快男児』。テレビ東京グループと動画配信サービス『Paravi(パラビ)』が本格的にタッグを組んだ連続ドラマ第1弾として話題を集める本ドラマで、無類の勝負強さと鋼の意志を持つ主人公・天貴史役に抜擢された岸谷五朗が、初めて触れる麻雀の世界とその奥深さ、さらにはドラマに懸ける思い、意気込みなどを熱く語った。
なお、天のライバル・赤木しげるを吉田栄作、天と赤木に憧れる若手の雀士・井川ひろゆきを古川雄輝が演じている。
――福本氏の伝説的作品の初の実写化となりますが、まずオファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
『麻雀放浪記』などの映画は観ていますが、もともと麻雀をやらない人間だったので、未経験ということで大プレッシャーでした。ロケの時も、原作を全て車に積んで、いつでも読めるような状態にしていましたね。まるで、かけがえのない親友のように、常に僕の横にありました(笑)。
――福本氏が描く麻雀の世界がだんだんわかってきた感じですか?
役とはいえ、麻雀の世界に深く入っていくのが初めてだったんですが、「きっとこのゲームは"怪物"なんだろうなぁ」と思いました。触れるにつれ、それをより実感として持っています。麻雀好きの(古川)雄輝なんて、毎日、撮影現場でずっと麻雀牌と一緒にいるのに、それでも撮休の日にスタッフやカメラマンと麻雀を打ちに行くんですよ。その姿を見て「このゲームは人をここまで虜にしてしまうんだ」と、ちょっと怖さを感じましたね。
――私も学生時代に経験があるので、その感覚、わかります(笑)。岸谷さんはギャンブル自体、何も興味がなかったと?
僕がなぜ、麻雀に手を出さなかったかというと、19歳で劇団に入って芝居を始めたからだと思います。アルバイトと演技のレッスンでまったく時間がなかったし、そのアルバイトのお金を家賃やレッスン費に当てていたので、遊ぶ暇もお金もなかった。超極貧生活を送っていたので、パチンコすらやったことがないんです。ギャンブルの魅力を知らずに大人になったので、今、この麻雀というゲームと初めて対峙して、怖さと同時に深さも感じています。これだけ人間を浮き彫りにされるゲームがあるのかと。
――撮影を重ねるうちに、徐々に麻雀に目覚めそうな気配ですね。
そう、そこなんです(笑)。僕がこの撮影に入った時に、クランクインからクランクアップまでに「僕はどうなるか」というのが一つテーマとしてあったんです。撮影中は現場でも家でも、常に麻雀牌と一緒にいましたが、撮了後も、この麻雀まみれの生活をずっと継続してしまうのか、それとも立ち消えてしまうのか。これからどうなるか(笑)。
――岸谷さんが演じる天貴史というキャラクターについてはどういう印象を持ちましたか?
実は原作の前半1~4巻辺りまでは、結構、コミカルで人情味あふれる天貴史が出てくるんですが、僕はそっちの部分の彼にもすごく興味があるんです。今後、福本さんにぜひ描いて欲しいなと思っているんですが、僕らのドラマは、12話各30分で表現しなければいけないので、その部分はまったく出てこないですし、原作にはある顔の傷もなく、当然、その傷のエピソードも出てきません。いろいろなところを削ぎ落とした部分での"天貴史"像ということになるわけですが、とにかくまっすぐに麻雀にぶつかる男、ひたすら勝ちを追求する男、として描かれています。
――福本氏は「岸本さんの無類な気配、飄々とした感じが天にかぶる」と期待を寄せていますが、ご自身と共通する部分、あるいは憧れる部分はありますか?
一つの方向に対して迷いなく、というところですかね。19歳で芝居を始めて、一度も転職を考えたことがないんですね。苦しい生活の時も、それはそれで楽しかったし。麻雀に魅せられた天も、麻雀を辞めようなんて一度も考えたことなかったんじゃないかな。その"一本気"なところは、非常に似ているかもしれません。
――ビジュアル的にも、岸谷さんによる天は「再現率が高い」と評判ですが、外見的な見せ方、麻雀を打つ時の立ち居振る舞い、心情的な部分の形成など、役づくりはどのようにされましたか?
原作が漫画だと、90%以上、役づくりというか、イメージができているんですよね。小説と違って目で見ることができるでしょ。誰も知らないのは声やイントネーションだけで、そこにプラス演技を乗せていくわけですが、あまりにも決めごとが多く、逆に苦労することもあるんですよ。例えば「このシーンは漫画では真顔だった。でも、ドラマではもしかすると余裕の笑顔を浮かべた方がいいかもしれない」とか、「この台詞は漫画では天が言っていたが、ドラマは赤木が言った方が効果的じゃないか」とか、そういうぶつかり合いは結構あるんですよね。
――キャラクターの立ち位置も、漫画とドラマでは違ってくるところもあるんでしょうか。
髪の毛を立たしているし、見た目も派手だし、突拍子もない人間に見えるんですが、天という役に関して一番守らなければならないのは、たくさんのキャラクターの真ん中にいなきゃいけない、ということ。ある種、ドラマの中で常識を持った男でいなければならないと思うんです。天が赤木と同じところにいたら、赤木がどんなに道を外れてもギャップが生まれない。天というキャラクターをぐっと抑えて周りを立たせる、「飛び出さない」ということをすごく意識しました。
――麻雀の打ち方は、かなり練習されたのでしょうか?
専門家の方についてレッスンしました。『地球ゴージャス』(岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット)の芝居を稽古2ヶ月、本番4ヶ月と半年間やっていたため、もうヘロヘロで、練習する時間もなかったのですが、地方公演で訪れた街で、昭和の香りを残す老舗の雀荘に行ったり、とにかく麻雀牌に慣れなきゃと思って、ことあるごとに触ったりしていましたね。麻雀牌をカバンに毎日入れてました(笑)。
――麻雀を打つ手や表情が一つの見どころになると思いますが、撮影は大変でしたか?
大変でした。カメラマンがいろいろ工夫していましたね。カメラ2台で押さえて、かなり時間をかけて撮りました。麻雀を打っているシーンはテストなし、そうしないと撮れないですから。ただ、テスト無しで本番やる本番ドラマってなかなかないですよ(笑)。さすがに芝居の部分は、いろいろテストしてやりますが。
――美術や衣裳にも相当なこだわりを感じました。
天が打っている場所が、かっこいいんですよ。「ザ・雀荘」みたいなところが随所に出てくるんですが、決戦の場がマフィアの巣窟みたいに怪しくて、すごく美術的なんですよね。また、キャラクターの衣装は決まっていたので、40度近い真夏も、冷房の効かないところで、トレードマークの革ジャン着て撮影していました。出演者全員も冬着なんで体は汗だくです。もし原作がなかったら、季節を夏に変えて、全員Tシャツにしていたでしょうね(笑)。
――古川さんのことを"麻雀先生"と呼んで慕っていたというのは本当ですか(笑)?
わからないことは全部、彼に聞くからね。「この手は何でこんなに複雑で、何でこんなに嬉しいの?」とか、「この麻雀用語の正しい発音は?」とか、日頃から打っている人は全然違うんですよね。スタッフの中にも麻雀好きがいっぱいいるんですが、彼らは忙しそうに現場を走り回っているので、雄輝に聞くのが一番早い。吉田さんも初心者なので、舞台裏はドラマと真逆、天と赤木がひろゆきに麻雀のイロハを教えてもらっている、という光景がちょっと滑稽でした(笑)。
――赤木を演じた吉田さんはじめ、原田克己役の的場浩司さん、僧我三威役のでんでんさんなどベテラン俳優が多い中、若手は古川さんだけだったと思いますが、次世代を担う俳優として彼との共演はいかがでしたか?
ひろゆきのキャラクターって、一番雀荘が似合わないのに、一番雀荘に行って、一番熱くなっているヤツですよね(笑)。麻雀に対して熱い反面、どこか涼しさがなければいけない役。天をはじめ、そのほかのキャラクターが全員濃いので(笑)。ひろゆき役は風鈴が鳴ってもおかしくないような清涼感を持った役者が必要だったのですが、雄輝はピッタリでした。それは、なかなか役作りだけでは表現できない、彼の持って生まれた資質だと思います。
――今回のドラマは「勝負とは何か」「生きるとは何か」が大きなテーマとしてあると思いますが、岸谷さんがこれまでに、「ここは勝負したな」と今も心に残っていることはありますか?
小さいことでいえば、どの撮影でも、ワンカット、ワンカットが勝負ですね。緊張感とプレッシャーの中、本番で本当にいい芝居ができることって何回あるんだろうと。それが仮に監督からOKが出たとしても、自分で納得できなければ面白くないですからね。あとは、僕の活動でいえば「地球ゴージャス」という演劇ユニットを主宰していて、公演カンパニーをずっとやっていますが、そこでの興行の大切さは計り知れないものがある。お客様の満足感、スタッフ、キャストの充実感、そしてギャランティも含め、みんなが幸せになれる公演を打つということは、毎回大きな賭けであり、大きな勝負です。
――本作は、テレ東グループと「Paravi(パラビ)」が本格的にタッグを組む第一弾ドラマとなります。テレ東、BSテレビ東京での放送に加え、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信されますが、こうした多様性についてどのような感想をお持ちですか?
それは本当に嬉しいこと。今回のドラマもそうですし、僕らの演劇なんかでも"一人でも多くの方に観てもらいたい"という思いがあるので、そういった意味では大歓迎です。ただ、演劇はやはり"生"で観るものですし、テレビドラマもお茶の間で放送時間に観るものと、スマホで手軽で観るものとではまったく違う。映画も、映画館と自宅では観終わったあとの感触が全く違いますからね。あくまでも"別のもの""+α"と捉えていただいて、より多くの方に楽しんでいただくことはいいことだと思います。
――最後に視聴者の皆さんへメッセージを。
実写化された福本ワールドを存分に楽しんでもらうと同時に、麻雀を通して普段は絶対に隠しておきたい人間性がバリバリ剥がされていく人間ドラマをぜひ観ていただきたいですね。僕自身もどうなるか楽しみですが、視聴者の皆さんも、このドラマを見て、雀荘に行く人が増えたら嬉しい。数年後にどこかで「このドラマを観て麻雀始めました」って言われたら、俳優冥利に尽きますね。
ドラマパラビ『天 天和通りの快男児』はテレビ東京系にて深夜1:35より放送。さらに、動画配信サービス「パラビ」では、1話~12話まで全話一挙配信中。
(C)テレビ東京 (C)Paravi
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