動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中のオリジナル番組『世界の美しい椅子』、『美しい椅子と女たち』。この番組は、"椅子と美女"をコンセプトに名作と呼ばれる椅子と注目の女優4人を最新高画質カメラで撮影、アカデミックかつアートな映像に仕上がっている。そこで本編には入りきらなかった "名作椅子の隠されたストーリー"を4回にわたって解説する。

空港やホテルで旅人を迎える
デザインアンバサダーとしての椅子

個人的に、はじめての北欧となったデンマーク・コペンハーゲンのカストラップ国際空港に降り立ったときのこと。到着口を出ると、ガラス張りの建物のなかは高緯度の北欧ならではのやわらかな光に包まれ、目の前にはポール・ケアホルムの名作椅子「PK22」が並んでいた。ステンレススチールのフレームにレザーを張ったシャープで緊張感のある意匠は、パブリックなスペースにふさわしく、また、あらためてデンマークのデザインのレベルの高さを実感した瞬間だった。

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それからしばらく経ってから、コペンハーゲン中央駅からほど近い「SASロイヤルホテル(現ラディソンコレクションロイヤルホテル)」(1960年完成)を訪れた。このホテルの設計を手がけたのは、20世紀のデンマークの巨匠、アルネ・ヤコブセンである。さらに彼は、家具から照明器具、テキスタイル、建具などまでを手がけている。完璧主義者と称されたヤコブセンの真骨頂といえるだろう。

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ロビーに足を踏み入れると、昼間の喧騒から遮断された、落ち着きのある空間が広がっていた。すぐにそこに置かれた存在感のある2種類の美しい椅子に気づいた。ひとつが「スワン」、もうひとつが「エッグ」という名前の椅子である。スワンはエッグに比べると小ぶりで、旅の仲間とこれからの旅のプランを相談したりするのに最適な椅子だ。一方のエッグは身体をすっぽりと包み込んでくれるような、名前の通り、卵型のオーガニックな曲線を描く椅子だ。こちらは、長旅の疲れを癒したり、考えごとをしたり、待ち人が来るのを待ったりと、ひとりの世界に浸りたいときに向いている。そのうち、ウトウトしてしまうこともしばしばだ。

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ホテルのためにデザインされた椅子といえば、日本にも誇るべき椅子がある。SASロイヤルホテルと同じ年、1960年に開業した「ホテルニュージャパン」のラウンジのためにデザインされた「籐丸椅子」だ。籐を材料に、ていねいに編み込んで形作られた幅広の椅子は、大柄な外国人の身体もしっかりと受け止めることができる。ちなみに、剣持勇のデザインによるこの椅子は、日本の家具としてはじめてニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに選定された椅子としても知られる。

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エッグしかり、籐丸椅子しかり、ホテルで使われる椅子としての機能性、実用性を持ちながら、デンマークおよび日本のデザインのアンバサダーとしての役割を果たした有名な椅子なのだ。

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#1「パントンチェア」 #2「Yチェア」 #3「アップ5&アップ6」 #4「藤丸椅子」 #5「ドムスチェア」 #6「エッグチェア」 #7「ヒルハウス,1」 #8「 Aチェア」

日本文藝家協会会員。1972年生まれ。デザイン、インテリア、北欧などのジャンルの執筆および講演を中心に活動中。著書に「ストーリーのある50の名作椅子案内」(スペースシャワーネットワーク)、「北欧とコーヒー」(青幻舎)などがある。