「ギャラクシー賞3月度月間賞&年間賞」ならび「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」(作品賞ほか4部門)を受賞したTBS系連続ドラマ『アンナチュラル』。動画配信サービス「Paravi(以下パラビ)」でも、人気ランキングの上位に名を連ね、放送後も愛される作品として定着しつつある。そこで今回、本ドラマの脚本を手掛けた野木亜紀子さん(以下、敬称略)に、受賞の喜びや作品が生まれるまでの苦労、さらには脚本家の醍醐味などについて話を聞いた。

本ドラマは、『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)』(パラビで配信中)などのヒットメーカー・野木の完全オリジナル脚本を石原さとみ主演で映像化した法医学ミステリー。死因究明のスペシャリストが集結した「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、石原演じる法医解剖医が、個性豊かなメンバーたちと"不自然な死(アンナチュラル・デス)"を遂げた人間の死に向き合うことによって現実世界を変えていく姿を描いている。

――ギャラクシー賞、そしてコンフィデンスアワード・ドラマ賞受賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。ギャラクシー賞の(月間賞のみならず)年間賞までいただいたのは驚きました。連ドラで賞に入ったのは『アンナチュラル』だけだったので。スタッフ、キャストの皆さんの力があったからこそ受賞できたという思いが強いです。また、コンフィデンスアワードで石原さとみさんが主演女優賞を、井浦新さんが助演男優賞を受賞したことも本当に嬉しかったです。

――皆さんで受賞のお祝いなどはされましたか?

受賞祝いではないのですが、クランクアップの打ち上げとは別に、放送終了後にも打ち上げをやりました。今回は早撮りだったため、撮影は去年のうちに終わっていたんです。放送時にはみんなもう次の作品に入っていて、そういう場合は集まりが悪いものなんですけど、劇団新感線の舞台に出演中だった竜星くんを除いてレギュラー全員が集まったので、これには驚きましたね。ドラマの評判が良かったし、辛かった撮影の記憶も遠のいていたので、すごく盛り上がりました。

――今回の受賞は、どの辺りが評価されたと思いますか?

それは、私が聞きたいくらいですが(笑)。ただ今回は、キャラクターにおいても、物語の展開においても、自分が「観たい」と思うドラマを作ることができたかな、という手応えはありましたね。あくまでも、自分の中での思いですが。

――法医学ドラマを作ることになった経緯は何だったのでしょう。

TBSさんから「女性を主人公にした法医学ドラマを作りませんか?」というお誘いがあって、きっかけはそれだけです。あとは「自由に書いてください」と(笑)。法医学系ドラマはたくさん作られているので、さて、どうしようか?と考えた時に、これまでの法医学ものは、事件性のない遺体しか扱わない「監察医務院」と、事件性のある遺体しか扱わない「法医学教室」のどちらかで、現実にある組織が舞台でした。でも、それだと、物語が苦しくなるなと思っていて。例えば「監察医務院」を舞台にすると、例外的に司法解剖に切り替えることって、設定として無理があって大変なんですよね。現実的には年に2、3回のケースなのに、ドラマでやると「え?また司法解剖なの?」ってなってしまって、なかなかリアリティを保つことが難しくなっていくんです。

――『アンナチュラル』の舞台となった「不自然死究明研究所(UDIラボ)」は架空の組織ですよね。

そうなんです。私としては、「監察医務院」と「法医学教室」の両方の要素を取り入れたものをやりたかったので、架空の研究所を設定することにしました。その方が、どちらの内容も扱えるし、架空だからこそできることもあって物語にも幅が出るなと。特に、日本の今の法医学はいろいろな問題をはらんでいるので、そういう現状の中で「理想の研究施設」という設定を持ち込めば、"お仕事ドラマ"としても面白くなるんじゃないかなと思ったんです。

――法医学のリサーチはどのくらいされましたか?

昨年の年明けから始めて、ひたすら資料を読んだり、法医学の先生に実際に会いに行ったり、とにかく地道にリサーチしました。監修として現役の先生がつくので、相談をしたり、事実確認をしたり、時にはアイデアを求めたりもしました。ただ先生も、司法解剖もあるし、授業もあるし、論文も書かなきゃいけないしで、全く時間が取れなくて。1回の相談につき1時間とか、そういう感じでしたね。だから、決められた時間内に少しでも多く聞き出そうと必死でした。完全にインタビュアーの気持ちです(笑)。どうしゃべらせるか、そこがポイントでしたね。

――ということは、架空の研究所とはいえ、先生からのアドバイスがかなり反映されているわけですね。

もちろん、そうです。やはり現実的なラインまできちんと詰めていかないと、フワフワしたドラマになってしまうので。ただ、あまりにも現実に則してしまうと盛り上がりに欠けるので、エンタテインメントとリアリティのバランス、そこが一番難しかったですね。あとはどう情報を削って、スピード感を出しながら、必要な説明をどう消化して面白く見せるか。ここはかなり神経を使ったところです。

――出演者もキャラクターにハマっていましたね?

石原さとみさん、井浦新さん、市川実日子さん、窪田正孝さん、松重豊さんの5人は、彼らを想定しつつキャラクターを作って、演出家、プロデューサー含めて話し合いながら決めていった感じですね。チームものは"バランス"が一番大切なので、そういう意味では、バラエティに富みながらも、とても優秀な役者さんたちに集まっていただけてよかったです。

――石原さんが"アンナチュラル"ではなく"ナチュラル"で凄くよかったです。

事件ものって、どうしても主人公のパターンが「一風変わった天才」か「怒られながらも必死にがんばる新人」が多いんですが、今回はそのパターンを崩して「有能で仕事ができる"普通"の人」にしたいという思いがありました。ただ、そうなると、受け芝居の多い地味な主人公になってしまう恐れがあるので、配役が難しいなと。でも石原さんならば、普通にしていても華があるから成立するんじゃないかと。やはり"死"を扱うドラマなので、暗くなっちゃうとダメなんですよね。相棒の市川さんと女子2人をいかに楽しそうに見せるか、その辺りは意識していました。

――バランスもそうですが、スピード感もありました。脚本を書く上で、何か工夫されたところはありますか?

推理ドラマの多くは、まず、事件の捜査パート、次に主人公のシンキングタイム、そして解決パートという流れなんですが、今回はそういったものをやりたくなかった。どちらかというと、海外ドラマのクライム・サスペンスみたいにしたかったので、解決パートを作らないというか、「クライマックスで事件説明を一切せずに済む物語構成」にこだわりました。視聴者を置いていくぐらいの勢いがあっても、意外とついていけるんですよね。流れでいつの間にか理解できているし、話の"肝"さえ分かればなんとかなると(笑)。そういった点では、演出家の皆さんも、いかにわかりやすく見せるかという点に気を使って、うまく表現してくださいました。

――脚本で一番大切なことは何でしょう。

私が教えてもらいたいくらいですが(笑)。個人的には、脚本家は作品を作る上での設計者だと思っています。映画はその最たるもの。ドラマはある程度、台詞で進められるところはありますが、やはり構成が命。頭の中でうまく組めてしまえば、そのあとはシーンと台詞で起こしていけばいいので・・・。うん、そうですね、構成が一番苦しくて、最も大切な作業だと思います。

――『アンナチュラル』はオリジナル、『重版出来!』『逃げ恥』は原作もので、それぞれ脚本を書かれる苦労や醍醐味はあると思いますが、今後はオリジナルにこだわりたいとか、何かご自身の中で思いはあるのでしょうか?

面白ければどちらでもいいんですが、特に原作ものに関しては、映像化することの「意義」が欲しいですよね。例えば『空飛ぶ広報室』。あの作品は、実際にブルーインパルスが飛ぶ場面なんかは映像の方が強い。『重版出来!』の場合は、オリジナルで漫画界をドラマ化しようとしても、なかなか漫画家さんの協力を得ることは難しかったんじゃないかと思いますが、漫画原作だからそうそうたる方が協力してくれるわけで、オリジナルでは絶対に成し得ないドラマです。『逃げ恥』は、描いているテーマが現代的で、いま広めるべき作品だと思いました。そうした、何らかの意義がなければ、『実写になんかしないで原作を読めばいいじゃない、それが一番面白いんだから』となってしまう。

結局、オリジナルにしろ、原作ものにしろ、今、放送するドラマとして意義があるかどうかが、企画を選ぶ、あるいは企画を立てる時のポイントだと思っています。あと単純に「ドラマとして面白いかどうか」や「自分がそのドラマを見たいかどうか」を大切にしています。

――今、動画配信サービスが発達し、テレビ以外でも気軽にドラマを見ることができるようになってきました。野木さんも、パラビをかなりご活用いただいているそうですが・・・。

先日、中学校を舞台にしたUFOものの学園ドラマ『もしも、学校が・・・!?』をパラビさんでやっているのを見つけて、1人で盛り上がってしまいました(笑)。1980年代の古いドラマなんですが、当時VHSで全部録画していたんです。また観ることができて嬉しかったですね。ドラマの中に出てくる宇宙人からの英語のメッセージをメモして覚えたくらい好きだったので。小学生の時の話ですけど。
やっぱり、TBSさんやWOWOWさん、テレビ東京さんの名作ドラマって面白いものばかりだから、これを一挙に観られるってすごくお得だなと。もともとは植田プロデューサーと堤幸彦監督の『ケイゾク』『SPEC』に連なる新作の『SPECサーガ完結篇「SICK'S 恕乃抄」』を観たくてパラビに加入したんですが、探していた昔の名作も観ることができるので、私を含め、ドラマオタクにとってはたまらないと思います(笑)。

動画配信サービス「パラビ」では、野木亜紀子作品の中で、以下5作品を配信中。

◆パラビで配信中の野木亜紀子作品
『アンナチュラル』
『重版出来!』
『逃げるは恥だが役に立つ』
『空飛ぶ広報室』シリーズ(一部無料あり)
映画『アイアムヒーロー』(レンタル配信)

『アンナチュラル』(C)TBS