Paravi(パラビ)初のオリジナルドラマ『tourist ツーリスト』がいよいよ動き出す――同作は、悩みを抱える3人の女性が、旅先で出会ったミステリアスな男性・天久真(三浦春馬)との交流を通じて、本当の自分を見つけ出すオムニバスドラマ。
水川あさみ主演の第1話「バンコク篇」はTBS、池田エライザ主演の第2話「台北篇」はテレビ東京、そして尾野真千子主演の第3話「ホーチミン篇」はWOWOWで放送されるという、史上初の3局横断放送でも話題を呼んでおり、各話放送後、未公開シーンを含むオリジナル版が動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で独占配信される。
そこで今回は、第1話のヒロイン・野上さつきを演じる水川あさみさんにインタビュー。「等身大に近い」と語るさつきへの想い、そして撮影当時のエピソードなど、じっくりと語ってもらった。
さつきはきっと生まれ変わるきっかけを探していた
こんなに楽しそうに笑う女性を久しぶりに見た。ロケ地であるバンコクで食べた料理について話題が及ぶと、「最高でした」と少女のような笑顔を浮かべる。水川さんは、常に気取らずナチュラル。『tourist ツーリスト』で演じた、鬱屈したヒロイン・野上さつきとはまるで別人だ。
テレビ局のプロデューサーであるさつきは、一見すると華やかな世界で成功をおさめた都会の女性。けれど、胸の内には常に満たされない想いを抱え、人生に行きづまりを感じていた。肩肘張ったところがまるでないように見える水川さんとは対照的なキャラクターかと思いきや、開口一番「すごく共感しました」と話しはじめた。
「自分のやりたい作品がプロデュースできて、それなりに恋愛も経験して、一般的に見ればいい位置にいる女性だと思うんですよ。それでも満たされないのは、それだけ上昇志向が強い証拠。欲が強いから、何かを得ても満足できず、次々とやりたいことが出てくる。その貪欲さは、私自身、共感できるし、理解できるところでもあります」
かつてはプロデューサーとしてはヒットも飛ばしたが、近年は数字や評価に苦しみ、周囲から横槍を入れられて、なかなか自分のやりたいことを貫けないジレンマを抱えているさつき。職種こそ特殊だが、数字に追われたり板挟みになるのは、働く人たちにとって普遍的な悩みだ。
「すごくよくわかります。私も、自分のやりたいことや表現したいことを常に100%できているかと言えば、必ずしもそうとは言い切れない。割り切ることを覚えて目を瞑ることもあれば、自分のやりたいことを通すためにどうしたらいいのか試行錯誤することもある。日々葛藤ですよね(笑)」
特別不幸なわけではないが、未来に明るいイメージを持てない。閉塞的な日常から逃れるように、さつきはふっと「死のう」と口にして、バンコクへと旅立つ。
「私が思うに、さつきは別に本気で死にたいと思っているわけではないんじゃないかなって。何か自分に大きな衝撃を与えてくれる出会いだったり、価値観が変わるような経験がほしくて、それが「死のう」という言葉になっているだけ。タイは"輪廻転生"を信じている国。そこでさつきは自分が"生まれ変わる"きっかけを求めていたんだと思います」
危険な匂いのする真に、さつきは惹かれたんだと思う
そんなさつきのもとに訪れたのが、ミステリアスな男性・天久真との出会い。この出会いが、沈み込んでいたさつきの心を変えていく。
「もし私が真と出会ったら、絶対信用しないでしょうね(笑)」
そう水川さんは大きく口を開けて笑った。
「真はいい意味でのらりくらりとしていて、何を考えているのか全然わからない。私だったら、絶対怪しいなって避けます(笑)。でも心の奥底で刺激を求めていたさつきは、そんな危険な匂いのするところに惹かれたんだと思う。危ない橋を渡ってみたいという願望は、みんなどこかしらで持っている。怪しい賭場に連れて行かれたり、夜の街をトゥクトゥクに乗って駆け回ったり。真と過ごす時間の中で自分が変わるチャンスを探していたんだと考えると、さつきの気持ちもわかる気がします」
天久真を演じた三浦春馬さんとは、舞台『地獄のオルフェウス』、そしてドラマ『わたしを離さないで』に続く3度目の共演だ。
「今回がふたりとも一番等身大の自分に近いというか、役と自分との距離感が近いところでのお芝居だったので、すごく楽しかったです。あらかじめ何かこうしたいということを確認しなくても、お芝居が始まったらどんどんふたりの間でアイデアが生まれてくる。事前の話し合いというのは一度もしなかったですね」
時に甘えたり、試したり、突き放したり。まるでシーソーゲームのように目まぐるしくバランスが変わるさつきと真の関係が、本作の見どころのひとつだ。
「春馬くんは、相手がどう出てくるかをすごくよく見ている人。私が好き勝手に動いたら、ちゃんとそれを受け止めてくれるし、逆に自分が発信する側にまわった時は、上手くリードしてくれる。さつきと真はシーンごとに感情を爆発させたり、受け手にまわったり、くるくる役割が変わるんですけど、それが自然にできたのは、相手が春馬くんだったからだと思います」
妥協をしない姿勢が生んだ、クライマックスの特別な演技
『tourist ツーリスト』は、各話ごとに監督が異なる点も注目のポイント。「バンコク篇」のメガホンをとるのは、山岸聖太監督だ。
「あまり細かくカットを割らずに、ひとつのシーンを最初から最後まで長回しで撮るタイプの監督で。演じる側としても長回しでお芝居をさせてもらえると、自分でも思ってもいなかった感情が溢れてきたり、役に深く入り込むことができるんです。そういう意味でも、とてもお芝居に集中しやすい現場でした」
星野源、乃木坂46など人気アーティストのMVを多数手がける山岸監督。気鋭の映像クリエイターの人柄を、水川さんはこう説明する。
「すごく素敵な方です。真摯で、いいものをつくりたいという熱量が高い。だからこそ、現場でもよく悩んでいらっしゃる姿が印象的でした」
それは決して悪い意味ではなく、と補足する水川さん。その瞼に焼きついているのは、タイトな撮影スケジュールの中でも、粘り強くベストを探ろうとする監督の姿勢だ。
「俳優もスタッフも監督の想像を超えた表現をしたいという気持ちを持った方たちばかり。だから、ドライ(※ドライリハーサル。カメラをまわさずにリハーサルを行うこと)を経て監督が想定していなかった表現やアイデアが現場から生まれることがあるんです。監督は、それをどう活かすか、一生懸命考えてくれる方。少しでもいいものをつくるために、最後まで妥協をしないんです」
そんな監督と水川さんの間だから生まれたお芝居がある。それが、クライマックスの空港でのシーンだ。
「私が真にハグをするんですけど、あれは最初台本には書かれてはいなかったんです。でも、彼に対する感謝の気持ちと寂しさを台詞じゃないかたちで表現したいなと思って、私から監督に提案してみました。そしたら監督も「いいですね」と喜んでくださって。撮影の順番を変えたり、いろいろ解決しなければいけない問題があったんですけど、監督が現場を引っ張ってくださったおかげで、すごくいいシーンになったと思います。ぜひ注目して観てほしいです」
バンコクの空気が身も心も開放的にしてくれた
物語の舞台となったバンコクで約1週間のロケを敢行した。水川さんにとってバンコクは3度目の訪問。「大人になってからじっくり訪れるのは初めて」という微笑みの国の空気は、水川さんの演技にも確かな影響をもたらした。
「さつき同様、身も心も開放的になりますよね。お芝居をするときって、あれこれ事前に考えることも多いけど、いい意味でもっと体当たりになれたというか。その場で思いついたことをそのまま試せた。それがすごく良かったと思います。もともと等身大に近い役どころということもありますが、バンコクに行って、その場の空気を吸っただけで、すっとさつきになれた感覚がありました」
本作は「旅」がテーマ。旅先での出会いと経験が、女性たちの人生を変えていく。では、水川さん自身が旅に求めるものとは何だろうか。
「旅は、自分の気分や状況を変える一番手っ取り早い方法。全然違う価値観にふれたり、見たことのない景色を見たり、経験したことのないことを経験したりすることで、わかりやすく気持ちが変わるし、心が豊かになりますよね。私も長く休みがとれれば、よく海外に行きます」
私たちの日常は、常に何かに追い立てられている。「旅」という名の非日常は、社会に順応するために完全装備した鎧を脱ぐ最適な時間なのかもしれない。
「仕事のことを忘れてゼロでいられる時間ってごくわずか。私の場合も、ひとつの作品が終わって、次の作品に入るまでの間に、ちょっとしたオフはあるけれど、その期間もやっぱり次の作品に向けた準備をしなくちゃいけなくて、なかなか完全にゼロにはなれない。切っても切り離せないものだからこそ、上手く自分の中でオンとオフを切り替える術を身につけたようなところがあります。それが、私にとって旅なのかもしれない。そんなに長い休みをとれないときは、車に乗ってドライブに出かけたり。それだけで、いつも自分を追い立てているものをほんの少しだけ遠くにやることができるんです」
水川さんのオススメのドライブスポットは、なんとサービスエリア。各地のサービスエリアに立ち寄るのにハマっているらしい。
「オススメは、わかりやすいところで言うと、やっぱり海老名SA(笑)。よく物産展でお買い物をしています。あとは足利SAの『たまごや』もオススメです(笑)」
そう笑う横顔はやっぱり気さくで、気取りがなくて、そして美しい。最後に視聴者に向けてこんなメッセージを贈ってくれた。
「きっとさつきに共感できる人は、男女関わらずいっぱいいると思うんです。今の自分を変えたくても、何をどう変えたら正解かなんて誰もわからないし、そもそも何かを変えるのって、よっぽど勇気がないと難しい。でもひとつだけ言えることは、自分が動かなきゃ何も変わらないんだよ、ということ。このドラマは、そんなメッセージを観る人に届けてくれるドラマです。ぜひ何か変わりたいと思っている人にご覧いただけたら嬉しいです」
「旅」が人生を変えるのは、そこに「出会い」があるから。この『tourist ツーリスト』もまた観る人にとって何かを変える「出会い」になるのかもしれない。
TBS・テレビ東京・WOWOW3局横断Paraviオリジナルドラマ『tourist』は、以下の日程で放送。
【第1話】TBS 9月28日(金)24:35~25:35
【第2話】テレビ東京 10月1日(月)24:12~25:15(本編は24:20~)
【第3話】WOWOW 10月7日(日)24:30~25:30(無料放送)
※未公開シーンを含むフルバージョン、天久真目線のオリジナルバージョンは、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」にて独占配信
(C)Paravi
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