いつの時代も、青春ドラマは人の心を打つ。特に2000年以降目立つのが、スキルも経験もない素人集団が力を合わせて何かひとつのものを表現するといった類いの青春ドラマだ。そのパイオニアとなったのは、やはり『ウォーターボーイズ』(フジテレビ・2001年~2005年)だろう。2001年に妻夫木聡主演の映画版が公開。そのヒットを受け、2003年に山田孝之主演で連ドラ化、さらに翌年の2004年には市原隼人主演で再び連ドラ化された。
以降、映画の世界では『スウィングガールズ』(2004年)、『フラガール』(2006年)、連ドラでも『ダンドリ。~Dance☆Drill~』(フジテレビ・2006年)、『タンブリング』(TBS・2010年)、『表参道高校合唱部!』(TBS・2015年)と定期的にこうした青春ドラマはつくられ続けてきた。
そして2018年、"平成最後の夏"と謳われ、否が応でもエモさの際立つこの夏に、爽快な感動をもたらしているのが、TBSの金曜ドラマ『チア☆ダン』だ。
本作は、2017年公開の映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』の続編的作品。普通の女子高生たちがチアダンスに挑戦し、成長していくという世界観はそのままに、時代設定を映画から9年後、さらに舞台を福井中央高校から福井西高校に移し、結成したばかりのチアダンス部「ROCKETS」が、全米選手権5連覇を果たす超名門・福井中央高校「JETS」を倒して、全米制覇を目指す青春エンターテインメントだ。
この『チア☆ダン』、毎回悔しいくらいについ泣かされてしまう。今回はいい年をした大人の心を熱くさせる『チア☆ダン』の魅力について語ってみたい。
■DNAが反応する『チア☆ダン』の青春ドラマとしての王道感
まず『チア☆ダン』がこれだけ気持ち良く泣けるのは、フォーマットの強さにある。主人公の藤谷わかば(土屋太鳳)は幼い頃から「JETS」に憧れていたが、受験に失敗。同じように小さい頃から一緒にチアを踊ってきた姉のあおい(新木優子)は夢を叶えて「JETS」でセンターを務め、全米制覇も果たすなど、すっかり遠い存在に。完璧な姉を尻目に、わかばは何でもすぐにあきらめるコンプレックスの塊になっていた。
そんなわかばを変えたのが、突然現れた東京からの転校生・桐生汐里(石井杏奈)。打倒・「JETS」を掲げ、チアダンス部設立に向けて猪突猛進する彼女に感化されていくうちに、わかばは本来の前向きさを取り戻す。
コンプレックスの強い主人公が少しずつ成長していくというプロットは、青春ドラマの王道中の王道。そんな主人公を変えるのが、ちょっと強引な転校生というのも定番だ。当初はチアダンス部設立に反対するも、一転して仲間に加わる真面目な優等生・桜沢麻子(佐久間由衣)や、一匹狼の柴田茉希(山本舞香)も、こうした部活モノには欠かせないキャラクター。恐れることも、奇をてらうこともなく、『チア☆ダン』は王道を突き進んでいる。
王道というのは、強い。私たちのDNAには、これまで数々の青春ドラマが築き上げてきた王道がしっかりと組み込まれている。だからこそ、真っ正面から王道を貫かれると、細胞が自然反応するのだ。
■スポットライトなんかなくても、少女たちは自らまばゆい輝きを放つ
たとえば、第4話。スポットが当たったのは、茉希だった。協調性のない茉希は「ROCKETS」内でも孤立気味。言葉も態度もそっけなく、つい他のメンバーと対立してしまう。実は茉希は中学時代に唯一の親友に裏切られ、以来、人を信じることができなくなっていた。そんな過去の傷を乗り越え、「ROCKETS」の一員として一歩踏み出すまでが、第4話のアウトライン。
一時は退部寸前だった茉希。冷静に考えれば、ここで部を辞めるわけはないし、ちゃんと戻ってくるのはわかりきった話だ。でも、そんな斜に構えた態度は、こうした王道の青春ドラマにおいては野暮というもの。みんなが待ちわびる中、扉を開けて茉希が部室に帰ってきた瞬間。目を合わさず、ぶっきらぼうに「ごめん・・・振り考えてきた」とつぶやいた瞬間、自然と胸が熱くなる。みんなでおそろいで出すと決めた額を恥ずかしそうに手で隠しながら、目を潤ませ、輪の中に入っていく茉希に、娘を見守るような気持ちになる。
そこからのダンスシーンの輝きは、眩しすぎて直視ができない。ステージは、シャッター商店街がつくった即席舞台。立派なセットも派手な照明も何もない。だけど、はち切れんばかりの少女たちの笑顔は、どんな名演出家でも再現できない特別な魔法。THE BLUE HEARTS の名曲『人にやさしく』に乗せて「がんばれ!」とエールを送られると、疲れた身体も荒んだ心も全部吹き飛んでしまう。
チアダンスの特色は、たとえライバルチームであっても、必ずエールを送ること。互いに応援し合うのがチアの文化だ。『チア☆ダン』もそう。がんばる彼女たちを応援しながら、自分も応援してもらっている"エールのスパイラル"が生まれるドラマなのだ。
■漆戸太郎が証明する、大人だって青春できること
そしてもうひとつ『チア☆ダン』の魅力を語るとすれば、青春は決して10代の専売特許ではなく、大人だってキラキラできるんだと教えてくれることだ。それを一手に担っているのがオダギリジョー演じる漆戸太郎だ。
漆戸は、かつては教育に熱意を燃やしていたが、ある事件により教育者としての自信を失ってしまった、うだつの上がらない中年教師。それが、「ROCKETS」との出会いによって、もう一度、輝きを取り戻していく。
近年、部活モノを描くのは難しくなってきた。教師のブラックな就労実態が社会問題化し、時として部活はその諸悪の根源として語られている。だが、『チア☆ダン』ではこうした社会の空気も敏感に取り入れながら、それでも時に昼夜や損得を忘れて何かにのめり込むことは、本来的なQOLの向上においても大切なことだと教えてくれる。その証拠が、漆戸自身の変化だ。最初は生徒とコミュニケーションをとることさえ覚束なかった漆戸が、次第に「ROCKETS」を陰日向に支え、導いていく。その表情は、初回とはまるで別人だ。
そんな漆戸を見ていたら、たとえ一度躓いても人は立ち上がることができるし、たとえ家庭を持っても、中年になっても、人はいつだって青春のときを過ごせるのだと再確認させてくれる。どんどん頼もしくなる漆戸の背中に勇気をもらっている視聴者も多いだろう。
『チア☆ダン』は、「ROCKETS」と同世代や年下の子どもたちが見れば、こんな青春を過ごしてみたいと憧れを抱き、高校時代という限られた時間を卒業した人たちが見れば、まだまだ自分たちだって負けていられないと奮起する超王道青春ドラマ。「ROCKETS」の放つ夢への軌跡は、この夏、多くの人たちを熱くさせてくれるはずだ。
金曜ドラマ「チア☆ダン」(C)TBS
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