ついに最終回を迎える中谷美紀の主演ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS 毎週金曜夜10:00~)。は、"落ちてはいけない恋"に落ちてしまった2組の夫婦の生活を、リアルかつコミカルに描いたハラハラドキドキのストーリーや、100人以上の女性へのリサーチを行った「夫婦のあるあるネタ」「女性のホンネ」が満載の話題作だ。

中谷美紀演じる結婚13年目の主婦・真弓と、玉木宏演じる住宅販売会社のサラリ-マン・秀明の佐藤家。一方の那須田家は、ユースケ・サンタマリアがモラハラ夫・太郎を演じ、完璧な主婦として暮らしてきたが、秀明との出逢いに運命を感じ惹かれていく綾子を木村多江が演じている。

対照的な2組の家族が暮らすそれぞれの"家"について、美術スタッフの青木ゆかりさんと、串岡良太郎さんに"こだわり"や"裏話"をたっぷり語ってもらった。

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目立たず、役者の芝居に集中して見ていただけたら、美術としては成功

――ところでセットを作る場合は、どのくらいの時間がかかるものなのでしょう?例えば佐藤家の場合だと、何日くらいですか?

青木:「"どこ"をスタートとして考えるか」で、だいぶ違います。台本を読み始めた時からもう頭の中では考え始めていますし・・・。

串岡:建物外観のロケハンは今年の1月末に行われたので、なんだかんだで数ヶ月単位ですよね。

青木:いろんな作業があって、それらが決まるのが結局ギリギリなので、具体的に家の図面が引けてからと考えるならば1ヶ月弱ぐらい?皆さんが想像する、トンカントンカン叩いてセットを建てる作業になると、10日ぐらいでしょうか。それでもTBSは現場で組み立てられるように、ある程度まで基礎を作ってから資材を運び込むようにしていて、スタジオで1から建てるわけではないので、10日はかなり早い方ですね。

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――話は脱線しますが、お二人はなぜ美術の仕事に就こうと思ったのですか?

串岡:僕が将来の夢として意識するようになったのは、中学生の頃です。

――もともと、ドラマが好きだったのですか?

串岡:ドラマではなく、入り口はバラエティ番組でした。大好きなバラエティ番組のデザインをやりたかったんです。もともと絵を描くのが好きで「テレビの美術っておもしろそうだな」と思ったのが最初なんですけど、そのまま美術を学ぶための大学に進学し、2014年に今の会社に就職しました。研修期間にドラマの現場を経験した際に、ドラマのデザインの面白さを知りました。演出スタッフと話しながら、役者を動かすキーになる部分を作るのが、美術。それを組み立てられるって、なんて面白くてやりがいがあるんだろうと思って。デザイン要素が強いのはバラエティ番組ですが、ドラマは視聴者が見て違和感を持たないよう、どれだけ"普通"に作れるかが重要なんです。

青木:実際に経験してみないと、傍から見ているだけでは分からないよね。

串岡:本当にそのとおりです。例えば、台本に書いてある「玄関からリビングに移動してソファーに座る」という単純な動作も、廊下の長さやリビングのどこにソファーを置くか、最初に決めるのが美術の仕事だということを、自分がドラマに関わるようになって初めて知りました。あと、セットを作ったからといって、それですぐ撮影が出来るわけではなく、照明さんが自然な明かりを作って当ててくれることで、そこに空気が流れたり、湿度や温度が感じられるようになり、やっとひとつの空間が完成するんです。結局、"共同作業"なんですよね。

――そういったことも、照明チームやカメラチームと話し合って?

串岡:「ここの距離がどれだけほしい」とか「ここの位置から撮りたい」などの注文があれば、壁を外せるように工夫したり、いい画を撮るために、常にコミュニケーションを取るようにしています。

青木:セットの中は、カメラが移動することを考えて、最初からちょっとずつ広めに作ってあるんです。カメラマンが中に入って撮影するのにちょうどいい、でも違和感を持たない広さというのは、長年の経験で無意識に染みついています。

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――青木さんがお仕事を始めた頃は、まだ女性の美術スタッフは珍しかったのでは?

青木:ドラマのデザイナーとしては、私が女性で初だと聞いています。今では、各局に女性の美術スタッフがいますけれど。私が仕事を始めた頃、周囲は男性スタッフばかりでしたが、女性の部屋やキッチンなどの家庭的な部分のセットを作った時、「やっぱり女性のデザイナーが作ったものってフィットするよね」と言っていただいたんです。貴島誠一郎プロデューサー(代表作『ずっとあなたが好きだった』1992年、『愛していると言ってくれ』1995年、ほか)や、八木康夫プロデューサー(代表作『パパはニュースキャスター』1987年、『真昼の月』1996年、ほか)に可愛がっていただき、起用していただいた経験から、多くを学ぶことが出来ました。世の中の人が思っている"デザイナー"の仕事以上に、"ドラマのデザイナー"の手掛ける作業は範囲が広いんですよ。

――それだけに責任重大ですね。

青木:昔、ある役者さんに「役者と、デザイナーが作ったセットという背景だけが画面の中に映っているんだから、責任は同じだよね」と言われて「なるほど!」と思ったことがありました。その方は「僕の演じる役がここに住むのだから、持っているお金やキャラクターの生き方が、あなたのセットで初めて視聴者にわかって、そこからお芝居が始まるんだよ」と教えてくれたんです。それだけ重要な仕事だと理解してくださっている方々に、厳しくも情熱をもって育てられてきたんだなと感謝しています。

――ドラマ『あなたには帰る家がある』では、"普通""身の丈に合った生活"というワードが出てきましたが、そういう意味でも佐藤家のドラマのセットは、住んでみたい、住みやすそうな家だなと感じます。

青木:私自身がリアリストで悪目立ちしたくないタイプなので、こうなってしまうんでしょうね(笑)。もちろんドラマの内容によっては、「夢がある家がいい」「個性的な部屋にして」などのオーダーがありますし、いろんな人の意見や考えがありますが、私は地に足がついちゃうので、セット的にはあまり面白くないと思います(苦笑)。わざわざデザインが入っているようには思えないかもしれないけれど、逆に、「セットで撮影している」とバレるようではダメだし、特にこういう家庭をテーマにしたドラマでは、ストーリーを邪魔するような目立ってしまう物があるのは良くない。役者さんたちのお芝居に集中して見ていただけているのであれば、それだけで美術としては成功なんですよ。たまに「どこを作ったの?」と言われますけれど「いやいや、これ全部作ったんだよ」って(笑)。

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――そうなったら、青木さん的には「よし!」ってなるんですね。最後に、ドラマタイトルの『あなたには帰る家がある』にかけて、お二人にとっての"家"とは何かを教えてください。

串岡:"リセットの場所"ですね。仕事を1回リセットできる場所です。

青木:リアルに言うと、私は出来れば家から出たくないぐらい、自分の家が一番好き。今までドラマですごい数の家を作ってきたので、あまり人の家には興味がないんですよね。

(一同、爆笑!)

青木:"大切な場所""帰れる場所"であることが、その人にとっての"家"なんだと思います。

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