TBSの火曜ドラマ『義母と娘のブルース』では、ポスタービジュアルと連動させた"名刺交換企画"という新たな試みが行われた。これは名刺管理アプリ"Eight"とのコラボから生まれた企画で、綾瀬はるかが演じる主人公・岩木亜希子と名刺交換ができる、というものだ。

この企画の担当者であるTBS宣伝部の川鍋昌彦氏に、これまで手掛けたドラマの話題も交えて、プロモーションの変化と未来について語ってもらった。

発信して終わりではなく、巻き込んでいけるかがポイント

――宣伝といえば、以前はポスターを貼ったり番組名の入ったノベルティグッズを配るというのが主流でしたが、ここ数年で変化はありますか?

確かに5~6年前までは「莫大な広告費を確保して露出したもの勝ち」みたいな流れがありましたが、今は話題を作っていくという方向にシフトしてきているなと感じます。一番分かりやすい変化は、電車の中吊広告をあまり出さなくなったこと。乗客はみんな手元のスマホ画面を見ていますからね。同じような理由で、屋外広告も一時期に比べてかなり出稿比率が少なくなっています。そのような人々のライフスタイルの変化の中で、より身近なものの中に接点を作るには、どうしたらいいか考えるようになって来ていますし、奇抜なアイデアそれ自体が記事になるということも意識します。SNSなどで記事を読んだ人が「見てみようかな」と思ったり、家族や友達に話すなど自然と話題にしたくなるような内容を意識して発信するようにしていますね。

――「一方的に拡散して終わり」ではなく、読んだ人がアクションを起こしたり、周囲を巻き込むような宣伝方法に移行しているということですか?

なるべく広く巻き込んでいくため、今回の名刺交換企画のようなインタラクティブ(双方向)な部分も付けることで、ドラマが現実世界に出て来たように感じるでしょうし、逆に視聴者がドラマの内側に入りやすくなるのかなと思います。

――確かに、ドラマの中に出て来る名刺が自分の手元にあると親近感が湧きますね。宣伝としてアイデアが大事というのは分かりましたが、川鍋さん自身は"仕掛ける側"として常日頃意識している事は何かありますか?

これは様々な業種で言えることですが、世の中に対して常にアンテナを立てておくことを心掛けています。新しいテクノロジーが出てきたら他社に先駆けて使いたいけれど、逆に早すぎてもいけない。Eightにしても、運用がスタートしたばかりのタイミングではなく、登録数が200万人を超えた今のタイミングだから上手く行ったんだと思っています。その熟成度合いを見きわめないとダメなんですよね。

――今までの経験と、そこで養った勘と、常に張り巡らしているアンテナとのバランスが大事ということですね。

それが噛み合った時に、「いい企画」と言われるものが生まれるような気がします。

――例えば、今まで挑戦して上手くいった例だと、どんなものがありますか?

印象的だったのは日曜劇場『陸王』でやった田んぼアートですね。ドラマの舞台である埼玉県行田市は田んぼアートが有名で、2017年が田んぼアートをスタートして10周年の年ということでコラボさせていただくことになり、主演の役所広司さんの顔と「日曜劇場『陸王』」の文字を描いていただきました。

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――先ほど、「宣伝は時間との闘い」とおっしゃっていましたが、これは"稲が育つ"というとても長い期間が必要なのでは・・・?

『陸王』に関してはちょっと特殊で、元旦に開催される駅伝シーンを撮影する関係などから前年からもう動き始めていて、情報解禁も早く、宣伝にも時間をかけることが出来たんです(笑)。ランナー役の竹内涼真さんには田植えをしてもらったり、稲が育つまでの過程も展望台から見ることができるので皆さんに楽しんでいただいて、完成時にはかなりの数のお客様が見に来てくださったと聞いています。

もちろん毎回上手くいくわけではなく、反応が鈍かったものもありますが、原因を分析し、反省材料として次に生かすことで精度が上がっている感じは自分の中にありますし、部署内で共有することが「TBSの宣伝は"何か"やるぞ」みたいな空気につながっているんだと思います。

――部署内ではマメにスタッフ同士で情報交換をするようにしているんですか?

部の方針として「新しい事をどんどん仕掛けていきましょう」「挑戦する人を応援しましょう!」という、いい空気があります。もうひとつ最近変化を感じるのは、制作の人たちが相談をしに来るタイミングも早くなってきたように思います。「宣伝部に相談に行けば"何か"やってくれるはず」「そのためには時間が必要だ」という考えになって来ているような気がします。まぁその分成果を出さないと「期待はずれじゃん」となるわけですが(笑)。

――好発進し、益々好調の火曜ドラマ『義母と娘のブルース』ですが、視聴者からの反響は宣伝部にはどのように届いていますか?

今までヒットしたドラマに関わった経験から感じるのは、ある程度の数字を取る作品は必ず意図してなかった人から「あれ、おもしろいね」って言われるんですよ。私はよく「風が吹く」という言い方をするのですが、世の中がちょっとザワッとしている感じとでも言いますか・・・。今後ますます波乱の展開になりますが、もっと追い風を感じるようになると嬉しいですし、そうなる予感がします。

――最後に、視聴者へのメッセージをお願い致します。

宣伝的部分で、まだまだやっていこうと思っていることがあるので楽しみにしていてください。引き続き名刺の行方も見守っていただければと思います。

(プロフィール)
川鍋昌彦(TBSテレビ 編成局宣伝部・宣伝プロデュースグループ 兼 総合戦略局総合編成部)
CG(コンピューターグラフィックス)関連の仕事を経て2012年に宣伝部に配属。
日曜劇場『半沢直樹』(2013年7月)、『LEADERS』(2014年3月)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年4月)、『天皇の料理番』(2015年4月)、『下町ロケット』(2015年10月)、『99.9刑事専門弁護士』シーズン1(2016年4月)・2(2018年1月)、『A LIFE~愛しき人~』(2017年1月)、『LEADERSⅡ』(2017年3月)、『陸王』(2017年10月)ほか、現在放送中のドラマ『義母と娘のブルース』などを担当。

火曜ドラマ『義母と娘のブルース』は、毎週火曜夜10:00よりTBSにて放送。

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