4年間地上波で放送され、その後CS・吉本のネットチャンネルで放送を再開、さらに『パラビき!パラビき!あらびき団~四天王編~』として動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも放送開始したお笑いネタ番組『あらびき団』。その独特な編集、全国から面白いヤツを見つける「発掘」というスタイルから、数多くのブレイク芸人を生み出した。そこで今回は、総合演出を務め、『あらびき団』を隅まで知り尽くした原田浩司ディレクター(総合演出)にインタビュー。
前編では、『あらびき団』が始まった経緯や「悪意ある編集(!?)」とまで言わせてしまうほどの、その独特な編集スタイルの原点、さらに原田ディレクターの生い立ちも合わせてたっぷりと語ってもらった。
――まず『あらびき団』が始まった経緯を教えてください。
2007年の夏頃に、レギュラー版の『あらびき団』の総合演出だった渡辺剛から、「お前にぴったりの番組がある」って声をかけられたんです。その頃、僕はまだいちディレクターだったんですが、"全国のタカアンドトシ"を探してきて欲しいって言われて。
――ちょうどタカアンドトシさんが北海道からブレイクした頃ですね。
だから、まだまだ地方には面白いヤツがたくさんいるんじゃないか、全国各地を飛び回って面白いヤツを見つけて来ようという話だったんです。最初聞いた時は、そんな番組が始まるんだ、面白そうだなと参加して、(全国に)飛びますって言っているうちに、どんどん予算がなくなって、都内で見つけろという話に・・・。最終的には、スタジオからも出られないみたいな状態になりまして(笑)
――始まる前から(笑)。
その頃、『エンタの神様』や『爆笑レッドカーペット』が放送していて、特に『レッドカーペット』の1分ネタがすごく面白いと持て囃されていた時期だったんです。「ああいう感じで、芸人の面白い見せ方が出来る番組にしたい」「プラス、"発掘"という部分は残そう」という方針で、まだテレビに出たことがないけど面白い人を探していました。
――どのように見つけていったのですか?
最初は、秋葉原とか下北沢の商店街とか井の頭公園とかに探しに行ったり、まだYouTuberがこんなに注目される前からYou Tubeを探っていったりしました。各事務所にも、『あらびき団』という番組が始まりますって声をかけたんですが、「どんな番組ですか?」と怪しまれてなかなかオーディションにも来てくれない(笑)。そんな状況で始まったので、「何これ?」って言いたくなるような「これがネタなの?」っていう状態のものがいっぱい集まって、会議で「これどうする?」って話になったんです。
その中に、ふとっちょカウボーイさん(当時はジュニー・ザ・ピンボールという名前)がいて、ネタとネタの間で「パーンッ!」とやっていたんですよ。それが妙に会議でウケまして、「こういうものをピックアップした方がいいんじゃないの?」という話になったんです。会議で皆が笑った感覚を大事にして、MCに決まっていた東野(幸治)さんと藤井(隆)さんに見せようと。ネタというより、"この人の面白さ"はどこなんだというところを探って、ぶつける方がいいんじゃないの、という考えに至りました。
――『あらびき団』は、事前に収録したネタVTRを東野さん、藤井さんが見てコメントするという独特なシステムですがこれはどのようにして生まれたのですか?
渡辺から聞いたんですが、東野さんが打ち合わせの時に「芸人、パフォーマーたちと直接会いたくない」とおっしゃったらしいんです。でも、ネタが終わった後、感想を言ってもらう時に、どうしてこういうネタを作ったのかといったことを聞いて欲しかったので、別スタジオで中継を結ぼうということになったんですが、また予算の問題が(笑)。もう一個、スタジオを借りられなかったんですよ。
――その結果が、事前にVTRを撮る形式を生んだのですね。以前、ハリウッドザコシショウさんに取材した時に『あらびき団』の話が出て、「MCと絡まないというのが、良かった。もしあの当時の自分が絡んでいたら、空回りして地獄だったんじゃないか」っておっしゃっていました。
東野さんご本人に直接聞いたわけではないのであくまでも想像ですが、本人を目の前にするとなかなか聞けなかったり、ズバッと言えなかったりする部分があるから、「直接会いたくない」とおっしゃったんじゃないですかね。初対面の相手を目の前にすると、どうしても探り探りになってしまいますから。VTRだと、人に対してではなく、あくまでもVTRに対してツッコむから、何でも言える。直接会うと、(相手が)傷つくようなことは言いたくないんじゃないかと思います。東野さんは優しいので。そういうところは、なかなか見せてくれないんですけど(笑)。
他のネタ番組って「この人たちで笑ってください」と、ある意味でお客さんに委ねていた部分があると思うんですが、うちの番組で言えば、東野さんと藤井さんの感想で、ドンっと笑いが起きる。こういう見方があるんだって気づかされる。それは"会わない"からこそ言えるメリットだと思います。
――ネタVTRの編集も『あらびき団』は独特ですね。
仙堂花歩さんという吉本新喜劇の芸人が出演してくれた時のことなんですけど。彼女は宝塚歌劇団出身で、「涙そうそう」のメロディに乗せて、「私もともと宝塚だったのに今やこんなことになっている」っていうような自虐の歌ネタをやったんです。それを撮ったディレクターが、まるで歌番組のような編集をしてきたんですよ。ゆったりとした音楽に合わせたカメラワーク。スタッフで集まって、事前にVTRを見た時に、プロデューサーが「これいけるんじゃないの!」って言ったんです。
僕らはそれまで、あくまでもネタを見せることを中心に考えていたんですが、それ以降、ネタから少し離れて、その人の面白さを、こちらでいかに"ピックアップして見せるか"を考えるようになりましたね。『あらびき団』に来る芸人たちは、自分の面白い部分がどういう部分か気づいてない人が多いんです。だからそれをこちらで見つけて、ピックアップして、そこを強調した編集で見せる。そうしたら、東野さんと藤井さんにウケて。そこからあの形が始まりました。最初の半年から1年ぐらいの間でできた形が、いまだ何も変わっていないですね(笑)。
――よく「悪意ある編集」と言われますね。
悪意はまったくないです!よく言われますけど、東野さんや藤井さんが面白おかしく言って下さってるだけで、僕らとしては「これを見て欲しいんだ!」という一心。本人たちが気づいていない面白いところを、僕らが感覚で受け取って、そこだけ見せる。僕らが作っているVTRだけだと、その段階ではまだテレビに出せるレベルではないと思うんですよ。「これ見て誰が笑うの?」というものに、東野さんと藤井さんのコメントが加わって、やっと人に見てもらうことができる。だから、全員で作っている番組だなという思いがありますね。
――これまで編集されたVTRで、手応えがあったものや印象に残っているものってありますか?
手応えはないです(笑)。VTRを見せる前はドキドキで、いつも「これはウケるのだろうか・・・」と思っているので、編集で手応えを感じたことは一度もないですね。逆の意味で、ピエロのキーちゃんというパフォーマーを出した時の藤井さんの反応は印象に残っています。僕は良かれと思って編集したものだったんですけど、えらい批判にあいまして。
ピエロのキーちゃんは、50歳ぐらいのお父さんなんですが、週末は2人のお子さんがアシスタントをするっていう大道芸人なんですよ。当時、男の子が高校生、女の子が中学生だったかな。男の子がお父さんの横に立って物を渡したり、女の子がピコピコハンマーでお父さんの股間を叩いたりする。そういう家族の関係性が面白くて、ドキュメンタリーで見せたいなって思ったんです。それで、パフォーマンスの途中で家族を振り返ろうと思ったんです。VTRだからそういうこともできるじゃないですか。
「週末はお父さんを手伝いながら勉強。月の小遣いは500円。家族旅行で最近行ったところは5年前の上野公園」みたいな。ちょっと哀しい感じですが、僕は家族愛が溢れているなと思っていたんですね。その最後に、女の子が履いているボロボロの靴の映像を1カット入れたら、藤井さんから、えらい批判にあったんです。演じる側のことも考える優しい藤井さんは、そんなカットを入れたら女の子が傷つくと思われたんだと。いまだに、その1カットのことを言われますから。その時、僕らはある部分で感覚が麻痺して、世の中の"面白い"からズレてしまっているのかもしれないと思い、編集部分は一度作家さんに見てもらって意見を聞くようになりましたね。
――『あらびき団』という番組タイトルはどのように決まったんですか?
会議で、当時の演出をやっていた渡辺が「サーカスにいるような人たちを見せたい」と言ったので、「○○サーカス団」というタイトルにしようということになり、○○に入る言葉をみんなでいろいろ考えたんです。もう何だったかは忘れてしまったんですが、なんか普通な感じに、一旦決まったんです。
その後、会議の終わりかけに、チーフ作家の中野俊成さんが「あらびきウインナーって完成されてないウインナーだよね。『あらびきサーカス団』ってどう?」と言った言葉に、渡辺が「響きが新しい!」って反応したんです。
今でこそ、そんなに違和感がないですが、当時「あらびき」なんて単語は「あらびきウインナー」か「あらびきハンバーグ」くらいにしか使われてなかったですから。渡辺はそれを番組名につけるのは「新しい」と思ったようです。僕らは違和感しかなかったですが(笑)。最終的に、『あらびきサーカス団』という案が出て、ちょっと長いので、「サーカス」を取って『あらびき団』になりました。
――出演するパフォーマーを選ぶ基準は?
ネタって、その人の生きてきた証だと思っています。その人が生きてきた、一番面白い部分が芸になる。そこに面白さがあるから、ネタというよりも、面白い"人"を選ぶようにしていますね。ネタが面白くても「うちの番組には合わないな」と選びませんでしたが、違う番組でハネるというのは、よくあるので。その時は、番組に出せず悔しかったなあという思いもありますが、基本は"人"です。その人の"ドキュメンタリー"を見て欲しい。ネタ番組と思われるかもしれないですが、ドキュメンタリー番組として見ていただければ。数分に、その人の生きてきた人生をギュッと詰め込もう、僕らはそう思っているので。
パラビでは、完全オリジナル作品の『パラビき!パラビき!あらびき団~四天王編~』。に加え、過去の『あらびき団』地上波シリーズも配信中。
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