「週刊少年ジャンプ」(原作:空知英秋/集英社刊)で連載された大人気コミック『銀魂』の実写映画シリーズ第二弾『銀魂2 掟は破るためにこそある』が8月17日にロードショー公開された。

SFと時代劇がミックスされた混沌とした江戸の街で、万事屋「よろずや」を営む坂田銀時(小栗旬)が、志村新八(菅田将暉)、神楽(橋本環奈)と共に、江戸で起こるあらゆる依頼ごとに首を突っ込むハチャメチャ人情時代劇コメディは、昨年夏の公開時に大きな笑撃(=衝撃)を与え、昨年度の邦画実写興行成績ナンバーワン(興行収入38.4億円/※興行通信社調べ)を記録。

シリーズ累計5,500万部(※2018年8月現在)の大人気コミックを実写映像化するまでの経緯や制作裏話、さらに邦画の未来など、エグゼクティブプロデューサーの小岩井宏悦氏にじっくり語ってもらった。
インタビュー後半は――「原作ファン、役者ファンだけでなく監督ファンも多く観に来た『銀魂2』」。

◆プロフィール

小岩井 宏悦(こいわい ひろよし) ワーナー・ブラザース映画 エグゼクティブディレクター/エグゼクティブプロデューサー 1989年にフジテレビに入社し、『ラブジェネレーション』『パーフェクトラブ』『二千年の恋』などの"月9"ドラマや『神様、もう少しだけ』『Age35, 恋しくて』などの連続ドラマを数多くプロデュース。その後映画部で『ブレイブストーリー』『星になった少年』などの映画をプロデュースする。 2007年4月にフジテレビを退社し、ワーナーブラザースに転職。以来、エグゼクティブプロデューサーとして『るろうに剣心』シリーズ、『銀魂』シリーズ、『藁の楯』『オオカミ少女と黒王子』『ミュージアム』『無限の住人』などの映画製作に携わる。

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空知先生の"泥船"のワードは『銀魂2』のBack Numberが歌う主題歌でも使われています

――映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』では、前作を踏まえて続編製作までの苦労などはありましたか?

クリエイティブな部分は、福田監督がすべてですし、ご自分でシナリオも書かれるのでとにかくシナリオを待つだけでよかったです。ビジネス的な部分では、たいていフランチャイズ作品独特の問題が出て来るものですが、、『銀魂2』に関しては、そのような苦労はまったくなかったんですよね。その大きな理由に、やはり福田監督のお人柄があると思います。とにかく作品を愛して見返りを求めない福田監督の求心力と、キャストとスタッフがこの作品を本当に面白がって、また、次も!と無条件に思ったからだと思います。

――監督自ら面白がって作品に取り組まれて、その結果が今の評価という感じです。

そこなんですよ!監督を筆頭に、現場のキャスト、スタッフみんなが面白がって『銀魂』を作っている。前作の撮影中から「次、何を作ろうか」って、そのプロセスを楽しんでいて、カメラが回っている時もいない時も、みんなが笑っていましたね。

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――撮影現場は、どこもピリピリした緊張感が漂っているものだと思っていました。

福田監督の現場に関しては、それは当てはまらないですね。ただ今回、最初はギャグエピソードをメインでやるつもりだったのに、突然、監督が「やっぱりもっとお客さんを喜ばせるためには、前作にあった男気とか感動とかアクションとかもないとダメなんじゃない?」と言い始めて、クランクインの2、3ヶ月前くらいにシナリオを書き上げてきた時にはビックリしましたね(笑)。

普通はそんな大きな方向転換は相当苦労するものですが、福田監督は、見事にギャグと男気とアクションと友情がすべて入ったシナリオを書き上げて来て、正直脱帽です。結果を見てもそうですが、あそこでの監督の判断は正しかったと思います。しかも、シナリオで「こんなに面白いものが上がってきた」と思っていたら、現場でまた面白くなって、アフレコでまた面白くなり、さらにダビングでも面白くなる(笑)。ひとつひとつのプロセスでどんどん笑いが乗っかっていくのが福田監督の本当にスゴイところ。最初のラッシュ(=CG処理やアフレコ前の未編集の映像)を観る時は、私自身がすでに気分はお客さんで「やった!『銀魂2』を一番先に見れるぞ」ってわくわくしていました(笑)。

そして、この作品で忘れちゃいけないのが、何といっても小栗旬さんの存在。みんな言っていますが、小栗さん自身がイコール"銀さん"なんですよ。男気があって後輩の面倒を見て、いい具合に力が抜けていて(笑)。嘘をつかずに、たまに熱くて。彼が主演だから、だからこれだけ主演級の役者が集まる作品を作ることが出来た。彼が"頭"じゃなかったら絶対に集まらなかったキャストですよね。

――小栗さんが主演であることがヒットの要因であることはもちろんですが、最近はネットを通じて様々な情報を得たり情報交換が出来るようになったことから、「監督がこの人だから見たい」「脚本がこの人だからきっといい本」など、見る側の選択肢もどんどん変化しているように思います。

確かに、スニークプレビューの試写をやったデータでも、原作ファンやキャストファンと同じくらい福田監督のファンが多くて(笑)。福田監督作品だから見に来た、と言うのは監督が他の映画やテレビドラマ、舞台やミュージカルでもお客さんの期待に答え続けてきたからだと思います。

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――それらを踏まえた上で、これからの日本の映画界はどう変わっていくと思われますか?

日本の映画界を語る立場にないので、自分がこれから作っていくものと言う方向性で言うと、これまでのテントポール戦略の見直しを迫られていると感じています。テントポールとは、テントの支柱のように目立つハリウッドの大作映画のことです。これまでは、売れている少年コミックを破格の予算をかけて実写化して、CGやアクションもふんだんに夏休み映画やGW映画として公開して、1作目が成功したらフランチャイズ化する、ということを最優先にして来ました。ただ、他社さんを含めてうまく行っているのは『るろうに剣心』と『銀魂』の2シリーズしかなく、打率が悪くなってきています。少女コミック原作の実写化も同様に決まったパイを多くの作品が取り合うようになって、一切れがどんどん小さくなって来ている。もちろん今まで通り「強いコミック原作を実写化する」というやり方もしつつ、別の方法も模索しないとダメだなと・・・。

ただ、別の方法と言うのは、すべてのイノベーションがそうであるように最初から頭で考えてできるわけではなく、突然起こった予期せぬ成功とか失敗とかにそのタネを見つけていくしかないと。今年で言うと『カメラを止めるな!』から何を見つけられるか、かもしれません。売れている原作に実績のある監督、人気のあるキャストと言うように足し算で積み上げていくと言うこれまでの「マーケィング戦略」の企画の立て方から、シナリオと言う最終成果物の青図からの逆算、と言う発想の企画も試してみたい気もします。

いずれにせよ、お客さんは圧倒的なカタルシスを持って劇場を出ていきたいというのを感じているので、2時間の上映時間で満足させるということが、原作があろうとなかろうとより重要になって来ていることを感じます。

――ところで、原作の空知英秋先生からは映画を見た感想のような言葉はありましたか?

先生はお忙しい方なので直接お会いする機会はなかなかないのですが、ビジュアルブックに寄せていただいた「まるで10年くらい毎年万事屋をやっているような」というコメントを読んで、認めてくださっているのかなってホッとしました。

――それは嬉しいですね。

いろんなことがお客さんに透けて見えちゃってるこの時代、原作者の方が「監督がこんな風に素晴らしい作品にしてくれて」「主演の小栗さんに演じていただき銀さんが生き生きとスクリーンで暴れています」とか、当たり障りのない言葉は、誰にも響かないですもんね。

だから前作の『銀魂』実写映画化の発表の時、みんなが「どうディスってやろうか」と身構えていたら、空知先生から「銀魂は、基本泥船(中略)それでも泥舟でもいいから銀魂に乗りたいと言ってくれた方々ですから、そんな人達の作るまた別の形の銀魂ならコケてもいいから見てみたいな、見てもらってもいいかなと思ったのが実写化をうけた僕の率直な気持ちです」というコメントをいただき、みんな上げようとした拳が笑って下がってちゃったみたいになったのは本当にありがたかったですね。「空知先生が言いたいことを言える環境で『銀魂』が作られているんだから、きっとあの世界観を守ってくれる」と多くの原作ファンが安心したと思います。気づいていらっしゃる方もいらしゃっると思いますが『銀魂2』のBack Numberが歌う主題歌『大不正解』の中にも「泥船」と言うワードが使われているんです。

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――今回、『銀魂2 掟は破るためにこそある』の公開を受け、映画『銀魂』とアニメ『銀魂』もパラビで配信されています。小岩井さんご自身は、配信への可能性は感じていますか?

もちろん!一番思うのは、福田雄一監督作品と配信の相性の良さですね。配信と言うオンデマンドな媒体で地上波のように時間や内容に規制がない映像を見ている人たちの好きな世界観が、福田監督の世界観と完全にマッチしているのを様々なデータから読み取ることができるし、その反響の大きさには正直驚かされました。

とにかく全力で笑わせてくれて、でも気が付くとゲラゲラ笑って見ている間にもホロッとしたりする部分もあって、最終的にすごい得した気分にもなる。そういう意味では福田監督の作品のように「求めているものが全部そこにある」作品を、配信であれば好きなタイミングですぐに見られる。今、エンタメを求めている人たちのライフスタイルにちょうどいい作品であれば、今後ますます配信にかける期待は高まっていくだろうなって感じですね。

(C)空知英秋/集英社 (C)2018 映画「銀魂2」製作委員会