2018年4月期ドラマとして、テレビ東京に誕生した「ドラマBiz」。"働く"をテーマに、大人へ向けた上質で本格的なビジネスドラマの第1弾として放送が始まったのが『ヘッドハンター』だ。出演者には、江口洋介、小池栄子、杉本哲太といった"経済"に強いテレビ東京を象徴するような顔ぶれが集結。

このドラマ新枠の誕生について、『ヘッドハンター』のプロデューサーである稲田秀樹に聞いた。自身も転職者である稲田は、どのようにこのドラマの考案にたどり着いたのか?また、稲田が感じているテレビの未来とは?

――テレビ東京さんで、「ドラマBiz」がスタートしました。この、ドラマ新枠を誕生させるきっかけについて教えてください。

もともと、僕は他局系列の制作会社におりまして、2年ほど前にご縁をいただいてテレビ東京に移籍してきました。個人的な勝手な思いとして、新しい環境で、新たな挑戦してみたいと考えていましたが、移籍して早々に、水曜ミステリー枠が閉じられることになったり、年末年始にやっていた時代劇枠もなくなることになったりと、劇的な変化がありまして・・・。
この先、どうしようかなと思ったんですが、逆に考えれば、空いた枠をうまく使えば更に新しいことができるんじゃないかと地道に社内運動を始めてみたら、実は会社上層部がすでに同じ考えで動いていた(笑)。

――テレビ東京さんというと経済報道番組やバラエティが強いイメージがあります。

そうなんです。報道番組やバラエティ番組が原動力、推進力となって局のパワーを得てきたように思います。一方ドラマは、この数年で随分と注目していただけるようになってきましたが、まだまだ歴史が浅い。僕も、外から見ていた時はとても面白いものを作っている「集団」だなと思っていたんですが、中に入ってみると、組織上はまだ小さい存在だと分かりました。でも、戦略的に報道、バラエティに続いて、ドラマを強化していこうという会社の動きもあり、そこに新しいドラマ枠を立ち上げるという企画が合致したんです。そこから試行錯誤が始まりました。

――そこで誕生したのが、この「ドラマBiz」なんですね。

やはり、ドラマというジャンルでは後発の局ですから、他の局にはない、強烈な個性がないといけないんじゃないかとディスカッションを重ねました。そこで「経済に強いテレビ東京」というブランドを"活かす"という発想で、ビジネスに特化した"働く"人たちをテーマにしようという考えが浮かびました。

――ビジネスと一口に言ってもいろいろな切り口がありますが、第1弾となる『ヘッドハンター』で"転職"を題材にされたのは?

これは、先ほども少し触れましたが、僕自身が転職者であることから発想した企画でした。僕が転職したのは2年ほど前になるのですが、勤め先を変えるということは、それなりに人生の大きな決断だったりすると思うんです。
自分自身の思いはもちろん、それ以上に家族や、同僚、一緒にやってきた仕事の関係者とか、いろんなところに影響が及ぶ。それって、小さいながらもすごくドラマティックなんじゃないかと。

これはひょっとしたらドラマになるんじゃないか?と思い、調べているうちに、ここ数年、転職にまつわるいろんなビジネスが活発になり、すごく伸びていることが分かりました。人によってケースも様々で、"今の日本のビジネスの一端を切り取る"という意味で、これはアリなんじゃないかなと。こうして「ヘッドハンター」にたどり着いたんです。ヘッドハンターって、普通に生活をしていたらなかなか出会う機会ないじゃないですか。そこも面白いなと。

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――転職にドラマ性があるというのは、とても分かる気がします。稲田さんご自身の転職には、どんなドラマがありましたか?

僕も振り返ると、いろいろありまして・・・。転職をしようかなと思った時、テレビ東京さん以外にも、声をかけてくださったところがあったんです。そこで、何気なく妻に相談したら「(その転職は)違うんじゃない?」って言われて。あまりの即答具合に驚いたんですけど。でも、自分自身も改めて考えてみて、結局その機会は見送ったんですね。
僕の人生はこのまま進んでいくのかなと思っていたところに、今度はテレビ東京から声をかけていただきまして。その時も、すぐ妻に相談しました。そうしたら、今度は即答で「あなたが行きたければいけばいいんじゃない?」と(笑)。

――その基準はどこにあったんでしょう?

わからないんです(笑)。話している時の、僕の雰囲気とかを読み取っていたのかなあ。同じ相談でも、消極的、積極的、その加減を感じたのかもしれないけど、未だに謎です。でも結果、その通りになっているっていう・・・。

――ヘッドハンティングの声がかからなければ、奥様とその会話をすることもなかったですよね。

すでに確立されている環境から、新しい環境へ行った結果、どうなるのかは結果論で、その時はわからないですし、馴染めるか、馴染めないかといったリスクも大きいですよね。何が幸いするかわからないし、正解もない。そこを結ぶヘッドハンターは、とてもドラマティックな存在だと思うんです。

20180419_headhunterinadapinterview_04.jpg第1話場面カット

――出演者については、テレビ東京さんの経済番組の顔とも言える方々を稲田さんが"ヘッドハンティング"する立場になられましたね。

ドラマの既存の価値観とは、少し違った目線を入れたかったんですよ。この企画は"働くこと"をテーマにするけれど、組織や、人の話を大切にする日本人らしい考えをベースにするのではなく、型破りな主人公でもいいんじゃないか。
ドキュメンタリーではなく、あくまでもドラマなので、そういう発想からイメージを固めていきました。普通はやらないような勧誘方法や説得をするけれど、正しいと思っている企業と個人のマッチングを行うヘッドハンター。そうしたら、クレバーさとちょっとした不良性を持ち合わせた、かっこいい人物像が見えてきて。それが『ガイアの夜明け』の案内人でもある江口洋介さんに重なったので、お声がけさせていただきました。

江口さんは、僕が最初にAP(アシスタントプロデューサー)をやらせてもらった作品にも出てくださっていて、その後も何度かご一緒させていただいているんですが、不思議と僕の人生における節目節目にお世話になる役者さんなんですよね。

――江口さんは、これがテレビ東京さんでのドラマ初主演なんですよね。

テレビ東京のドラマで、しかもまだ何も実績のない新しい枠なのに、こんなビッグスターに声をかけていいものか・・・と恐る恐るお会いしに行ったんですが、江口さんは、それを逆にすごく面白がってくださったんです。「ヘッドハンター」という職業にもすごく興味を持ってくださりご快諾いただいたんで、すごくいいスタートがきれたた気がしています。

――新しいものを生み出すための"掛け算"が、すごくハマっている気がします。

そういうドラマになるよう、がんばりたいと思います。

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――また、この作品は新しく誕生した動画配信サービス「Paravi(以下パラビ)」でも配信が行われますが、稲田さんご自身は、テレビとネットの関係をどう見ていらっしゃいますか?

誰もが、この先の未来を知りたいと思ってるんじゃないでしょうか? 正直、僕も想像がつきません(笑)。ネットの台頭で、テレビのあり方が少しずつ変わってきているじゃないですか。この「パラビ」もそうですが、テレビがネットへと手を伸ばし、メディアとしてのあり方を模索している。一方で、それは自分の首を締めることになる可能性もある。その辺りのバランスが、この先どうなっていくのか・・・本当に予想がつかない。ただ、こういう混沌とした時って、新しいものが生まれる瞬間でもあると思うんです。

今、テレビを作っている僕らの世代ではなく、新しい世代の"スティーブ・ジョブズ的"な人が現れて、既存のメディアと配信をつなぐすごいソフトやコンテンツを生み出しちゃったり、それ以上に有望なメディアを作っちゃったり。思ってもみない方向に進んでいくかもという期待感はありますね。

――配信だからできることが、視聴者とテレビの新たな付き合い方を生むかもしれませんね。

きっと、今の皆さんの生活スタイルは、決まった時間にお茶の間にいて、ドラマを見るようなライフスタイルじゃなくなってきていますよね。僕なんかの世代は、まだ時間を合わせてお茶の間で見るという感覚が染みついているんじゃないかなと思うんですけど、子どもたちはまったく違いますから。すぐに部屋に戻って、スマホを見てる。

僕らは、そういう変化に合わせたソフトをうまく作って発信していかなければと思うんですけど・・・そんなすぐにスーパーアイデアは出ないので、求むポスト・ジョブズ(笑)!

ドラマBiz『ヘッドハンター』は、テレビ東京系列にて毎週月曜夜10:00放送。地上波放送後は、BSジャパンにて放送(毎週金曜夜9:00より)され、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信される。

20180419_headhunterinadapinterview_05.jpg第2話場面カット

◆放送情報
ドラマBiz『ヘッドハンター』第2話 4月23日(月)放送回
【出演者】
黒澤和樹 江口洋介
赤城響子 小池栄子
舘林美憂 徳永えり
及川百合 山賀琴子
武井恭平 岡田龍太郎
眞城昭 平山浩行
灰谷哲也 杉本哲太

<第2話ゲスト>
郷原泰三 高嶋政伸
柳井君秋 正名僕蔵
柳原貴子 小橋めぐみ
郷原翔太 前田虎徹

【あらすじ】
郷原泰三(高嶋)は、大手「大急グループ・ホールディングス」に勤める営業統括部長。まもなく役員というポジションではあるが、気分は浮かない。もともとパソコンメーカー「五陽テック」の社員だったが、ある時「大急」に吸収合併された。しかし"五陽DNA"は今も郷原の誇り。やり方が違う「大急」は居心地が悪いかった。生粋の「五陽」社員も少なくなり、郷原が心許せるのは、学生時代からの親友・柳井君秋(正名)ぐらい。

ところがそんな柳井に、ヘッドハンターの黒澤和樹(江口)が転職の話を持ち掛けていた。「五陽」時代のシステム開発実績トップの手腕を、あるIT企業が欲しがっているという。「新天地で存分に手腕を発揮してみないか?」カフェで黒澤が口にしたその言葉を、偶然耳にする大急の若手社員。すぐに報告を受けた上司の郷原は、旧知の赤城響子(小池)を呼び出して、黒澤の動向を探る。転職話をつぶすべく奔走し始める郷原。それは親友を手放したくない一心か?人材流出を防ぎたい己の保身か?郷原の妨害工作によって思わぬ横やりが入った形のサガス陣営。黒澤は、このピンチをいったいどう切り抜けるのか?

(C)Paravi
場面カット(C)テレビ東京