「パラビき!パラビき!あらびき団~四天王編~」として、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で新作を配信したお笑いネタ番組『あらびき団』。ハリウッドザコシショウをはじめ、数々のブレイクを「発掘」し続けている同シリーズの総合演出を務める原田ディレクターにインタビュー。自身も「毎回衝撃です」と語る『あらびき団』を、深堀りしていく。
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――ハリウッドザコシショウさんを筆頭に、『あらびき団』をきっかけに有名になった芸人さんがたくさんいますが、そういう人たちを見てどう思っていますか?
番組で取り上げたから有名になったとは思っていないんですよ。『あらびき団』に出て売れたというよりも、僕らの番組を見て、どこかが使ってくれて、そこから売れたと思うので、良かったなあと。だって、ザコシショウさんとか売れるとは思わないじゃないですか(笑)。僕らは面白いネタなので「出て欲しい」と言って来てもらっていましたが、世の中のベクトルと合致するなんて一切思っていなかった。でも、ザコシショウさんが『R-1』で優勝した時と、とろサーモンが『M-1』を獲った時は感動で鳥肌がたちました。
――『あらびき団』をやってきて、衝撃だったことはありますか?
毎回衝撃ですよ(笑)。「こんな人いるんだ!」「よく生きているな」って思うぐらい。よく「誰が一番『あらびき団』で売れましたか?」とか聞かれるんですが、僕は東野さんと藤井さんだと思うんですよ。東野さんが、こんなに多くの番組の名司会者になると世間は思っていましたか?
――確かに、東野さんは『あらびき団』が始まる前はゴールデンタイムの司会をするみたいな感じの方じゃなかったですね。
当時から"天才"だと思っていましたけど。東野さんと藤井さんに、どんなものを見せたら、何を言ってもらえるか、笑ってもらえるか。2人のやり取りを、毎回スタジオで楽しみにしていました。
東野さんは、演出的な目線も持ってらっしゃるんですよ。僕らが「こういうのをやりたいんです」と持っていくと、「こういう風にしたらいいよ」とか、「お前、何を世の中に合わせようとしているんだ?」「やりたいことをやれ」っておっしゃってくれる。僕らの編集、他の番組だったらこんなの雑すぎて見れないから流せないよっていう編集ですが、そこを埋めてくださる。ここまでやっていいんだって懐に飛び込めるのは、すごく助かりますね。
――原田さんは、渡辺剛さんに代わって途中から『あらびき団』の総合演出になられたんですが、引き継ぐ時に何か言われましたか。
その時は、特になかったんですが、番組の立ち上げから「お前が演出するための番組だぞ」ってずっと言われていたので。そこから始まっていたのかもしれないです。ネタの編集にしろ、任されるところがいっぱいあって。渡辺は形をつくって、後は任せてくれた。それが1年半から2年くらい、育ててもらったなと思いますね。
――そもそも原田さんは何故テレビマンになられたのですか?
ホントに申し訳ないのですが、テレビを作ろうなんて一切思っていなかったんですよ。実は、まったく別の業種の大手企業に就職が決まっていたんです。内定式の時に、同期と話す中で、1年目には自分が絶対にやりたくないと思っていた仕事をやらされるという内情を知って、すぐにやっぱり辞めますって連絡したんです(笑)。慌ててまだ就活していた人に聞いたら、テレビの制作会社がまだ新卒募集してると聞いたので、すぐにエントリーしたら受かりました。
――テレビは好きだったのですか?
親が厳しくて、あまりテレビを見られる環境じゃなかったんですよ。大学で一人暮らしになってから、少し見るくらい。でも、子どもの頃はとんねるずさんとか『ひょうきん族』とか好きで見ていましたし、京都出身なので、大阪のお笑い文化が自然と耳に入ってきて、『吉本新喜劇』とかも見ていました。好きというよりも、それを見ていないと友達との話題についていけないから、仲良くするためのツールという感じでしたね。それが自分のベースにはなっていると思います。僕は、いわゆる「Fランク」と言われる大学に通っていたので、テレビなんて東大とか、京大とか、頭のいい人たちが作るものだと思っていたんです。優秀な人が寝ずに作っているんだろうな、大変だなって(笑)。まさか自分がこの仕事をするとは思っていなかったですね。
――テレビ業界に入ってからはどんな番組を?
最初は『世界まる見え!テレビ特捜部』をやらせてもらいました。僕は大好きだったんですけど、あくまでVTRを編集する番組だったので「このままこの番組だけをやり続けると、ロケを経験していないディレクターになるぞ」と言われて、違うロケ番組もやるようになりました。
――転機になった番組はありますか?
26~27歳くらいの頃に、半年間『電波少年』のディレクターをやらせてもらったんですが(その前の半年間はADとして参加)、その時に、芸人に逃げられてしまうということがありました。僕も悪かったんです。芸人さんを、ビジネスの対象としてしか見てなかった。言い方悪いですが、人として見てなかったかもしれないですね。芸人さんだったらこれくらい過酷なこともやってくれるだろうと思っていたら、全然やってくれなくて。今考えたら当たり前です。信頼関係が作れていなかったんですから。逃げられてはじめて、芸人さんも1人の人なんだって気づけたんです。
別世界の、テレビという箱の中の人という素人感覚が抜けていなかったんですね。今思えば、そこで芸人さんに対する考え方や接し方が変わった気がします。当時は、テレビの方が強かったですからね。ロケをしていても、ロケ先から「どうぞ来てください」とご飯を出してもらえるぐらい歓迎してもらえる。そこに乗っかりすぎて、勘違いしていましたね。
――『あらびき団』に参加したのは何歳くらいからですか?
32歳で、業界に入って10年目くらいの頃でした。実はその直前、もう辞めようって思っていたんです。32歳って、転職するにはギリギリじゃないですか。ある日、めちゃくちゃ怒られて。「帰れ!」って言われて、ホントに帰って、そのまま転職活動を始めたこともあったんですよ。逃げ出して、1ヶ月半会社に行かなかった。でも、上の人から「企画書だけは持ってこい」とか温かい言葉をかけてもらったり、「お前は宝だ」みたいなことを言われてグラっと来たり。ホントに人に恵まれていて、逃げ出してから1ヶ月半後に「お前のための番組がある」と、『あらびき団』に誘ってもらったんです。
――原田さんにとっても、『あらびき団』の存在は大きかったんですね。『あらびき団は』地上波ののちCS・吉本のネットチャンネルで放送を再開しましたが、地上波との違いは感じましたか?
地上波って恵まれているんだなと実感しました。地上波でも予算がないって言われていたから、底辺だと思っていたんですが、まだまだ地下があった。芸人さんと打ち合わせしていて「こういうのがいいね」みたいな話が出ても、予算ないから「手作りで作ろうか」って話になりますから(笑)。地上波は見ていますって言われるんですが、CSはほとんどないのも、ぜんぜん違うなって。でも好きなことをやらせてもらいましたね。
――パラビでも『あらびき団』が配信され、新たに「四天王編」が作られました。この経緯は?
パラビからバラエティ部門で『あらびき団』を指名していただいたんです。僕らもまたやりたかったものですから、じゃあやりましょうと。ただ全13回と言われて、どうしようかと思いました。『あらびき団』って4コマ漫画みたいなもので、ドラマみたいに継続して見るものでもない。13回、どうやったら継続して見てくれるんだろうと悩んだ結果、トーナメントにした方が見てもらえるんじゃないかと。ひとり優勝者を決めるのは地上波でもやったので、優勝者を4人に決める「四天王」という形にしました。
――今回の出演者はどのように決めたんですか?
地上波版に出ている人もいますが、優先的にというわけではなく、フラットにオーディションしました。でも、やっぱり選んじゃうんですよね(笑)。安心感もありますが、やっぱり好きなんでしょうね。基本的には選び方はこれまでと一緒でした。
――特に印象的だったことはありますか?
やっぱり決勝に残ったある芸人さんが「ネタがない」って言って辞退したことですかね(笑)。無理やり作る方向で動いていたんですが、やっぱり出来ませんって言ったのが衝撃的でした。今回、13回分を2ヶ月で収録したんですよ。その短期間で4回とも毎回笑わせるネタを作るっていうのはやっぱり難しい。地上波の時は、間を空けつつ、次のネタが出来たらおいでっていう感じでやっていたんですが、今回は2ヶ月の間に撮らなければいけなかったので、1回撮った人には「無駄になる可能性があるけれど、ひょっとしたら選ばれるかもしれないから次のネタ作っておいて」と言っていたんです。でも『あらびき団』に出る人たちって、サボり癖がある人が多くて・・・やっぱり作らないんですよね(笑)。
――配信はお金を払ってもらって見てもらうものですが、これまでと作り方は変わりましたか?
作り方はそんなに変わらなかったです。媒体が何であろうと、全力でやっているので。常に思っているのは、この番組を好きな方に見てもらえるようにということだけ。ただ、テレビは一方通行ですけれど、配信は、お金払って見てもらうって舞台とかと一緒じゃないですか。お客さん、パラビで言うと視聴者の方と一緒に作っている感覚が僕にはあります。視聴者の方との一体感がありますね。
――今後『あらびき団』でやってみたい企画ってありますか?
あらびき芸人の「○○」を撮りたいなと思っているんですよね。
――おお、面白そう!
これ、ホントにいずれやりたいと思っているので、ネタバレになるから伏せておいてください(笑)。○○って一番、人間模様が出ると思うんですよ。そこを引き出したいなって思っているんです。もっともっと、人間っぽいところを見せていきたい。やっぱり、ドキュメンタリーを見せたい番組なのかもしれないです、『あらびき団』って。
(C)Paravi
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