教える側と教わる側
引き続き、土岐、新宅、天明で「動物と教育」というテーマで語るテイダンの3回目。今回は教える側の先生のお話からスタートするのですが、いつしかそれはステージ上のミュージシャンとリンクしていきます。話はさらに深まっていきます。
第1回はこちら:【テイダン】土岐麻子×新宅広二×天明晃太郎:テーマ「動物と教育」第1回
第2回はこちら:【テイダン】土岐麻子×新宅広二×天明晃太郎:テーマ「動物と教育」第2回
教育はサービス業である
天明:新宅さんが思う教育ってどんなものですか?
新宅:学校の先生的なことを言ってしまうと(笑)。教育とは何がしかの達成目標というものが設定されていて、全員ある一定の基準まで押し上げるという仕事なんです。そうじゃないものは、サービスになっちゃうんです。例えば、できる子だけ教えたり、カルチャーセンターみたいなもの。全員できるようにするのが教育です。小学校出たら足し算は全員できるようになっているとか、ある一定の漢字が書けるようになっているとか。漏れなく。一人でも漏れちゃいけない。そういう意味で小学校の先生は本当にすごいと思います。
天明:きっちり全員に理解してもらわないといけないわけだから、小学校の先生はやっぱり大変ですよね。
新宅:大学の先生なんて一番ダメで、目標を達成できなかったら学生のせいにすればいいわけですよ。勉強してないお前らが悪いってできる。でもやっぱり学びに来てる人を全員上げなくてはいけない。小学校の先生は、個々の能力や自分自身の理解能力、全体の空気感を見て諸々のパーソナリティーに合わせたり、最終的にうまく着地させるという、非常に高度な技術を必要としますね。そこに最近いろんな教育問題で親とか第三者がガチャガチャ入ってきちゃうから、すごくやりにくいんだろうと思います。
天明:土岐さんのお仕事ってサービス業だと思うんですよ。ライブハウスにいるお客さんを全員楽しませるというサービス。つまり、お客さんを全員持ち上げていく作業じゃないですか。教育はそれを完全に追求していかなきゃいけないんだけど、サービスはのらない人がいても仕方ない。若干、着地点が違うんだけど、エンターテインメントと教育って似てるのかなって。
新宅:そうですね。私の定義の中には教育の中にサービスも含まれている。だけど日本人は切り分けている感じで。ふざけちゃいかん、みたいな(笑)。楽しんだら眉間にしわ寄せる感じで言われちゃうじゃないですか。でも本当は、もうちょっと楽しんでいいはずなんですよね。
天明:新宅さんの授業って課外授業があるのはそういう理由からなんですね。
新宅:やっぱり楽しい方が頭に入ると思うんですよね。ストイックに何かを目指して1番を目指すということであれば、かなり汗かいたり痛い思いしないとなかなか難しい気はするんですけど、そうじゃなくて知識を楽しんだりするようなものはそこまでストイックにならなくても、面白くできると思うんですよね。
天明:おっしゃる通りですね。
新宅:実は保育士を育てる学校で教えていた時期があって。将来幼稚園の先生や保育園の先生になる若い子たちに、「身近な自然をどう子どもたちに教えたらいいか」を教える授業だったんです。そこの入学式の時に同じく講師で安田祥子さんが一緒にいて。
土岐:由紀さおりさんのお姉様ですね。
新宅:その安田さんが入学式でスピーチしたんです。そうしたらいきなり怒鳴って。すごいですよ、新入生に。「皆さん、あなたたち今日ここに来る前に何曲歌を歌ってきましたか?」ってすごく怖い口調で。みんなシーンとなって。「子どもたちを育てる仕事に就く人は、来る途中にどんな花が咲いていたとか、どんな虫が飛んでいたかという時にすぐ歌が出てくる人じゃないと困ります」って(笑)
土岐:すごい。
新宅:かっこいい!って。それ言ってみたいと思って(笑)。音楽で子どもの教育というのに特化して、安田さんが大事に思っているのはそこなんだなと思って。面白いですよね。そういう楽しい気持ちを子どもたちの前にいつでもパッと出せるかと。
天明:幼児教育において歌って教科書みたいなものですよね。春の気持ちはこういう気分ですよっていうのが歌になっていますもんね。
新宅:それが湯水のようにバンバン湧いて出てこないとダメだというんです。そういう仕事に就く人は。保育園児や幼稚園児にロジックを語ってもしょうがないじゃないですか。やっぱりその気持ちをぐっと歌で持ってくる。それを今から鍛えなさいと。私が感動したのは、生物学的にたしかに人間ってそれできるんだよなって。子どもたちの不安な気持ちとか楽しい気持ちを増幅させるようなもので、しかも歌の力で引っ張っていけるっていうのが面白いなって。そんなことする動物いないし。
天明:土岐さんもステージの上からお客さんの空気が自分の音楽で変わる瞬間って感じますか?あれは何なんでしょうね。
土岐:こっちが不安に思っている時はお客さんも不安な顔をしてたり。
新宅:あー、伝わっちゃうんですね。
土岐:音そのもので気持ちが変わって、ビートそのもので雰囲気が変わっていくっていうのももちろんありますし、演者のたたずまい、どんな気持ちでたたずんでいるかというところも写し鏡になっていますよね。それから自分の緊張をほぐすために、ちょっと派手に動いてみたり体を揺らしたりすると、お客さんも一緒になって動くんですね。「今日リラックスしてたよね」って後から言われたりするんですけど、実はそんなことなくて緊張して体を動かしてだけだったり。とにかくステージの自分を集中して見られていることは、私が思っているよりもみなさん私のことを探っているのかなという感覚がありますね。
天明:だからステージが教室で、歌い手は先生みたいなものですよね。この人から何を得られるかなと思ってお客さんは来ているわけだから。パフォーマーに反応してお客さんが盛り上がるのは、先生が黒板に書いたものを生徒達が板書するのと一緒だし。
土岐:そうですね。
新宅:やっぱり歌ってすごい面白いと思うんです。気持ちいいとか楽しいだけじゃないです。相手を悲しい気持ちにさせたりする負のパワーも持っているというか。
土岐:怖い音楽もありますしね。
新宅:人の心を引き出すそういう気持ちをその4分間だけ疑似体験するとか。これも動物はできない。めちゃくちゃ深いですよね。初期人類とかもできなかったと思うんですよね。最初は猟とか収穫を喜ぶようなリズムを取ったり、嬉しさを共有する音階の無い叫びみたいなものだったり、あんなものから音楽が始まってるんですよね。
どんどん多岐にわたる3人のトーク!まだまだ続きます!!
第1回はこちら:【テイダン】土岐麻子×新宅広二×天明晃太郎:テーマ「動物と教育」第1回
第2回はこちら:【テイダン】土岐麻子×新宅広二×天明晃太郎:テーマ「動物と教育」第2回
(C)Paravi
- 1